要旨

「ディスインフレ列車」に乗って:利上げはこれで終わり?

雇用統計とISMサービス業指数が米景気の減速を示す

グローバル株式市場では、先週開催されたFOMCが「ハト派的な」利上げの休止を決めた後、雇用統計とISMサービス業指数が市場予想を下回って弱かったことで、株価・債券価格が有意に上昇しました。

米国の実質総賃金の伸びが足元で鈍化した公算

これまでの米国の民間消費の強さは、実質総賃金の伸びによってけん引されてきましたが、10月は雇用統計が弱めの内容になったことで、この伸び率が鈍化した可能性が出てきました。

短期的には長期金利低下・株価回復の可能性

今後、民間消費や設備投資の減速による需要の鈍化がインフレ率の緩やかな低下をもたらすことで、金融市場ではFRB政策のハト派化が織り込まれ始め、それが米長期金利の低下につながっていくとみられます。グローバル株式市場では、短期的には、業績悪化による株価押し下げの圧力を、FRBのハト派化への期待感による株価押し上げ圧力が上回る形で株価が上昇する可能性が高まっています。その際には、グロース株が先導する形になると見込まれます。

雇用統計とISMサービス業指数が米景気の減速を示す

 グローバル株式市場では、先週開催されたFOMCが「ハト派的な」利上げの休止を決めた(当レポートの先週号「11月FOMC=「ハト派的な」利上げ休止」ご覧ください)後、雇用統計とISMサービス業指数が市場予想を下回って弱かったことで、株価・債券価格が有意に上昇しました。米国株式市場では、S&P500種指数とNASDAQ総合指数のFOMC前日(10月31日)から直近(11月7日)までの上昇率は、それぞれ、4.4%、6.1%に達しました。11月1日におけるFOMC後のパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の発言がこれまでよりもややハト派的であり、今後の景気減速を示唆するものになったことが、FRBのタカ派的な金融政策に対する警戒感を緩めることになりました。

 具体的には、11月3日に公表された10月分の米雇用統計では、今後のインフレの動きを見通す上で注目されていた賃金上昇率が前月比で0.2%と市場予想を下回ったうえ、非農業部門の雇用者増加数も市場予想を下回る15万人にとどまり、景気の減速と今後のインフレの鈍化を強く印象付ける内容となりました。また、同日発表された10月分米ISMサービス業景況指数も市場の事前予想よりも低い51.8ポイントを記録し、9月の53.6ポイントから低下しました。

 これらの重要統計が米国景気の減速を示唆する内容となったことで、米国金融先物市場が織り込む2024年末時点のFFレートは10月31日の4.67%から、直近(11月7日)には4.43%にまで低下しました。一方、10年米国債利回りは4.93%(10月31日時点)から4.57%(11月7日)へと低下しました(図表1)。長期金利がこうして低下したことが、株式市場において特にグロース株のパフォーマンスにプラスに寄与することになりました。

グローバル金融市場の地合いが変化?

米国の実質総賃金の伸びが足元で鈍化した公算

 これまでの米国の民間消費の強さは、実質総賃金の伸びによってけん引されてきましたが(この点については当レポート先週号で触れたように、パウエルFRB議長も指摘しています)、10月は雇用統計が弱めの内容になったことで、この伸び率が鈍化した可能性が出てきました

 インフレ率(PCEデフレーター)の伸び率が未公表であることから、現時点では2023年10月分の伸び率を計算することはできませんが、仮にPCEデフレーターの前年同月比での上昇率を、前月(9月)と同様の3.4%とすると、10月の実質総賃金の前年同月比での伸び率は1.5%と、9月の2.1%からかなり減速したことになります(図表2)。この減速をもたらしたのは、名目賃金上昇率の伸びの鈍化と失業率の上昇でした。個人ローンの金利が直近で大きく上昇し、かつ、金融機関の貸出態度が徐々に厳格化の度合いを強めているとみられることを踏まえると、マクロ所得の減速の中、10月は民間消費の伸びが鈍化した可能性が高いと考えられます。

グローバル金融市場の地合いが変化?

短期的には長期金利低下・株価回復の可能性

 今後は、米国景気の強さにさらに陰りがみられる状況となり、それがグローバル金融市場における地合いを変化させていくと予想されます。実質総賃金の増加ペースは、ある程度の振れを伴いながらも、さらに鈍化する公算が大きいとみられます。振り返ってみると、夏場以降は、FRBの高金利政策が長期化するとの懸念が強まり、長期金利の上昇基調が継続してきたことで、債券投資家は「債券価格は下げ止まらないのでは」という恐怖感を抱き、それが長期金利の上昇をもたらすという展開が続いてきました。今後、民間消費や設備投資の減速による需要の鈍化がインフレ率の緩やかな低下をもたらすことで、FRB政策のハト派化が織り込まれ始めるとみられます。それが債券投資家の間での「恐怖感」を薄れさせ、米長期金利の低下につながっていくとみられます

 景気が悪化する可能性が高まることは、それ自体としては、株価押し下げ要因となります。しかし、米国株式市場では、景気減速によるある程度の業績悪化は、既に現在の株価に織り込まれているとみられます。短期的には、業績悪化による株価押し下げの圧力を、FRBのハト派化への期待感による株価押し上げ圧力が上回る形で、株価が上昇する可能性が高まっています

 一方、米国景気が実際に悪化する中では、景気敏感株には関心が集まりにくくなることから、今後の短期的な株価上昇を先導するのは、グロース株になる可能性が高いと考えられます。景気悪化の中でも、事業活動において何らかの強みを有する企業は、足元での利益の好調さや将来の成長性に対する期待が高まることが多く、そうした銘柄を選別して投資することがこれまで以上に重要になると見込まれます。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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