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(画像=株式会社エンパワー)
増井 俊介(ますい しゅんすけ)
株式会社エンパワー代表取締役
1973年9月28日、大阪府出身。神戸学院大学法学部卒業後、大手通信会社に入社し、都市部を中心に営業を担当。関連会社の代表就任を経て、2011年、コールセンター事業を起業。その後、売却。
2016年、株式会社エンパワー代表取締役に就任。2021年、著書『学歴なし、人脈なしなら、社長になれ! 』を出版。
株式会社エンパワー
2010年10月設立。東京都新宿区に拠点を置き、全国850店舗以上(2024年1月現在)を展開する「買取大吉」を企画・運営する。直近5年で業容は10倍以上に成長し、前期売上は450億円。「買取専門店といえば『大吉』」と親しまれる同業界ナンバー1ブランドを目指し、事業の強化を進める。

社⻑のこれまでの変遷について

新卒で入社した大手通信会社で営業担当として仕事に打ち込み、その後関連会社の代表取締役となりました。それまで、私は家族やプライベートを犠牲にして休みなく働いていたのですが、ふとこれまでの人生を振り返った際に、もっと家族との時間を大切にしようと決心し、一度会社を休職して、実家に戻り両親と過ごすことにしました。その後1年ほど経った頃、エンパワーの創業者であり、かつての後輩から、副社長として働いてほしいとのオファーを受けました。私にとってリユース業界・買取専門店事業は未知の世界でしたが、潜在市場に興味を引かれ、またエンパワーは私が以前経営していた会社と取引関係だったという縁もあったため、これを承諾しました。

ところが出社初日、私に声をかけてくれた創業社長が辞意を表明してしまいました。副社長で来たつもりが、急遽社長として会社を継承することになりました。驚きや戸惑いはもちろんありましたが、その場で即断即決し、社長を引き受けることにしました。

社長に就任した際の状況は実質的には赤字経営でしたが、社内にそれが共有されておらず、幹部層をはじめとして危機感が全くない状況でした。また人事制度についても、完全にお気に入り人事で、評価が数字や結果に基づいていない状況でした。これではいけないと感じ、徹底的な改革を決意しました。そこで、まずコストカットを行い、幹部に対するボーナスを全カットしました。次に、責任者の育成に着手しました。当時、社内には250名ほどの従業員がいましたが、新しい責任者を引っ張り上げるためには、優秀な人材を発掘する必要がありました。そこで、全国を回って従業員店舗に立つ従業員に私の考えを伝える会を開いていました。その結果、優秀な人材を見つけ、責任者に抜擢しました。これらの施策により、徐々に従業員のマインドが変わり、エンパワーも変わっていったと感じています。現在は、業界ナンバーワンを目指しています。

株式会社エンパワー
(画像=株式会社エンパワー)

社⻑の⼀番感銘を受けた書籍とその理由

私が一番感銘を受けた本は、宮城谷正光の『孟嘗君』です。この書籍には、商鞅や孫子など歴史上の有名人が活躍し、読み物としても非常に面白い。中国の春秋戦国時代は現在のビジネスシーンにとてもよく似ているので、この時代の歴史小説には多くの学びを得ています。

春秋の五覇、戦国の七雄と呼ばれる“盟主”と、それに連なる100以上の小国が群雄割拠した春秋戦国時代。それを統一したのが秦の始皇帝ですが、それは秦が法治国家として強固な国家基盤を作ったからに他なりません。そして、それは商鞅(書籍の中では、公孫鞅)による政策があったからです。公孫鞅が、秦を改革する様は、まさに企業風土の変革と同じです。旧態依然とした考え方や既得権益、改革を阻む抵抗勢力との戦い。リーダーとしての気概、胆力を思い知らされました。

孫子の兵法で有名な孫臏が軍師として戦う部分は正に痛快。ああ、このように戦略を実行してビジネスに成功を納められたら、どれほど痛快だろうとわくわくします。

この書籍の前半の主役は、孟嘗君の育ての親である風洪(のちの白圭:中国の大商人)ですが、人間性行動力で、内外の人を魅了し、全てを仲間に巻き込んでいくリーダーシップには、オーナーや社長として至らぬ自分を憂いつつも目指すべき理想像があります。

読んだ書籍をどう仕事に⽣かしてきたのか

本書を具体的に経営に活かしてきたこととして、私が人事抜擢・従業員評価制度を改革した際の出来事が挙げられます。

この書籍は、リーダーとしてどう考え行動するべきか?という事が観念的ではなく具体的に示唆してくるところがあり、割と多くの施策を本書と照らし合わせてきたように思います。その中で特筆すべきことを、ご紹介します。

公孫鞅が仕官するストーリーの中で、『君主というのは、三つの要素で成り立っている。(中略)勇気と思いやりと決断力である(第1巻p226)』という部分があります。まず、ここでの勇気とは、今までのやり方や戦略を“辞める”勇気だと私は解釈しています。リーダーには、いわゆるサンクコストを回避するための意思が必要不可欠です。次に、思いやりとは、本質的に従業員や顧客を思う心のことだと思います。一見社員のためになることでも、それは真の思いやりではなく、甘やかしになったりする可能性があります。何が従業員と顧客のためかを徹底して追求しなければ、それは思いやりではありません。最後に、決断力とは、常識や偏見に囚われずに決意し実行することだと解釈しています。

突然に会社を引き継いだ私は、それまでの幹部に迎合することなく風土改革を行ったので全ての幹部社員が離れていきました。そこには大いなる勇気が必要でした。前社長の施策にはフランチャイジーにとても有利に見えるサポートがありました。しかし、それは経営者たるべきフランチャイジーを甘やかし将来を暗くするものであるとして撤廃し、本当に経営者として足許を固められるサービスに変えました。それが、本当の思いやりだと思ったからです。

コロナ禍の最中、年功序列を一掃し、入社2年にも満たない若手社員を取締役に抜擢し、それまでの取締役には退いてもらいました。その後エンパワーは業績を伸ばし、4年で10倍近い成長をしています。この決断に至るまでに数日眠れぬ日が続きましたが、それが現在のエンパワーにつながったと思っています。

今後取り組んでいきたいこと

株式会社エンパワー
(画像=株式会社エンパワー)

『買取大吉』は、現在850を超える店舗(2024年1月現在)を全国に展開しています。リユース業界を牽引する立場になったわけですが、そうであれば余計に、会社としての人格が重要であると思っています。自分たちだけが儲かればよいという事ではなく、お客様はもちろん、同業他社においてもビジネスとしてはしのぎを削り合いながらも、ともに業界を成長させていく仲間として共栄したい。まさに風洪や孟嘗君のような生き様を当社は実行したいと思っています。そのためにも、当社は人材採用に力を入れていきます。学歴などに囚われるのではなく失敗を成功に変えられる人間性豊かな人材を広く集める。その社員たちが楽しく存分に活躍できる環境を用意する。私の使命は、そういったところにあると思っています。

本当に有能な人物であれば、年齢や経験に関係なく抜擢するべきだと決断して、入社2年足らずの従業員を役員に抜擢し、それまでの役員には退任してもらうといった改革も、この決断力があったからこそできたことだと今では実感しています。

氏名
増井 俊介(ますい しゅんすけ)
会社名
株式会社エンパワー
役職
代表取締役