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(画像=株式会社わかば)
杉本修康(すぎもと のぶやす)
株式会社わかば  代表取締役社長
1987年、神奈川出身。薬剤師国家試験に合格後、渡米。University of La Verne大学院に進学し、MBA(経営学修士)を取得。 その後、マーケティングコンサルや医療機器の貿易商社など数社を経験。
2017年、株式会社わかばに入社し、保険薬局の価値最大化を目指す。翌年、株式会社フルタイズを創業、代表取締役に就任。
2022年、株式会社わかば 代表取締役社長に就任。
株式会社わかば
神奈川県を中心に保険薬局を48店舗展開。1997年から高齢者介護施設での在宅医療に携わり、チーム医療に参加。患者さまの健康を支え、地域と密接に連携する保険薬局のモデル「スマートファーマシー」の実現に取組み、すべての患者さまに最適化された医療の提供に努めている。 昨年に国際事業部を設置。日本の高品質な医療そのものを海外へ輸出し、薬局の50年先をつくる事業を展開。 来年度の日本薬局学会学術総会の主幹を務めるなど、薬局の本質的な価値を訴求する活動にも精力的に取り組んでいる。

貴社のこれまでの事業変遷と組織拡大の沿革

当社は1989年に私の父が創業し、2022年の6月末に私が代表に就任しました。私は大学で薬学部を卒業した後すぐに渡米しました。帰国後、すぐに父の会社で働き始め、翌年には株式会社フルタイズを設立し、大阪の会社を買収する形で大阪に進出し、現在は保険薬局を9店舗展開しています。そして2022年に当社の代表に就任し、わかばグループとして全体的な運営を始めました。 最近では、私たちは基本的な成長戦略として「NEXT20」と「NEXT50」という2つの柱を打ち出しています。 「NEXT20」は、2042年まで高齢人口が増え続けることを見据えて、増加する医療需要に対し、差別化した価値で応える為の戦略です。 2043年以降は高齢人口もついにピークアウトし、全世代の人口が減少すると推計されています。薬局のメインターゲット層である高齢者人口が減少していく中、薬剤師は誰に医療を提供していくべきなのでしょうか?この課題に対して答えを持たなければ、新卒雇用に対する責任を果たせないと考えています。そこで、「NEXT50」という次の50年を見据えた企業戦略をつくり、計画に沿って行動開始しています。

薬局は従来の立地ビジネスから脱却し、患者様に選ばれる為、価値ある体験を提供することが求められています。また、ドラッグストアなど異業種からの参入もあり、競争が激化しています。そこで、我々は基本成長戦略として「在宅医療」と「スマートファーマシー構想」に注力した企業戦略「NEXT20」を打ち出しています。 現在、高齢人口が増加するにつれ、「在宅医療」のニーズが高まっています。わかばでは1997年から介護施設の在宅医療に取り組み、今では7,500人以上の患者様を支える、業界でもトップクラスの在宅医療を提供しています。

「スマートファーマシー構想」では、外来調剤に対するアプローチとして、薬局単位でSNSを活用して地域のコミュニティに刺さる情報を発信しています。これにより、新規の患者様が自分に合った薬局を見つけやすくなります。さらにオンラインやオフラインの両面で患者様に対して価値を提供していくことを目指し、「個別最適化」をキーワードに新しい医療体験を提供しています。 患者様に価値ある医療を実現するためにはSNSを活用した服用期間中のフォローアップを徹底的に行い、患者様と常に繋がっている関係性を築くことが大切です。

これにより、対面でのコミュニケーションの質も向上し、医師も知り得なかった副作用や現治療に対する満足度などの重要な情報が入手できるようになっていきます。そして、収集した一次情報をトレーシングレポートという仕組みで医師に提供するとともに、具体的な薬物治療の提案もします。そうすることでだんだんとその患者様に最適な治療方針へと変わっていきます。医師との信頼関係があることが前提ですが、薬剤師の情報を起点に、患者様の満足度が高い治療を実現していくことで、今まで以上に価値ある医療体験を提供していきたいと考えています。

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これまでぶつかってきた組織課題

薬局業界は非常にコンサバティブで、デジタル化がほとんど進んでいない業界です。 最近では政府も電子処方箋といった新しい座組みを推進するなど、デジタル化へのさまざまな動きが興っていますが、私は2019年の夏頃から、薬局現場のDXを進めたいと考えていました。自分が代表になってから社内のDXを進めるのでは遅すぎると危機感を持っていたので、2020年にコロナが蔓延したタイミングで一気に進めることにしました。 具体的には、薬剤師1人ひとりが患者様に対して価値ある服薬指導ができるようなサポートができるシステムの導入。そして、その時にどのような服薬指導をしたか、それにかかっている時間がどれくらいかなど、個人のパフォーマンスを可視化できるシステムも導入しました。これによって、薬局の現場仕事が遠隔からでも可視化できるようになり、課題が発見しやすい環境を整えました。

また、来局された患者様を条件ごとにリスト化できるようにしました。 これにより、いつも予定の来局日から遅れてしまう患者様に対して、適正な来局間隔を告知し、来局を促すことができます。結果的に私たちは、DXの土台を作り上げるために2、3年で1億5000万円ほど投資しましたが、これによって多くの改善ができました。

社長が考える、今の時代に必要な従業員との向き合い方

私は人的資本経営において、従業員の評価制度やその評価に紐づいた給与を支払う体系がとても重要だと考えています。 現在、当社では評価制度の改革が進行中で、2024年の4月に新しい評価制度が完成する予定です。人的資本経営では人材の育成が重要であり、投資対効果を見極めながら様々な教育分野に投資をすることが必要です。

従業員に求める明確なアウトプットを考えた上で、逆算してどのような教育領域に投資を行うかを検討し、その後、実際に出たアウトプットを正しく評価する評価制度が必要だと思っています。実際、薬剤師の業務の仕方や求められる価値も変わってきています。今後は、薬剤師がデジタルツールを使って患者様へのパフォーマンスレベルを上げていく考え方が必要です。そのようなデジタルスキルに対する教育投資と、そのパフォーマンスを正しく評価できなければならないと考えています。

従業員の価値(人的資本)向上に向けて取り組んでいることやこれから取り組もうと思っていること

これから注力していきたいことが2つあります。 まずはデータをもとに、患者満足度の高い医療を提供できる人材を育成することです。例えば、当社の外来患者さんの20%は来局予定日よりも遅れて来局しており、それには、薬をちゃんと飲まなかったり、治療に対して前向きでないことが起因しています。遅延した患者さんの平均来局遅延日数は11.3日で、予定通りの来局間隔で来る患者様よりも年間で3.8回来局回数が少なくなります。これが当社では年間2億円弱の売上減につながっています。このようなデータをもとに、従業員一人ひとりが、自分の行動が患者様のどんな行動に繋がるかを理解し、患者満足度を高める医療体験をどう提供するかを考えさせています。

さらに、海外進出を検討している当社にとって、薬剤師が国際人材としてのスキルセットを獲得していくことが重要だと思っています。日本の薬剤師は、語学力や文化理解などの国際人材として必要なスキルが不足しています。 そこで、リスキリングとして、従業員に英語教育の機会を提供することを今後考えていきます。具体的には、来年から英語の保育園事業を始めて、そのノウハウを薬剤師の英語教育にフィードバックしていく予定です。これによって、従業員の価値向上を図り、より良質なコンテンツを提供できるよう努めてまいります。

今後の展望と従業員への期待について

今後新しい事業を展開していく中で、昔と求められているものが変わり、チャレンジしなければいけない分野が増えていると感じています。患者さんとのコミュニケーション方法ひとつ取っても多様化しており、対面なのか非対面なのか、非対面の中でもZoomなのかテキストなのか、テキストであればメールなのかSNSなのかといったように選択肢が増えています。さらに、AI技術の進歩からチャットボットは高性能になり、スクリーニング機能を組み合わせた効率的な問題発見方法も登場しており、薬剤師は薬学的知識だけでなく、様々な技術を活用できる幅広い知識が求められるようになっています。

会社としては、成長する機会を与えることができますが、それを受け取るのも拒むのも各個人次第です。今一緒に働いている従業員には自ら新しいことを学んでいく姿勢を今まで以上に持ってもらい、様々な変化に共に立ち向かっていきたいです。医療費削減の政治施策により、不確実性が年々増していく医療市場だからこそ、チャレンジ精神を持った人財は宝物だと感じています。

氏名
杉本修康(すぎもと のぶやす)
会社名
株式会社わかば
役職
代表取締役社長