この記事は2024年2月16日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「38年ぶり阪神日本一の裏にあった得点力アップの秘策」を一部編集し、転載したものです。


38年ぶり阪神日本一の裏にあった得点力アップの秘策
(画像=ukokkei55/stock.adobe.com)

(NPB公式サイト)

阪神タイガースは、2023年シーズンに38年ぶりとなる日本シリーズ制覇を成し遂げた。その要因として挙げられるのが投手力であり、防御率はセ・リーグで唯一の2点台だった。

優秀な投手陣の陰に隠れているが、攻撃陣もセ・リーグチーム得点数1位で優勝に大きく貢献した。ただ、その印象が薄いのは規定打席に到達した打者の中で打率3割を超えた選手がおらず、かつ、チーム本塁打もリーグ5位の84本しか打っていないことに起因しているように思う。

それでもこれだけの得点を生み出したのは「四球数」の多さと、「出塁率」の高さによるものだろう。チーム四球数はリーグでダントツの494(図表)。リーグ平均386に比べて100以上多かった。22年シーズンの阪神の四球数が358なので、チームとしても23年は大幅に四球数が増加したことが分かる。

四球数が大きく増加した要因については、シーズン中に行われた岡田彰布監督へのインタビューで語られた言葉にヒントがあった。「開幕の前の日に球団に『フォアボール(四球)の(査定)ポイントを上げてくれ』って言うたんですよ」。

実際に四球の査定ポイントを1.0から1.2に上げたようで、一見すると微増程度に見える。しかし、四球を選ぶことが給料増加に反映されれば、各選手のモチベーションアップにつながったかもしれない。

しかし、「四球の査定ポイントを上げる」と言われただけで、ここまで急激に四球数が増加するものだろうか。ここで筆者は一つの仮説を述べたい。それは「四球の査定ポイントアップ」だけでなく「見逃し三振のマイナス査定の廃止」も提案したのではないかということだ。

実は、見逃し三振の査定を見直して実績を残した事例がある。11年11月に読売ジャイアンツの1軍戦略コーチに就任した橋上秀樹氏(現オイシックス新潟アルビレックスBC監督)は、チームの得点力が低い一因として、見逃し三振を恐れてボール球に手を出す主力打者が多いことを挙げた。

それを是正するために「自分の感覚で低めのストライクゾーンに来た球は、一切手を出さないでくれ。そこでストライクが来たら仕方ない」と指示した。その結果、総三振に占める見逃し三振率は上がった一方、四球数は323から455へ増加し、得点も471から534に向上した。これを機に巨人は12年からリーグ3連覇を果たしている。

阪神の場合も、見逃し三振数は22年の232から23年に325と増えている。これはチームの戦略による副産物であり、得点力アップに一役買っている。岡田監督は、インタビューの内容からも柔軟な思考の持ち主であることが伝わってくる。そのため、見逃し三振を認める指導があったのではないかと思う。

38年ぶり阪神日本一の裏にあった得点力アップの秘策
(画像=きんざいOnline)

江戸川大学 客員教授/鳥越 規央
週刊金融財政事情 2024年2月20日号