この記事は2024年7月23日に「The Finance」で公開された「金融DX最前線:地銀DXの最新事情を紹介」を一部編集し、転載したものです。


本記事では地銀(地方銀行)のデジタルトランスフォーメーション(DX)について詳しく解説します。地銀DXは、地域経済の活性化や競争力の向上に寄与する重要な取り組みです。地銀DXの現状や背景、具体的な事例について見ていきましょう。

目次

  1. 地銀とは?
  2. 地銀DXの現状
    1. 地銀DXが求められる背景
    2. 地銀DXの種類
  3. 地銀DX事例3選
    1. 横浜銀行の取り組み
    2. 福岡銀行のDX事例
    3. 山口銀行のDX事例
  4. まとめ:今後の展望と期待

地銀とは?

金融DX最前線:地銀DXの最新事情を紹介
(画像=WhoisDanny/stock.adobe.com)

地方銀行、通称「地銀」とは、日本国内の特定の地域に根ざし、地域住民や地域企業を主な顧客とする銀行です。
地銀は地域経済の発展に寄与することを目的としており、地元の中小企業や個人に対して融資や各種金融サービスを提供しています。地銀の役割は、地域の経済活動を支えることであり、地域社会の金融インフラとしての重要な役割を果たしています。

<全国地方銀行協会に登録のある地方銀行一覧 全62行> 
北海道

北海道銀行
東北
青森銀行・みちのく銀行・岩手銀行・東北銀行・七十七銀行・秋田銀行・北都銀行・荘内銀行・山形銀行・東邦銀行
関東
常陽銀行・筑波銀行・足利銀行・群馬銀行・武蔵野銀行・千葉銀行・千葉興業銀行・きらぼし銀行・横浜銀行
甲信越
第四北越銀行・山梨中央銀行・八十二銀行
北陸
北陸銀行・富山銀行・北國銀行・福井銀行
東海
大垣共立銀行・十六銀行・静岡銀行・スルガ銀行・清水銀行・百五銀行・三十三銀行
近畿
滋賀銀行・京都銀行・関西みらい銀行・池田泉州銀行・南都銀行・紀陽銀行・但馬銀行
中国
鳥取銀行・山陰合同銀行・中国銀行・広島銀行・山口銀行
四国
阿波銀行・百十四銀行・伊予銀行・四国銀行
九州
福岡銀行・筑邦銀行・西日本シティ銀行・北九州銀行・佐賀銀行・十八親和銀行・肥後銀行・大分銀行・宮崎銀行・鹿児島銀行
沖縄
琉球銀行・沖縄銀行

参照:一般社団法人全国地方銀行協会「地方銀行一覧」

地銀DXの現状

地銀DXが求められる背景

地銀はDXを積極的に推進せざるを得ない状況に直面しており、その背景にはいくつかの要因があります。

要因 詳細
地域経済と人口減少 地域経済の縮小と人口減少により、特に地方都市や過疎地域で顧客層が減少し、地銀の収益基盤が弱体化。
デジタル化の進展 金融業界全体でデジタル化が進展し、大手銀行やネット銀行が先進的なデジタルサービスを提供。地銀も同様のサービスを展開する必要がある。
新型コロナウイルスの影響 パンデミックにより対面での取引が制限され、非接触型のデジタルサービスへの需要が急増。迅速な対応が地銀の存続と成長に重要となる。
規制環境の変化 金融庁などの規制当局がDX推進を強く求めており、地銀もセキュリティ強化やコンプライアンス対応を含むデジタルインフラの整備を急ぐ。
顧客ニーズの変化 若年層を中心に便利で迅速なデジタルサービスを求める声が高まり、地銀は顧客体験の向上に焦点を当てたDX戦略を構築する必要がある。

以上の背景から、地銀がDXを推進することは、単なる選択肢ではなく、必然となっています。地域経済の活性化や顧客満足度の向上、そして持続可能な成長を実現されることが求められます。

地銀DXの種類

地銀DXにはさまざまな種類があり、それぞれが異なる目的と手法で進められています。

  1. 業務効率化を目的としたDX
    デジタル技術を活用して紙ベースの手続きをオンライン化したり、AIや機械学習を使って顧客データの分析を行い、より迅速で効率的なサービス提供を実現する取り組みが含まれます。例えば、ローン審査プロセスの自動化や、顧客サポートのチャットボット導入などが該当します。
  2. 顧客体験の向上を目指したDX
    地銀が新しいデジタルチャネルを導入し、顧客がスマートフォンやパソコンを使って手軽に金融サービスを利用できるようにすることが含まれます。モバイルアプリやオンラインバンキングの強化、さらにはキャッシュレス決済の導入がこれに当たります。これにより、地銀は若年層を含む新たな顧客層を取り込むことが可能となります。
  3. 地域とのつながりを強固にするためのDX
    地域の中小企業や商店街と連携し、デジタルプラットフォームを提供することで、地域全体の経済活動をサポートする取り組みです。例えば、地域通貨やポイントシステムの導入、地域イベントのオンライン化などが考えられます。このような取り組みは、地域社会との深い結びつきを持つ地銀ならではの強みを活かすものです。
  4. セキュリティ強化を目的としたDX
    金融機関としての信頼性を維持するために、最新のセキュリティ技術を導入し、サイバー攻撃から顧客のデータを守ることが求められます。生体認証システムの導入や、ブロックチェーン技術を使った取引の透明性向上などが具体例です。

これらのように、地銀DXには多岐にわたる取り組みが存在し、それぞれが地銀の競争力を高め、顧客満足度を向上させるための重要な手段となっています。

地銀DX事例3選

地銀DXの取り組み事例を3選紹介します。

横浜銀行の取り組み

①業務効率化を目的としたDX

  • RPAを活用した行内の業務効率化推進
  • 「クイックカウンタATM」によるセミセルフ窓口の導入
  • TV窓口の設置、次世代型営業店タブレット端末「AGENT」の高度化
  • 来店予約サービスの導入
  • 非対面取引の拡大(住所変更、税金・各種料金の払込み、お振込み、口座開設)
  • 「ハマシェルジュオンラインサービス」による非対面取引のサポート
  • 法人のお客さま向け非対面機能「ビジネスコネクト」の提供

②顧客体験の向上を目指したDX

  • スマホアプリ「はまぎん365」の提供
  • 法人のお客さま向け非対面機能「ビジネスコネクト」の提供
  • 「はまぎんアプリ」のリニューアル
  • 「はまPay」によるスマホ決済サービス
  • 「ことら送金サービス」の提供
  • 「請求書払い」における「ことら税公金」の取り扱い開始

③地域とのつながりを強固にするためのDX

  • 地域社会のキャッシュレスの促進
  • 「はまPay」による多頻度小口決済のための新たな決済インフラ「ことら送金」への参加
  • 「ことら送金サービス」の提供

④セキュリティ強化を目的としたDX

  • ITインフラの高度化(勘定系システムのモダナイゼーション)
  • 勘定系システムのクラウド化
  • システム全体のクラウド化
  • デジタル戦略実現のための体制(戦略的な投資コントロール)

以上のように、横浜銀行は、顧客体験向上と業務効率化のため、スマホアプリ「はまぎん365」のリニューアル、法人向けポータルサイト「ビジネスコネクト」の機能拡充、キャッシュレス決済「はまPay」の推進など、デジタルサービスを強化しています。また、次世代型店舗への移行や、営業融資サポートシステムの導入など、業務効率化と顧客とのリレーション強化にも取り組んでいます。

<参照>
コンコルディアフィナンシャルグループ「DX(金融デジタライゼーション)の推進」

福岡銀行のDX事例

①業務効率化を目的としたDX

  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入による業務自動化
  • AI-OCRの活用による帳票入力の効率化
  • クラウドサービスの導入によるシステム基盤の刷新
  • 「FFGビジネスコンサルティング」によるDX支援サービスの提供

②顧客体験の向上を目指したDX

  • スマートフォンアプリ「Wallet+(ウォレットプラス)」の開発と機能拡充
  • オンライン完結型住宅ローン「スマ住む」の提供
  • AI チャットボット「FFGアシスタント」の導入
  • 「FFGデジタルバンク」の設立によるデジタルサービスの強化

③地域とのつながりを強固にするためのDX

  • 「ふくおかAI・DXスクール」の開催によるデジタル人材育成支援
  • 「ONE FUKUOKA」プロジェクトへの参画による地域のDX推進
  • 「FFGベンチャービジネスパートナーズ」を通じたスタートアップ支援
  • 「FFGアグリサポート」による農業DX支援

④セキュリティ強化を目的としたDX

  • AI技術を活用した不正検知システムの導入
  • 生体認証技術の活用によるセキュリティ強化
  • クラウドセキュリティの導入によるデータ保護の強化
  • サイバーセキュリティ対策の強化と専門人材の育成

<参照>
2022年4月~2025年3月ふくおかフィナンシャルグループ第7次中期経営計画
プレスリリース「ふくおかフィナンシャルグループ、DX推進を担う部門においてBacklog、Nulab Passを導入しコミュニケーションの円滑化やセキュリティの向上に成果」
ふくおかフィナンシャルグループ新卒採用サイト「デジタル技術の活用」

銀行内の業務プロセス・意思決定方法・お客さま向けサービスなど、デジタル技術を活用してビジネスそのものを根本的に改革していくことを目的に、 FFGではDXを通して「既存ビジネスにおけるサービスの高度化」、「未来の銀行像を追求する」さまざまな取組みにチャレンジしています。

山口銀行のDX事例

①業務効率化を目的としたDX

  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入による業務自動化
  • AI-OCRの活用による帳票入力の効率化
  • 「YMFG ZONEプラニング」によるデジタル戦略の推進
  • クラウドサービスの導入によるシステム基盤の刷新

②顧客体験の向上を目指したDX

  • スマートフォンアプリ「Wallet+(ウォレットプラス)」の開発と機能拡充
  • オンライン完結型ローン商品の拡充
  • AI チャットボットの導入によるカスタマーサポートの強化
  • デジタルバンキングサービスの拡充

③地域とのつながりを強固にするためのDX

  • 「YMFG ゆめぷらざ」を通じた地域企業のDX支援
  • 「YMビジネスサポート」によるビジネスマッチング支援
  • 「Y-アクセラレータプログラム」を通じたスタートアップ支援
  • 地域通貨「YUCA(ユーカ)」の展開による地域経済の活性化

④セキュリティ強化を目的としたDX

  • AI技術を活用した不正検知システムの導入
  • 生体認証技術の活用によるセキュリティ強化
  • クラウドセキュリティの導入によるデータ保護の強化
  • サイバーセキュリティ対策の強化と専門人材の育成

<参照>
YMFG中期経営計画2022の概要
プレスリリース「『地銀課題解決DXコンソーシアム』参画について」

これらの取り組みを通じて、山口銀行はデジタル技術を活用した業務効率化、顧客サービスの向上、地域経済の活性化、そしてセキュリティの強化を図っています。特に、YMFGグループ全体でのDX推進により、包括的なデジタル戦略を展開しています。

まとめ:今後の展望と期待

地銀DXは、地銀の競争力を高め、地域経済の活性化を目指す重要な取り組みです。
実際に、デジタル技術の導入と活用を進め、課題を解決するためには、組織全体の意識改革と人材育成も重要であり、デジタル技術に精通した人材を育成し、DX推進のための専門チームを構築するなど、組織全体を活性化させていくことが必要でしょう。

DX人材の育成については【金融業界必見】DX人材育成のプロセスと事例紹介にて詳しく解説しています。

これらの地銀DXの推進が進むことで、地域社会との共生にも大きな影響を与え、中小企業や地元のスタートアップ企業に対するDX支援や地域住民へのデジタルリテラシーの向上など、地銀が地域経済のデジタル化を支援することで、地域全体の活性化が図られるでしょう。

総じて、地銀DXは地銀の未来を切り拓く鍵となるだけでなく、地域社会全体の発展にも寄与する重要な取り組みです。今後も地銀DXの進展に注目が集まり、その成果が期待されます。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ