この記事は2024年8月30日に「The Finance」で公開された「拡張性のあるAIでIT変革を次のステージへ<アフターレポート>」を一部編集し、転載したものです。


2024年7月11日(木)、日本アイ・ビー・エム株式会社主催によるセミナー「Think Japan 成長か停滞か、重要な分岐点。『ビジネスのためのAI』で一歩先へ」が開催された。
信頼できる「ビジネスのためのAI」による業務変革に加え、システム開発・運用などITの高度化、サステナビリティーやセキュリティーなど経営上の優先課題へのアプローチについて、先進的な取り組み事例とともに紹介した。本稿ではセミナーの詳細をレポートする。

目次

  1. AI活用への挑戦①
  2. AI活用への挑戦②
  3. AI活用への挑戦③

AI活用への挑戦①

拡張性のあるAIでIT変革を次のステージへ<アフターレポート>
(画像=AntonyWeerut/stock.adobe.com)
【講演者】
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部 CTO 執行役員 IBMフェロー
二上 哲也 氏

企業のIT部門のお客様とお話ししていると、「AIで社内のIT環境を効率化したいがなかなか進まない」「ITエンジニアが不足している」といったお悩みをお聞きします。今後、急拡大が予想されるAIを活用したシステムの開発・高度化は、複雑化するシステム運用や先端IT人材の不足などもあり、人手での対応はさらに難しくなってきています。
そこで日本アイ・ビー・エムは2024年3月、IT部門を中心とした多くのお客様がAI活用を加速化できる「IT変革のためのAIソリューション」の提供を開始しました。同ソリューションは、運用手順を整理する「AI戦略策定とガバナンス」、および「コード生成」「テスト自動化」「IT運用高度化」「プロジェクト管理」それぞれのためのAIの計5つで構成しています。中でも今、最も引き合いが多いのが「コード生成のためのAI」です。

拡張性のあるAIでIT変革を次のステージへ<アフターレポート>
(画像=The Finance)

一番の特徴は、お客様のIT環境に合わせた生成AIの活用ができるように、IBMのAIおよびデータ・プラットフォームであるwatsonx.aiをベースに、その上に構築されているソリューションであることでしょう。IBMの各種クラウド・サービスやオンプレミスのサーバー群はもちろん、他社のクラウド・サービスでも動くため、柔軟性が高く、コストを最適化した単一のITインフラストラクチャーを作成できます。
このようなAIのためのハイブリッドクラウドの構築は、クラウドとAIの取り組みを前進させます。またこれらの環境は、迅速かつ一貫してアクセスできるオープンな統合基盤も実現します。一方で、お客様のクラウドやオンプレミス環境、実績のあるアーキテクチャー・フレームワークは様々です。そのため現在、私たちは最初から全体のセキュリティー確保や管理の容易さなどを見据えながらハイブリッドクラウドを全体最適化し構築していく「ハイブリッド・バイ・デザイン」のアプローチを提唱しています。ハイブリッドとAIは表裏一体であり、私たちはハイブリッドクラウドとAIの両面でお客様に貢献していきたいと考えます。
2024年5月、IBMは高性能でコスト効率の高いLLM(大規模言語モデル)のGranite言語モデルのオープンソース化を発表させていただきました。また、この新しいソリューションに関連してレッドハットと「InstructLab」というプロジェクトも発表させていただいており、ユーザーが容易に言語モデルをビジネスに応用できる環境を整えました。
「オープンにすることで信頼性は大丈夫か」と懸念する声もありますが、問題ございません。私たちはオープンにしてより多くの人の目でチェックすることで、信頼性が一層高まると考えます。例えば金融業、製造業など業種の壁を超えて専門用語や規制をオープンなコミュニティーを通じて基盤モデル本体に学習させ、みんなで共有していく。信頼性の高い環境の上で、多くの企業などが協働的にAIに学習させて、その成果を共有することが容易になりました。
企業のリーダー層にヒアリングしたところ、82%が「ITの複雑化が成功を妨げている」とおっしゃいます。開発環境、クラウドそのものの管理、コスト管理に加えて、社内ではすでに多くのソフトウェアや製品を使っていらっしゃる。クラウドやオンプレミスAIなどをはじめシステムが複雑化しており、全体が見えにくいのが要因の一つでしょう。このような課題に対応するために、IBM は AI を活用してアプリケーション・ライフサイクルを理解し、運用の 360度ビューを提供する IBM Concert を発表しました。
企業におけるIT変革の実現には、ITの高度化も喫緊の課題といえます。IBMにおきましては現時点において、60%の開発の効率化・高度化が実現しています。また、私たちの日本のお客様はもう90%程度のコードを自動生成しているとの事例もあります。
本セッションでは、IT変革に関する先進的な取り組みを展開されているお客様を代表して、りそなホールディングス様にご登場いただきます。また、「真にオープンなAI」実現のためにレッドハット社と進めている取り組みもご紹介します。これからもIBMは、オープンなAIを通じて様々なパートナー様と協業を進めていきたいと考えます。

AI活用への挑戦②

【講演者】
株式会社りそなホールディングス
執行役IT企画部担当 兼 ITセキュリティ統括部担当 兼 グループ戦略部(システム改革)副担当
株式会社りそな銀行
執行役員 システム部担当
片山 光輝 氏

りそなホールディングスは従来よりDXに注力し、さまざまな取り組みを進めており、そのひとつの発露である、りそな発のモバイルアプリも間もなく1000万ダウンロードに到達する見込みです。
生成AIの活用においては、社員全員が生成AIを使用できる環境を整え、資料の要約や翻訳、各種企画業務に活用しています。また、取引先企業などの融資に関する稟議書やこれに対する意見書を自動作成したり、お客様との面談については内容の音声入力から要約までを自動化したりしています。また、プログラム開発にもAIを活用する複数のPoC(概念実証)を立ち上げています。同時に、全従業員に対してAIの業務での応用を目指したeラーニングや集合研修を行い、生成AIのスキルアップを図っています。
日本全体でエンジニアの人材不足が深刻化しており、有識者の知見を若手にどう継承するかだけでなく、そもそもの担い手が減っていくという、どの企業も経験ない課題への対処が求められているといえるのではないでしょうか。これは当社も例外ではありません。
日本アイ・ビー・エム様とは、りそなデジタル・アイ様および当社の3社で生成AIを活用したシステム開発の効率化の取り組みを進めています。3社の取り組みにより、生成AIを使ったコード生成で効果が確認できたのは非常に大きな成果と受け止めており、今後さらに業務での活用に向けた深掘りを進めていきます。

AI活用への挑戦③

【講演者】
レッドハット株式会社
テクニカルセールス本部 クラウドスペシャリストソリューションアーキテクト部
アソシエイトプリンシパル
北山 晋吾 氏

当社では「Red Hat OpenShift」というコンテナ・サービスを提供していますが、近い将来IT開発担当者の仕事の50%は従来型の開発、残り50%はAIの調整になると予想しています。そして、こうした世の中が訪れた際、AIを自社のビジネスにどう適用し、学習させるのかが、競合優位性の1つに繋がると考えています。
自社のビジネスにAIを適用するという観点からは、基盤となるLLMをつくるためのデータが過剰な規制を受けず、オープン・コミュニティーに置かれているのは一つのポイントです。オープンソースとして利用データが公開されることで、その透明性、信頼性、柔軟性が出てきます。
今回IBMと共同開発したツールである「InstructLab」では、LAB(Large-scale Alignment for chatBots)というモデルチューニングの手法が採用されています。このLABは、タクソノミーと呼ばれる分類学の思考をベースに、入力したデータを、元々ラベリングされている場所に配置します。

拡張性のあるAIでIT変革を次のステージへ<アフターレポート>
(画像=The Finance)

たとえば、このデータは金融業界のもの、こちらは流通業界のものと言ったように、意味合いの近いデータを関連付けることにより質の高い回答を得ることができます。また、少ない入力データであっても、自動的に多くの関連データを合成し、拡張してくれるので、従来のカスタマイズ手法よりデータの管理や前処理が簡略化されることが特徴です。
私たちは、今後Granite言語モデルとInstructLabを組み込んだ生成AI開発のプラットフォーム「Red Hat Enterprise Linux AI (RHEL AI)」の提供も予定しています。これからも多くの人が活用できるプラットフォームの構築を主軸に「AIの民主化」を広げられるよう、IBMやパートナーの皆様、また、ユーザーの皆様ととともにAIビジネスを育てていきたいと考えています。