この記事は2024年9月20日に「The Finance」で公開された「為替介入の仕組みを解説!過去の介入事例と将来展望」を一部編集し、転載したものです。


本記事では、為替介入の基本的な仕組みについて、今までの歴史・過去の事例にも触れながら今後の展望までわかりやすく解説します。為替介入の仕組みやリスクを正確に理解し、適切な情報を日々収集することで、市場の動向を予測しやすくなるでしょう。

目次

  1. 為替介入とは?
    1. 為替介入の基本的な仕組み
    2. 為替介入の目的
    3. 為替介入のリスク・デメリット
  2. 為替介入の歴史
    1. 1998年
    2. 2003-2004年
    3. 2010年9月15日
    4. 2011年3月18日
    5. 2011年8月4日
    6. 2022年9月22日
    7. 2022年10月
    8. 2024年3月27日
    9. 2024年7月12日
  3. 為替介入の今後の展望

為替介入とは?

為替介入の仕組みを解説!過去の介入事例と将来展望
(画像=birth7/stock.adobe.com)

為替介入とは、一国の中央銀行や金融当局が、自国通貨の価値を安定させるために外国為替市場に介入し、自国通貨の売買を行うことを指します。これは、過度な通貨の価値変動を防ぎ、経済の安定を図るための重要な政策手段の一つとされています。
具体的には、自国通貨が過度に高騰している場合は、市場に自国通貨を供給(売る)することで価値を抑制し、逆に自国通貨が過度に安い場合は、市場から自国通貨を買い上げることで価値を上昇させます。

為替介入の基本的な仕組み

為替介入は中央銀行が自国通貨を売買することで、その価値に影響を与えます。
自国通貨が急激に上昇または下落し、それが経済に悪影響を及ぼすと予想される時には、中央銀行が市場に介入することで、通貨の価値をより適切な水準に戻そうとします。

1.売りオペレーション
中央銀行が外国為替市場で自国通貨を売ることによって通貨の供給を増やし、通貨の価値を下げる。
2.買いオペレーション
中央銀行が外国為替市場で自国通貨を買うことによって通貨の供給を減らし、通貨の価値を上げる。

どちらの方法を選択するかは、その時の為替レートや経済状況によって決まります。

為替介入の目的

為替介入が行われる主な目的とは、国内の経済状況を安定させることです。日銀は自国通貨の価値が急激に変動した場合、それによって生じる経済的な混乱を防ぐために為替介入を行います。

また、国内の産業を守るためにも為替介入が行われることがあります。例えば、自国通貨が急激に上昇してしまうと、輸出産業が大きな打撃を受ける可能性があり、その際に通貨価値を下げるため、売りオペレーションが行われます。
その他にも、為替介入は、インフレーション防止というマクロ経済政策の一環として行われることもあります。通貨価値が下落するとインフレーションが進行しやすくなるため、それを防ぐためにも為替介入が有効な手段となるのです。

このように、為替介入は通貨の需給バランスを調整することで、金利の上昇や下降を導くことが可能となります。国内経済の安定化を図るための重要な政策手段であり、その目的は多岐にわたります。

為替介入のリスク・デメリット

為替介入には確かにメリットがある一方で、リスクやデメリットも無視できません。リスク・デメリットは大きく以下5点です。

  1. 効果が一時的な場合がある
  2. 財政負担が大きい
  3. 他国との経済関係
  4. 市場に対する信頼性
  5. 国内経済への影響

1.為替介入の効果が一時的である可能性がある
市場は大規模であり、政府や中央銀行の介入が長期的なトレンドを変えることは難しいです。例えば、一時的に為替レートを安定させることができたとしても、根本的な経済問題が解決されない限り、再び不安定な状況に戻る可能性があります。

2.財政負担が大きい
日銀が市場に介入するためには、大量の外国通貨を購入し、それを国内通貨に交換する必要があるため、大規模な資金を必要とします。これにより、国の外貨準備が減少し、将来的な金融危機に対する防衛力が弱まる可能性があります。
また、為替介入が成功しなかった場合、投入した資金が無駄になるリスクもあります。

3.他国との経済関係にも影響を及ぼす可能性がある。
為替レートの操作は、国際的な貿易関係において不公平と見なされることがあり、特に輸出競争力を高めるための介入は、他国からの反発を招くことがあります。これにより、貿易摩擦が生じるリスクが高まります。

4.為替介入が市場に対する信頼を損なうこともある。
頻繁な介入は市場の自然な動きを歪める可能性があり、投資家は市場の透明性や信頼性に疑問を持つかもしれません。それにより、資本の流出や市場のボラティリティの増加を引き起こすことが考えられます。

5.国内経済にも悪影響を及ぼす可能性がある。
例えば、通貨の価値を人為的に下げることで輸出を促進しようとすると、輸入品の価格が上昇し、インフレーションを引き起こすリスクがあります。これにより、消費者の購買力が低下し、経済全体にマイナスの影響を与える可能性があります。

以上のように、為替介入には慎重な判断と適切なタイミングが求められるため、そのリスクとデメリットを十分に理解することが重要です。

為替介入の歴史

1998年

1997年以降、日本では大手証券会社や銀行などの経営破綻が続き、金融危機が発生していました。そのため、1998年には急激なドル高・円安が進みます。日米の金利差が拡大していたことや同年に米株価が上昇局面にあったことも当時のドル高・円安の要因です。 そこで、政府と日本銀行は円安阻止に動くべく為替介入に踏み切りました。財務省の発表によると、1998年4月9日・10日の為替介入合計額は約2.8兆円です。 しかし、為替介入後も円安傾向が止まらず、同年夏に140円台に突入しました(介入前後は130円台)。

2003-2004年

この期間の介入は、日本経済がデフレに苦しんでいた時期に行われました。日本政府は、円高がデフレを悪化させ、輸出企業の競争力を低下させることを懸念していました。そのため、大規模な円売り・ドル買い介入を実施しました。この介入は「異次元介入」と呼ばれるほど大規模で、2003年1月から2004年3月までの期間に約35兆円規模の介入が行われたとされています。これは日本の外貨準備高を大幅に増加させ、当時世界最大の外貨準備高を持つ国となりました。

2010年9月15日

この日の介入は、リーマンショック後の世界的な金融緩和の中で進行した円高に対応するものでした。介入直前には1ドル=82円台まで円高が進んでおり、15年ぶりの円高水準でした。財務省は約2兆1000億円規模の円売り・ドル買い介入を行いました。この介入により、一時的に1ドル=85円台まで円安が進みましたが、その効果は限定的でした。

2011年3月18日

東日本大震災後、投機的な円買いにより急激な円高が進行しました。これに対し、G7各国の中央銀行が協調して為替介入を実施しました。日本時間の18日朝に開始された介入では、日本が約6000億円、他のG7諸国も合計で同程度の資金を投入したと見られています。この協調介入により、1ドル=76円台から一時80円台まで円安が進みました。

2011年8月4日

この日、日本は単独で過去最大規模となる約4兆5100億円の円売り・ドル買い介入を実施しました。介入前、円相場は1ドル=76円台後半まで円高が進行しており、日本の輸出企業に深刻な影響を与えていました。この介入により、一時的に1ドル=80円台まで円安が進みましたが、長期的な効果は限定的でした。

2022年9月22日

日本は24年ぶりとなる円買い・ドル売り介入を実施しました。急激な円安が進行し、1ドル=145円を超える水準に達していたため、これを是正する目的がありました。財務省は介入額を公表していませんが、市場関係者の間では3兆円規模とも言われています。この介入により、一時的に1ドル=140円台前半まで円高が進みました。

2022年10月

9月の介入後も円安傾向が続いたため、10月にも再び円買い介入が行われました。具体的な日付は公表されていませんが、市場では10月21日に大規模な介入があったとみられています。この介入により、一時的に1ドル=146円台から144円台まで円高が進みました。

2024年3月27日

日本銀行、財務省、金融庁が共同声明を発表し、為替市場の動向を注視し、必要に応じて適切な対応を取る姿勢を示しました。これは、急激な為替変動に対する警戒感を示すものであり、市場に対する牽制の意味合いがありました。

2024年7月12日

日本政府は約2兆円規模の円買い介入を行ったとみられています。急激な円安進行に対する対応で、1ドル=145円を超える水準から一時的に141円台まで円高が進みました。この介入は、日本の通貨当局が円安の進行に対して強い懸念を持っていることを示すものとなりました。

これらの介入は、その時々の経済状況や為替市場の動向に応じて実施されてきましたが、その効果は一時的なものが多く、長期的な為替トレンドを変えることは難しいとされています。

為替介入の今後の展望

為替介入は国内経済の安定化を図るための手段として期待されており、円高防止やインフレーション抑制といった短期的な効果が見込まれます。

また、中長期的には経済的な恩恵を受けることで国内企業の競争力強化や雇用創出に対する期待もあります。
一方で、為替介入が頻繁に行われると国際的な通貨戦争や市場の混乱を引き起こす可能性があるというリスクも無視できません。

さらに、日本の為替介入が国際社会から批判を受ける場合もあり、その対応も重要な課題となっています。為替介入がもたらす経済や市場への影響は大きく、その適切な実施と管理が求められています。

実際に2024年5月23日、アメリカのイエレン財務長官は、為替介入について「日常的に使われる手段ではない」と見解を述べました。「介入は極めてまれであるべきだ」とする立場も改めて表明し、あくまで例外的な手段であることを強調したことから、為替介入は慎重に行わなければいけません。
今後の為替介入の展望を考える上で、為替介入の役割とリスクを正確に理解し、適切な情報を日々収集することが必要となります。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ