この記事は2024年10月4日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「高利益率の企業は海外市場や新技術、人的投資が成長機会に」を一部編集し、転載したものです。


高利益率の企業は海外市場や新技術、人的投資が成長機会に
(画像=oldwar/stock.adobe.com)

(日本政策投資銀行「24年度設備投資計画調査」)

最終回となる今回は、企業の成長に向けた取り組み状況について取り上げたい。

2024年度調査では、事業の「ダウンサイドリスク」に加え、初めて「成長機会」の認識に関する設問を設けた。しかし、ダウンサイドリスクと比較して成長機会について回答した企業数は少なく、日本企業の保守的な経営姿勢が垣間見える結果となった。成長機会の内容としては、大企業全体で「新技術(生成AIなど)」や「サステナビリティー対応」などが多く挙げられ、新たな潮流に期待する様子がうかがえた。

成長機会の回答結果を、23年度の売上高経常利益率上位10%の企業群と、それ以外の企業群で比較すると、上位10%の企業群は米中をはじめとした海外景気や「人的資本開発」などを選択する割合が高かった(図表)。これを製造業・非製造業別に見ると、製造業では、主に海外景気や新技術において、上位10%企業の回答割合がその他の企業よりも高くなった。

これらの結果は、海外市場や新技術に成長機会を見いだす企業は優れたパフォーマンスを発揮する傾向があることを示唆している。実際に本調査では、上位10%企業の方が、将来的に国内・海外共に生産能力と研究開発活動を「強化する」と答えた企業の割合が高くなっている。積極的に海外展開を図ることに加え、イノベーションを生み出す上でカギとなる研究開発にも前向きである傾向が示された。

一方、非製造業では、上位10%企業は「人的資本開発」や「物価上昇」を成長機会と捉える回答割合が、その他の企業よりも高くなった。対人サービスが商品となることの多い非製造業においては、人的投資に積極的な企業ほどパフォーマンスが高いことを示している可能性がある。また本調査では、上位10%企業の方が「価格転嫁できている」と答えた企業の割合が高かった。このことから、物価上昇を機に競争力の高い上位企業ほど価格転嫁を進めた可能性も示唆される。

なお、前述の結果は、あくまで本調査に回答した経常利益率上位10%の企業の傾向を表すものであり、成長機会とパフォーマンスの因果関係を示すものではない。それでも、海外市場の取り込みや研究開発のほか、人的投資や価格上昇などを成長機会として認識している企業ほどパフォーマンスが高い傾向を示していることは間違いない。今後、成長機会を適切に認識することで、日本企業が新たな成長を実現することに期待したい。

高利益率の企業は海外市場や新技術、人的投資が成長機会に
(画像=きんざいOnline)

日本政策投資銀行 産業調査部 調査役/高田 裕
週刊金融財政事情 2024年10月8日号