新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。
これまでの事業変遷について
ーー御社の創業からこれまでの事業変遷についてお聞かせください。
株式会社プロシーズ 代表取締役社長・花田 隆典氏(以下、社名・氏名略) 2000年に創業し、当初は個人事業主でスタートしました。法人化したのが2003年でしたが、実際には2000年頃から仲間たちとビジネスを始めていました。その前は訪問販売をやっていて、英会話学校の飛び込み営業をやっていました。その後、パソコン教室に商材を変え、販売を行っていました。
当時はパソコン教室でWordやExcelといったPCの基本的なスキルを教えていました。その後、インターネットブームが来た時に、ネット上で学ぶことのできるWord講座やExcel講座を開発し、サービスをローンチしました。
法人からもパソコンスキル学習のニーズがあり、そこへ参入したところ、Word講座やExcel講座だけでなく、会員認証やログイン機能などのシステムそのものへのニーズがあることがわかりました。そこで、LMS(ラーニングマネジメントシステム)という打ち出しをして教材の開発案件やLMSの販売がメインの事業になりました。
ーー御社が成長するようになった1番のきっかけは何だと思いますか?
花田 運が良かったというのが大きいです。2000年に創業した頃に、eラーニングワールドというイベントが始まり、大手企業がeラーニング事業に参入しました。彼らが市場を作ってくれたおかげで、私たちの事業も成長することができました。
しかし、大企業の多くは市場を作ったものの、それほど大きな利益を得ることができず、彼らは撤退していきました。そのため、お客さんが困っているところに、私たちのようなベンチャー企業が入ることができたのです。運が良かったと言えるでしょう。
自社事業の強み
ーー競合優位性や強みポイントについて教えていただけますか?
花田 私たちは、生徒さんと直接向き合って教育サービスを提供していたため、実際のユーザーさんを想像しながら商品作りをしていました。そのため、ユーザー目線で取り組んできたり、受講者目線でのアプローチが強みです。また、お客様からの要望があった機能は必ず実装し、システムも常にバージョンアップしていくというスピード感で競争優位性を築いています。
ーーお客様の開拓方法について教えていただけますか?
花田 ウェブマーケティングがメインでした。実は、私たちがオンライン教育サービスを始めた当初、世界で初めてだと思っていました。実際には東京に先に始められた会社がいくつかあったのですが、それでも私たちはeラーニングの世界では老舗です。そのため、Googleからの評価が高く、ウェブマーケティングで引き合いをいただき続けています。
ーーインバウンドでの問い合わせが多いのでしょうか?
花田 ほとんどそうです。それで営業が大忙しです。今でも「eラーニング」で検索すると、プロシーズが必ず1ページ目に出てきます。Googleは歴史を非常に評価しているようで、スタートが早かったことが大きな強みだと思います。
現在一番関心のあるトピック・関心事項とその理由
ーー現在、花田さんが一番関心のあるトピックスや関心領域について教えていただけますか?
花田 多くの経営者と共通していると思いますが、私は生成AIに非常に興味を持っています。私たちの社会的ミッションは、ICTを活用して新たな学びを生み出し続けることです。
近年の技術の発展スピードが激しい時代背景の中で、私たちの会社は新たな技術をいかに学びに活用していくかということを常に考えています。その新しい技術を取り入れた教育プログラムを、何百社ものクライアントに試してもらえるという意味では、稀有な会社だと思っています。
生成AIを教育に使うと、本当にさまざまなことが可能になると考えています。創業当初からインターネットは1対1の学びが可能なツールであり、オンライン学習は一斉講義ではなく、各々が自分のペースでかつ自分に向いたカリキュラムで学ぶことができるはずです。しかし、実際にはそれを実現するのは相当難しいです。例えば、理解度に応じて学習するコンテンツが変わるということは、なかなか実現が難しいですよね。
しかし、生成AIを活用することで、個々人の発想で喋っていくことから学びを生むことが可能になります。例えば、最近リリースした営業ロープレ講座では、AIがお客さん役となり、受講者はAIからの質問に対して気の利いた回答をする、それが採点されるという学習ができます。また、生成AIを使えば管理者の手間を軽減するカリキュラムの自動生成やレポートの自動採点及び、コメント自動生成も可能です。
これにより、今までやりたくてもやれなかったことが、オンラインで実現できるようになります。私たちの会社では、プロシーズラボという研究室で時間をかけて研究を行っています。そこでは、カメラで集中度を測るような実験も行っています。そこで、生成AIによって、すぐに商品化できる新たな学び方やカリキュラム作りが可能になっているため、今後も活用の幅を広げたいと思っています。
思い描いている新規事業の構想
ーー今後の事業展望や既存事業の拡大、新規事業についてお聞かせいただけますか。やはりAIを活用しながらという部分になりますか?
花田 そうですね。ただ、eラーニングシステム事業に対して危機感を覚えている点もあります。例えば、Googleが本気で、学習にまつわるいろいろなシステムを、格安で販売する可能性もあります。そういったリスクを常に感じています。
そのため、AIを含むICTを活用した新たな学びを徹底して生み出す努力は続けております。また、システムに影響を受けない教育サービスそのものも展開しています。例えば、派遣の学校という派遣社員に特化したものやキャリラクという保育士のキャリアップに特化したサービスなどです。
ーーそれらは今の事業よりニッチな市場かと思いますが、ニッチな市場で教育サービスそのものを展開していくということですか?
花田 そうです。自動車教習所向けのオンライン学科教習サービスや、製造エンジニアに特化した教育サービスなど、いろんなジャンルでの教育サービスを展開しています。こうした領域は教材や教育そのものを売っているので、システム開発とは違う価値提供になります。
経営において意識していること
ーー経営について意識していることをお聞かせいただけますか?例えばIPOやM&Aなど、ファイナンス面に関して戦略があると思いますが。
花田財務活動にはさまざまな意味がありますが、その中でも次世代リーダーを育てるために、私自身が最前線でやり続けるのではなく、徐々に権限を移譲していくことが重要だと考えています。 その為に、これまでの利益をもとに、債権や証券といったピュアな投資や、人的投資などを積極的に行っています。保険的な形で収益を生み出すことで、本業でリスクのあることにもチャレンジしやすくなると考えています。それが次世代リーダー育成につながると考えています。
ーー次世代リーダーの育成に力を入れているとのことですが、具体的にどのような取り組みをしていますか?
花田 エネルギーとアイディアはあるけどお金や経験の少ない人たちに対して、投資を行っています。回収は難しいこともありますが、それも未来にかけるということです。
ーーそういった取り組みを通じて、何か得られるものはありますか?
花田 もちろんです。私自身もエネルギーや勇気をもらったり、視野が広がったりすることがあります。また、活躍して収益を出してくれる会社も生まれてきています。
ZUU onlineユーザーへ一言
ーーこの記事の読者に向けて、御社の注目点やコメントがあれば教えていただけますか?
花田 先ほどもお話ししましたが、私たちの会社はICTを活用した新しい学びを提供したいと考えています。新たな学習体験を通じて、感動を味わっていただきたいのです。例えば、映画『マトリックス』のように、瞬時に知識をダウンロードして学ぶといったことは現実的ではないかもしれませんが、これまでの人類の歴史の中で、私たちが提供するような学び方は初めてだと思います。私たちは、そんな時代を切り開いていく企業でありたいと考えています。
ーーなるほど、そのような新しい学びを提供するために、御社ではどのような取り組みを行っているのですか?
花田 私たちの会社は、新しい技術を取り入れ、それをどのように「学び」に活用するかを考える時間を大切にしています。そんな会社は多くないと思います。さらに、私たちの会社は、お金を投じて新しい技術を商品化・サービス化し、数百社の顧客に直接試してもらえる環境を持っています。これは、私たちのミッションを提供し続けるために大切なことだと考えています。
また、最近ではラボで研究しているテーマをアップロードし、SNS (https://x.com/Proseeds_Co) を通じて情報交換も行っています。興味のある方はぜひチェックしていただきたいです。
ーー本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
- 氏名
- 花田 隆典(はなだ たかのり)
- 社名
- 株式会社プロシーズ
- 役職
- 代表取締役