特集「令和IPO企業トップに聞く 〜 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。今回はKIYOラーニング株式会社の綾部代表にお話を伺った。
創業からこれまでの事業変遷
ーーこれまでの事業変遷について教えてください。
KIYOラーニング株式会社 代表取締役社長・綾部貴淑氏(以下、社名・氏名略): 創業時は私1人で個人事業として始めました。「通勤講座」という名前で、中小企業診断士のオンライン講座を運営していました。当時はスマートフォンが普及していない時代だったので、音声講座とデジタル教材をダウンロードし、iPodを使って音声で隙間時間に勉強できるようなサービスを展開しました。
その後、徐々にスマートフォンが普及してきたため、2012年にスマートフォン向けの学習システムを開発し、その後さらに動画で学ぶというコンセプトに変更しました。同時に中小企業診断士だけでなく、他の資格講座も販売し始めました。想定したよりも事業が拡大し、これが大きな転機となったのです。
その後、単一事業で終わりたくないと考え、2017年に社員教育クラウドというサービスを作りました。当時、SaaS型のサービスがどんどん増えていたことから、eラーニングもSaaSになっていくと考え、「エアコース」というクラウドサービスをリリースしました。
その後2020年に東証マザーズ(現東証グロース)へ上場し、着実に成長しています。
ーー従来、toC向けのEdTech(Education(教育)×とTechnology(技術))事業は、収益化が難しいと言われていたと思います。この問題はどのようにクリアされたのでしょうか?
綾部:確かに、EdTech事業の収益化は難しいと言われていました。ただ、当時学校や塾のEdTechは多かったのですが、資格学習のEdtechは無かったので、資格市場は攻めやすいと思っていました。
当時、TACさんや大原さん、LECさんのような教室がある会社が通信教育を行っていました。しかし、それらは教室の内容やカリキュラムをベースにしたものです。私自身も中小企業診断士の勉強をしようと考え、数十万円払って受けた通信教育は、大きなダンボールにテキストや問題集が送られてくるだけでした。
そこで、通信教育においてIT化が遅れていることはチャンスだと考え、資格市場に注力したのです。
組織拡大においてぶつかってきた課題
ーーこれまでに苦労したことについて教えてください。
綾部:創業後、中小企業診断士以外の資格講座にも展開したのですが、それらの講座が売れなかったことです。中小企業診断士は難関資格のため、従来の勉強法との違いを訴求して成功していました。しかしそれ以外の資格では、より簡単、便利に資格取得したいという意識の方が強く、中小企業診断士と同じ形式では拡大しませんでした。
そこで、スマートフォン対応や動画など商品コンセプトを変えました。これがきっかけで事業を急成長させることができたのです。
ーーエア コースというプロダクトはtoB向けで、これまでと領域が変わってくると思いますが、開発や販売に当たっての苦労はどのようなものがありましたか?
綾部:お客様がコースを作れるサービスを提供していたのですが、販売に時間がかかり、売れ行きが良くありませんでした。そこでコンテンツ力に力を入れ、コースを増やすことにしました。受け放題のコースを増やしたことで、現在では800以上のコースがあります。他社にも負けないコースラインナップが整い、当社の強みになっているのです。
上場を目指された背景や思い
ーー上場を目指された背景について教えていただけますか。創業時から上場を考えられていたのですか?
綾部:創業後、事業化に成功した段階で、上場を意識するようになりました。ただ上場は目標というよりも、さらなる成長を見据えたものでした。
当社のミッションは、「学びを革新し、誰もが持っている無限の力を引き出す」ことです。これまでの時代と違い、現代は自分でスキルを身に付け、人生設計を考えなければならない厳しい時代です。そのような時代の中で、人々を支援するサービスを提供し、学びのイノベーションを起こしたいと考えています。
さらに当社は『世界一「学びやすく、わかりやすく、続けやすい」学習手段を提供する』というビジョンを掲げています。まずは日本一になり、最終的には世界に展開できることを目指しているのです。そのため、上場はビジョンを達成するための入口だと捉えています。
ーー上場を達成され、その後の事業もスケールされていますが、上場前後で大きく変わったことはありますか?
綾部:上場したことで採用面が大幅に改善されました。上場当時は社員数が30名程度で、必要な人材を採用するのがやっとでした。しかし現在は100人まで増えています。人事面や採用面での改善は、上場後の大きな効果だと感じています。
今後の事業戦略や展望
ーー今後の展望についても教えていただけますか?
綾部:個人向けのキャリア支援プラットフォームと企業向けの人的資本活用支援プラットフォームの2つを展開していきたいと考えています。
特に、個人向けのスタディング事業では、順調にユーザー数と合格者数が増えています。資格講座を選ぶお客様は、合格実績が高いところを選びたいと考えます。当社のオンライン講座は合格者数が多くコストパフォーマンスも良いためユーザー数が増えているのです。今後もユーザー数と合格実績を増やすことでお客様に対する安心感やブランディングに繋げていきたいと考えています。
また、学習データや視聴データが蓄積されているため、これらを活用してプラットフォームを成長させていくつもりです。現在はAIを使った学習最適化に力を入れており、これが差別化に繋がっていくと考えています。
さらに、スタディングキャリアという転職サービスも展開しており、学習して資格を取得した後に転職できるサービスを提供しています。このプラットフォームをどんどんスケールさせたいと考えています。
ーー成長ドライバーとなるのはどの部分でしょうか?
綾部:スタディングとエアコースの事業です。
スタディングにおいては約1900億円の資格取得市場をターゲットにオンライン資格講座の事業を展開しています。現在の事業規模は40億程度なので、まだまだ伸びしろがあると考えています。
2つ目のエアコースは前年対比で6割の成長率を誇っています。人的資本経営に力を入れる企業が多い時代であるため、eラーニングにおいてNo.1のプロダクトを作り、数百億円規模まで事業を伸ばしたいと考えています。
ーー今後、企業の人事戦略や採用戦略、教育戦略に深く入り込むことが重要だと思われますが、どのような未来展望を考えていますか?
綾部:企業での新しい働き方を支援するプロダクトを提供し、企業の人材活用を総合的に支援することを目指しています。
これまでは、集合研修やOJTなどが人材育成の主流でした。しかし現在では全員が同じ内容の集合研修で学ぶ時代ではなくなっています。個別に最適化した学びや育成が求められており、それを人力で実現するのは難しいです。
そのため企業に対して、学びだけではなく採用やキャリア支援も行っています。そのサービスが生成AIを活用した「AIナレッジ」です。現代では生成AIを活用しなければ時代に置いていかれると考えています。その点、当社のサービスは、プロンプトのテンプレートが揃っていて誰でも簡単に使うことができ、生成結果を社内でナレッジ共有できます。
今後もITと当社のプラットフォームを活かして、企業の人的資本を伸ばしていきたいと考えています。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
ーー今後のファイナンス計画について教えてください。
綾部:今後の成長戦略では、自社による成長だけでなく、当社のキャッシュフローを活かしてM&Aを活用することも視野に入れています。
スタディングでは、お客様から先に受講料をいただくモデルになっており、売上は受講期間に沿って計上されるため、キャッシュフローが多いです。現在、約30億円のキャッシュがあるため、M&Aを活用したいと考えています。
もちろん、既存のサービスや採用を拡大していくことも計画に織り込まれています。ただ、よりプラットフォームを成長させていくには、M&Aも活用しつつ事業を展開することを検討しています。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
ーーZUU onlineのユーザーに向けて一言お願いします。
綾部:戦略を描き着実に実行していくことで、EdTechの分野で日本No.1を目指しています。マーケットとしては、個人向け資格取得市場が約1900億円、法人向けeラーニング市場が約1100億円規模です。また、これらの周辺にも魅力的な成長市場があります。
当社はこのような好環境の中で差別化したサービスを提供しています。資格業界においては、AIを活用したスマートフォンで完結できる学習サービスはまだ少ないです。市場を塗り替える存在として、大きな市場を獲得しようと考えています。
投資家の皆様には、ぜひ長期的な視点で当社に注目していただけると幸いです。
- 氏名
- 綾部 貴淑 (あやべ きよし)
- 社名
- KIYOラーニング株式会社
- 役職
- 代表取締役社長