この記事は2024年10月25日に「The Finance」で公開された「【CSRとは】企業の社会的責任と取り組み紹介~ISO・サステナビリティ・コンプライアンスとの違いは?~」を一部編集し、転載したものです。
近年、気候変動など、環境問題が深刻化するなかで、持続可能な発展やESG投資などに対する消費者の関心が高まってきています。それに伴い多くの企業がCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでおり、経営戦略の一環として取り入れる企業も増え、その重要性はますます高まっています。 本記事では、CSRの基本概念から、企業がCSR活動をどのように実践し、どのような効果を得ているのか、具体的な事例を交えて紹介するとともに、CSRと他の概念との違いや、導入手順、今後の課題についてご紹介します。
目次
CSRとは?企業の社会的責任を理解する
CSR(企業の社会的責任、Corporate Social Responsibility)とは、企業の社会的責任を指し、企業がその事業活動において社会、環境、経済に与える影響を考慮し、積極的に社会に貢献することを求められる概念です。
CSRは単なる法律遵守や利益追求を超え、企業がステークホルダー、すなわち顧客、従業員、地域社会、株主、環境などに対してどのように責任を果たしていくかを示すものです。
この考え方は、企業の持続可能な発展に寄与するだけでなく、社会全体の持続可能性をも促進します。
具体的には、環境保護活動や地域社会への貢献、倫理的な労働慣行の遵守などがCSR活動の一部として挙げられます。
さらに、CSRは企業の価値やブランドイメージの向上にもつながり、長期的な視点での企業価値の向上を図ります。
企業は社会的責任を果たすことで、信頼を築き、ステークホルダーとの良好な関係を維持し、競争力を高めることができます。
CSRの概念は時代とともに進化しており、最近ではSDGs(持続可能な開発目標)との関連性が重視され、より包括的かつ戦略的なアプローチが求められています。
CSRを導入するメリット:企業がCSRを重視する理由
企業がCSRを導入するメリットは大きく2点あります。
企業イメージの向上
現代の消費者は企業の社会的責任に対する意識が高まっており、企業がどのように社会や環境に貢献しているかを重視しているため、CSR活動を行うことで企業は消費者の信頼を獲得し、ブランドイメージを向上させることができます。
また、環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮した投資が増えており、CSRを重視する企業は投資家からの評価が高まります。こうした動向は、企業の資本コストを低減させ、持続的な成長を支える要因となる可能性が高く、最終的に、CSR活動は企業の競争力を高め、長期的な利益をもたらすと言えるでしょう。
優秀な人材の確保
CSR活動は従業員のモチベーションやエンゲージメントを高める効果もあります。従業員は自分が働く企業が社会的に責任を果たしていることに誇りを持ち、社員の定着率が向上し、採用活動においても優秀な人材を引き寄せる可能性が高くなります。社会的責任を果たしている企業で働くことに魅力を感じる求職者は増えており、CSRの取り組みは優秀な人材を引き寄せるための重要な要素となっています。
このように、CSRの導入は、単に社会貢献に留まらず、企業自体のイメージを向上させ、持続的な成長を支える重要な戦略となります。
ISO・サステナビリティ・コンプライアンスとの違いは?
CSR(企業の社会的責任)は、企業が利益を追求するだけでなく、環境問題や社会貢献活動など、社会全体の持続的な発展に貢献していくという考え方です。CSRと混同しやすい概念として、ISO、サステナビリティ、コンプライアンスなどが挙げられます。これらの違いを明確にしていきましょう。
CSRとISOの違い
ISOは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称で、製品、サービス、システムなどの規格を策定している国際的な機関です。CSRは企業活動の在り方そのものを指すのに対し、ISOはあくまで国際的に認められた「基準」 を示すものです。
CSRの7つの基本原則
CSRは、企業が社会に対して負う責任を果たすための指針として、ISO26000の7つの基本原則に基づいています。
原則 | 説明 | |
---|---|---|
1 | 説明責任 | 企業は活動が社会に与える影響に対し、透明性を持って説明する義務があります。これにより、企業は社会からの信頼を得ることができます。 |
2 | 透明性 | 企業の意思決定や活動を明確にすることで、関係者との信頼関係を構築します。 |
3 | 倫理的な行動 | 企業は、誠実で公正、かつ道徳的な基準に基づいた行動を取ることが求められます。 |
4 | 利害関係者の尊重 | 企業は、従業員、顧客、地域社会などの利害関係者のニーズや期待を理解し、それに応えることが重要です。 |
5 | 法令遵守 | 企業は法律や規制を遵守し、法的な枠組みの中で活動する必要があります。 |
6 | 国際規範の尊重 | 国や地域の法を守るだけでなく、国際的な基準や行動規範にも配慮し、それに従うことが求められます。 |
7 | 人権の尊重 | 企業は人権の重要性と普遍性を認識し、尊重すべき権利を尊重することが求められます。 |
CSRとサステナビリティの違い
サステナビリティは、「持続可能性」と訳され、将来世代のニーズを損なうことなく、現在世代のニーズを満たす発展のあり方を指します。CSRとサステナビリティは密接に関係しており、CSR活動はサステナビリティを実現するための手段の一つ と捉えることができます。
企業は、環境問題、人権問題、社会貢献活動など、様々なCSR活動を通して、サステナビリティの実現に貢献することができます。しかし、サステナビリティはCSRよりも広い概念であり、企業活動だけでなく、政府、NGO、個人の行動など、社会全体での取り組みが求められます。
例えば、企業におけるサステナビリティの取り組みには、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの使用、製品のライフサイクルの見直しなどが含まれ、環境への配慮が特に重要視されます。
CSRとコンプライアンスの違い
コンプライアンスは、「法令遵守」を意味し、企業が法律や規則を守って事業活動を行うことを指します。CSRが倫理的な観点から企業に求められる行動であるのに対し、コンプライアンスは法的義務 となっており、違反すると罰則が科せられる可能性があります。
CSR活動の中には、コンプライアンスの範囲を超えて、企業が自主的に倫理的な行動をとることが含まれます。例えば、環境保護のための法規制を遵守することはコンプライアンスですが、法規制以上の環境負荷低減に取り組むことはCSR活動と言えるでしょう。
CSR活動の具体例と事例紹介
CSR活動の事例①三井物産
東洋経済オンラインが2024年9月に公表した「信頼される『CSR企業ランキング』トップ500社」にて、三井物産が商社としては初の1位となりました。
三井物産のCSR活動について紹介します。
三井物産は、コーポレートステートメント「未来を拓く価値創造」を実現するため、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
<サステナビリティに関する考え方: 三井物産らしさ>
三井物産は、約100か国に広がる拠点と、幅広い産業分野で培ってきた総合力を活かし、グローバルな視点と多様なステークホルダーとの協働を通じて、社会課題の解決に貢献することを目指しています。
<マテリアリティ:7つの重要課題>
三井物産は、社会からの期待と事業を通じた社会課題解決への貢献を両立させるために、2023年8月にマテリアリティ(重要課題)を特定しました。
- 気候変動への対応
脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーや水素・アンモニアなど、新たなエネルギーバリューチェーン構築を推進。 - サーキュラーエコノミーへの移行促進
資源の有限性を認識し、廃棄物の削減・リサイクル、資源の循環利用を推進。都市鉱山事業やケミカルリサイクルなどにも注力。 - 生物多様性保全:
自然資本の持続可能な利用と保全に向け、森林破壊ゼロへのコミット、海洋プラスチック問題への取り組み、生物多様性保全に関する国際的な枠組みやイニシアチブに貢献。 - 人権の尊重:
国際人権章に基づき、人権デューデリジェンスを徹底しサプライチェーン全体での人権尊重に取り組む。児童労働・強制労働の排除、多様な人材の活躍を促進。 - 健康と福祉:
従業員の健康と安全を最優先に、働きがいのある環境づくりを推進。健康経営、ダイバーシティ&インクルージョンの推進、人材育成などに取り組む。 - 地域社会との共存共栄:
地域社会の一員としての責任を果たすため、地域貢献活動を推進。途上国の経済社会開発支援、教育支援、文化・スポーツ振興などに取り組む。 - ガバナンス:
透明性・健全性を確保するため、法令遵守、企業倫理、リスクマネジメントを徹底。公正で透明性の高い経営を推進し、ステークホルダーとのエンゲージメントを強化。
CSR活動の事例②トヨタ自動車
<環境への取り組み>
取り組み | 詳細 |
---|---|
トヨタ地球環境憲章 | 1992年に策定し、環境への取り組みを推進 |
トヨタ環境チャレンジ2050 | 2015年に発表。気候変動、水不足、資源枯渇、生物多様性の損失に対する長期的な取り組み |
ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ | ライフサイクル全体でのCO2排出ゼロを目指す |
新車CO2ゼロチャレンジ | 新車からのCO2排出ゼロを目指す |
工場CO2ゼロチャレンジ | 工場からのCO2排出ゼロを目指す |
資源循環 | リサイクル素材の活用、PETボトルリサイクルを新車部品に |
生物多様性の保全 | 「30by30」目標達成に貢献、「生物多様性のための30by30アライアンス」参画 |
<社会への貢献>
取り組み | 詳細 |
---|---|
地域社会との連携 | 政府、行政機関、規制当局、NGO、地域コミュニティーとの関係構築 |
社会貢献活動 | 教育や災害復興支援、トヨタ博物館でのSDGs展覧会 |
<従業員の健康と安全>
取り組み | 詳細 |
---|---|
健康経営 | トヨタは従業員の健康と安全を重視し、健康経営の推進を目指しています。健康・安全の理念・方針に基づき、従業員の物理的・精神的健康をサポートする取り組みを進めています。健康経営優良法人ホワイト500やスポーツエールカンパニーとしても認定を受けています。 |
メンタルヘルスケア | 従業員のメンタルヘルスケアも重要なテーマで、トヨタは従業員の幸福を重視し、メンタルヘルスケアのための各種プログラムを提供しています。 |
<コンプライアンスとガバナンス>
取り組み | 詳細 |
---|---|
コンプライアンス研修と内部通報制度 | 法令遵守と透明性を確保するため、研修の実施や制度の整備を通じて、贈収賄を許さず誠実かつ公正な関係を維持。 |
Science Based Targets initiative(SBTi)認定 | Scope 1、2およびScope 3 Category 11の削減目標について認定を受け、気候変動対策を強化。 |
<サステナビリティ基本方針とSDGsへの貢献>
トヨタフィロソフィーとサステナビリティ基本方針
トヨタは「トヨタフィロソフィー」を基に、サステナビリティ基本方針を策定し、社会・地球の持続可能な発展への貢献を目指しています。特に、SDGsの達成を支援するための各種取り組みを推進しています。
参照:トヨタ自動車ホームページ
CSRの導入手順
CSRを効果的に導入するためには、計画的なアプローチが必要です。
1.企業のビジョンや価値観に基づいてCSR方針を策定
持続可能な開発目標(SDGs)や業界のベストプラクティスを参考にし、具体的な目標を設定します。
2.CSR活動を実施するための組織体制を整備
専任のCSR担当者やチームを設置し、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションを図る役割を担います。
3.CSR活動の計画を立案
環境保護、地域貢献、労働環境の改善など、企業が重点を置く分野を明確にし、それぞれに対する具体的な取り組みを決定します。
4.実施計画に基づき活動を開始・進捗状況を定期的に評価
評価には、定量的な指標と定性的なフィードバックを組み合わせ、活動の成果を測定します。
5.CSR活動の成果や取り組み内容を透明性を持って公開
年次報告書やウェブサイト、SNSを通じて情報発信し、社会からの信頼を築きます。また、CSR活動を通じて得られたフィードバックを基に、取り組みを見直し、改善を繰り返すことで、CSR活動の質を向上させ続けることが重要です。
導入する際に注意しなければいけない点としては、CSR活動が表面的なものに終わらないよう、企業の全体戦略と整合性を持たせる必要があります。単なるイメージアップを図るだけの活動では、持続的な社会貢献や企業価値の向上には繋がりません。そのため、CSRを単独のプロジェクトとしてではなく、企業文化や経営戦略の一部として組み込むことが求められています。
CSRの課題と未来
CSR活動の課題として、その活動の効果を測定する基準が明確でないことが挙げられます。
企業が行ったCSR活動が実際にどの程度社会や環境に貢献したかを判断することが難しく、CSR活動が企業の利益追求とどのように一致するかを示すことが困難な場合もあります。
また、CSR活動を続けるためには、経済的コストがかかることも考慮しなければなりません。
そのため、CSR活動を継続するためには、経済的コストを踏まえた上で、効果的なKPI(重要業績評価指標)や具体的な目標設定が重要です。
たとえば、エネルギー使用量の削減率、CO2排出量の削減目標、従業員のエンゲージメント向上率など、定量的な指標を設定することで、CSR活動の進捗や成果を評価できます。
これにより、CSRが単なるコストではなく、持続可能な成長を促進するための投資であることを明確にし、経済的価値と社会的価値の両立を図ることが可能です。また、これらのKPIを定期的にモニタリングし、改善策を講じることで、CSR活動の効率性と影響を最大化することできるでしょう。
今後のCSRの方向性
企業の社会的責任がますます重要視される中で、CSRの方向性・トレンドを紹介します。
1.デジタルツールやプラットフォームの活用
デジタル化の進展とともに、企業が透明性を高めるためのデジタルツールやプラットフォームを活用する例があります。デジタルツールを活用することで、CSR活動の進捗や成果をリアルタイムで共有することが可能となり、ステークホルダーとの信頼関係をより深めることが期待されています。
2.環境問題への対応がより一層重要に
企業はカーボンニュートラルや資源循環型社会の実現に向けたアクションを強化し、持続可能なビジネスモデルの構築に力を入れる必要があります。また、サプライチェーン全体での倫理的な労働条件の確保や人権の尊重も、今後のCSRにおいて不可欠な要素となるでしょう。
3.社会的インパクトの測定と報告
企業はCSR活動の効果を定量的に評価し、その結果を外部に発信することで、社会的責任を果たしているかを明確に示すことが求められます。企業の活動が社会全体に与える影響を具体的に理解し、改善点を見つけていくことが可能となります。
4.自社以外とのコミュニティ強化
CSRは企業内だけでなく、地域社会やグローバルな文脈でも展開されることが望ましく、ローカルなコミュニティとの協力を強化し、地域の課題解決に貢献することで、その存在価値を高めることができるでしょう。
CSRについて基本的な概念から事例、今後のトレンドについて述べました。
企業は単なる利益追求に留まらず、社会に対する責任を果たすことが求められています。これからのCSRは、企業の戦略的な一部として位置付けられ、持続可能な開発目標(SDGs)を指針とした長期的なビジョンが必要です。