この記事は2024年11月8日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ユーロ圏の経済成長率の強さと企業景況感の弱さの乖離要因」を一部編集し、転載したものです。


ユーロ圏の経済成長率の強さと企業景況感の弱さの乖離要因
(画像=JeanLuc/stock.adobe.com)

ユーロ圏の10月の消費者物価指数(HICP)は、前年比は2.0%上昇とインフレ目標の2%を充足した。一方、企業景況感を示す購買担当者景気指数(PMI)は9月と10月に2カ月連続で中立の50を割り込んだ。このように、インフレ率の目標回帰とともに景気低迷も示唆されている。

しかし、ハードデータであるGDP成長率を見ると、ソフトデータであるPMIほどには景況感が弱くない。ユーロ圏の2023年10~12月期のGDP成長率は前期比年率0.2%増で、5四半期連続でほぼゼロ成長と低迷していた(図表)。しかし、24年に入って1~3月期は前期比年率1.2%、4~6月期0.8%、7~9月期に1.5%と3四半期連続で明確なプラス成長かつ成長加速となった。

ハードデータの強さとソフトデータの弱さという乖離が生まれる原因はどこにあるのか。強欲な値上げによるインフレーションを意味する「グリードフレーション」という造語が象徴するように、ユーロ圏ではコロナ禍後に企業が積極的な値上げを進め、大幅な増益を確保した。しかし、現在は企業の価格支配力が低下してさらなる値上げが難しくなっている。

一方、賃上げと生産性上昇の低迷や、一人当たり労働時間の減少に伴って、事業活動を行う上での人件費負担が大幅に高まっている。視点を変えれば、企業にとっての人件費増加は、家計にとっての所得額増加である。さらに、インフレ沈静化が家計の実質所得を押し上げていることから、企業から家計へ所得が移転している状況にあるといえる。つまり、企業の景況感が示すほどには、ユーロ圏経済は弱くない可能性がある。

前述のとおり、HICPの前年比は10月にインフレ目標を充足したものの、エネルギーや食料などを除いた基調を示すコア消費者物価の伸びは、10月に2.7%と8カ月連続2%台後半で推移している。インフレ目標である2%に接近する兆しは見られないほか、インフレ動向を左右する賃金上昇率も高止まりが続いている。それ故、ユーロ圏経済が本当にインフレ目標の達成に近づいているかは定かでない。

ひとまず欧州中央銀行(ECB)は、10月に続いて12月に今四半期で2回目となる利下げに動く可能性が高い。ECBの利下げは、直近24年4~6月期と7~9月期にそれぞれ1回だったため、12月に利下げすれば金融緩和のペースアップとなる。しかし、25年以降も四半期に2回の利下げペースを継続できるかは疑問だ。25年に利下げペースが引き下げられ、四半期に1回となる可能性を意識しておく必要があるだろう。

ユーロ圏の経済成長率の強さと企業景況感の弱さの乖離要因
(画像=きんざいOnline)

SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト/丸山 義正
週刊金融財政事情 2024年11月12日号