この記事は2024年11月15日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「トランプ氏再選が及ぼす国際商品市況への影響」を一部編集し、転載したものです。


トランプ氏再選が及ぼす国際商品市況への影響
(画像=janews094/stock.adobe.com)

世界的な選挙イヤーとなった2024年。その中で、メインイベントである米国の大統領選挙と連邦議会選挙は、共に共和党の圧勝という結果で終わろうとしている(11月13日時点)。

大統領選挙については、投票行動の変化が地域や人種、世代、学歴などの観点で話題となっている。だが、より重要な点は、民主党が前回の大統領選挙から約1,000万人の支持を失ったことや、トランプ氏は前回当選時の16年と異なり、得票数で民主党候補を上回ったことが挙げられるだろう。有権者へのアンケートから、今回の選挙の争点として「経済」「物価」が上位に位置付けられていることを念頭に置くと、直近の米国経済は、有権者にとって必ずしも評価に値する状態ではなかったと総括できそうだ。   折しも、日本の衆議院選挙ではこれまでの与党が議席を失ったことで少数与党に転じた。ドイツでも連立政権が崩壊し、早々に総選挙が実施される見通しだ。米国のみならず、世界各地で社会の不安定さはかつてないほど増している。この間に急速な物価上昇を経験していることを踏まえると、社会の不安定さには、物価の影響が少なからずあるだろう。

政権交代に伴い、各国の政策も変化していく。需要の変化が促される結果、国際商品市況にも影響を及ぼすと思われる。米国ではトランプ氏が関税引き上げや気候変動対応への反対からパリ協定を再離脱する姿勢を示している。

特にエネルギー市場は、トランプ氏が洋上風力発電への反対姿勢を示していることもあって注目が集まるとみられる。ただし、米国のエネルギー自給率は100%以上であり、トランプ氏が主張しているように原油・ガス生産が一層推進されることになれば、すでに安値圏にあるエネルギー価格が上昇に転じるシナリオを描きづらい。WTI原油先物価格は1バレル=70ドル前後で方向感を欠く展開を想定している(図表)。

このほか、化石燃料に変わる新しい時代のエネルギー素材として注目の集まった銅の市況にも変化が及ぶことになるだろう。銅はパナマでの鉱山閉鎖や、世界的な鉱石品位の低下によって原料供給が懸念されている。しかも、洋上風力など脱炭素電源の増設による電線需要増が期待されたことで銅価格は高止まりしてきた。AI利用の普及でデータセンターの増設による電力需要の増加期待も相場の下支えとなっている。

一方で、脱炭素電源の増設については、トランプ氏の反対以前にコスト増による計画の見直しが相次いでいるほか、データセンター増設については追加電源確保が前提となっていることもあり、想定よりも実需の発生が先送りされる可能性も出てきた。中国で経済対策が公表されたものの、効果は限定的とみられている。こうした背景から、今後、銅価格は下押し局面を迎えそうだ。

トランプ氏再選が及ぼす国際商品市況への影響
(画像=きんざいOnline)

住友商事グローバルリサーチ チーフエコノミスト/本間 隆行
週刊金融財政事情 2024年11月19日号