新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

kotozna株式会社
(画像=kotozna株式会社)
後藤 玄利(ごとう げんり)――代表取締役
東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、シンガポール国立大学リークワンユースクール(公共政策大学院)公共マネジメント学科修了。アンダーセンコンサルティングを経て1994年、ヘルシーネット(現:ケンコーコム)を設立。2014年にケンコーコム代表を辞任し、16年にJaQool(現:Kotozna)設立。趣味はトライアスロンで、スイム3.8km、バイク180.2km、ラン42.2kmの合計距離約226kmで行われるアイアンマンレースには過去7回完走。大分県臼杵市出身。
Kotoznaは、AI 等の新たなテクノロジーを活用し、「言葉のカベ」の解消を目指しています。 2016年10月の設立以降、多言語チャットツール「Kotozna Chat」などをリリースし、2019年6月には経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」に選定されました。 2020年2月には、株式会社JTBと業務資本提携を行い、同年10月より販売開始した宿泊施設向け多言語コミュニケーションツール「Kotozna In-room」のPoC、製品化、販路拡大において協業してまいりました。「Kotozna In-room」は109言語の多言語対応に加え、省人化やDXといったニーズにも対応し、2024年3月時点で全国のホテル・旅館など500以上の施設に導入いただいています。2022年9月より、事業者向け多言語同時翻訳チャットツール「Kotozna laMondo」も提供開始いたしました。2023年6月よりChatGPTに対応した多言語AIチャットボットKotozna ConcierGAIにリニューアルされました。

目次

  1. これまでの事業変遷について
  2. 飛躍的な成長を遂げた秘訣
  3. 経営判断をする上で重要視している点
  4. 事業拡大の未来構想
  5. ZUU onlineユーザーへ一言

これまでの事業変遷について

—— これまでの事業編成についてお伺いできますでしょうか?

Kotozna株式会社 代表取締役社長・後藤 玄利氏(以下、社名・氏名略) 当社は2社目の会社になり、私自身、連続起業家、いわゆるシリアルアントレプレナーとして活動してきました。1社目は「ケンコーコム」という会社で、1994年から2014年まで私が代表を務めていました。2004年にはマザーズに上場し、その後2014年に退任して、その後楽天に売却しました。そして2016年に立ち上げたのが現在の会社です。

1社目は健康関連のeコマースを手掛けていましたが、2社目では少し異なる方向性を持っています。私たちが目指しているのは「言葉の壁を取り除く」ことです。これは、2016年当時、日本が「失われた30年」と言われる経済停滞期を迎え、さらに少子高齢化や地方の衰退が進んでいる中で、特にインバウンド観光が重要になると考えたからです。

その頃、東京オリンピックの招致が決まり、観光が盛り上がる兆しが見えていました。少子高齢化の日本では、観光が地方に残された数少ない成長エンジンになると考えていました。

また、当時はこれからAIの進化が見込まれる中で、今後機械翻訳が実用化されると予想していました。機械翻訳の技術を活用して、言葉の壁を取り除くことでインバウンド観光を支えることを目指しました。特に地方には観光資源が豊富ですが、外国語を話せる人が少ないため、AIを活用した機械翻訳でサポートしようと考えました。

しかし、機械翻訳の進化が飛躍的に進化する中で、当初の事業構想だけでは競争力を保てないと感じ、次に取り組んだのが異なるメッセージングアプリ間での翻訳サービスです。LINEやwechat、Facebookメッセンジャーなど、国ごとに異なるアプリをつなぎ、翻訳を行うサービスを展開しました。

正直、ビジネスとしての組み立て方が見えず、2016年から2019年まで試行錯誤が続きました。そうした中で、2020年のオリンピックを前に、JTBからインバウンド観光に力を入れるという話があり、資本業務提携を結びました。しかし、そのタイミングでパンデミックが始まり、観光自体が消滅してしまいました。

それでも、インバウンド観光は日本の成長エンジンになると信じて、サービス開発を続けました。JTBには営業をお願いし、私たちは開発に専念しました。パンデミックは3年続きましたが、2023年にようやく収束し、観光が再び盛り上がり始めました。

また、もともと多言語チャットプラットフォームを基盤にしていましたが、2023年にChatGPTが登場し、我々が求めていたサービスを実現するのに最適なプラットフォームだと分かりました。そこで、ChatGPTベースのものに作り替えた多言語チャットボットを開発し、観光分野での商用化を始めました。

大阪の観光局やシンガポールのチャンギ国際空港の巨大複合施設などでの導入が進み、多言語AIチャットボットが急速に市場を拡大しています。

飛躍的な成長を遂げた秘訣

—— ありがとうございます。そこでお聞きしたいのですが、御社の急激な成長の要因についてお伺いします。2019年にJTBさんと組まれたことや、2023年のChatGPTの技術革新が大きな要因でしょうか。

後藤 そうですね、そこが大きいです。さらに、パンデミックの間もブレずに続けてきたことが重要だったと思います。

—— その時期はやはり苦しい時間だったのではないでしょうか。

後藤 確かに苦しい時間でした。しかし一方で、中長期的に世の中を大きく変革するテクノロジーは短期的な浮き沈みの影響をさほど受けないと信じていました。以前のケンコーコムの時もネットバブル崩壊を経験しており、その時もeコマースは中長期的に成長すると信じていました。ネットバブル崩壊後、eコマースのプレイヤーの多くは市場から見放されましたが、それでも続けた結果、次のステップにつなげることができました。同様に、今回もインバウンド観光とAIは中長期的に大きくなるマーケットだと信じて、継続しています。

—— なるほど。飛躍的な成長を遂げた秘訣について、組織体制など他に要因はありますか。

後藤 チームの多様性も大きな要因です。社員の半分以上が外国人で、開発チームはCTOを除いて8割から9割が外国人です。多国籍な環境で、10カ国ほどのメンバーがいます。

—— 多国籍な形で、多言語対応も含めて、組織づくりの秘訣はありますか。

後藤 組織づくりではインクルージョンを心がけています。会社内では日本語と英語が飛び交う環境です。外国人社員は基本的に日本に住んでおり、週に2,3人の応募があります。グローバルなトップ大学からも幅広く応募が来ています。

経営判断をする上で重要視している点

—— 経営判断をする上で重要視している点についてお伺いしたいのですが、いかがでしょうか。

後藤 一つは、イノベーションをいかに起こしていくかという点が重要です。それを通じて新たなサービスや価値を生み出せるかが大きなポイントです。そして、インクルージョンも大切にしています。経営を進める上で、ダイバーシティを良いかたちで保ちながら、多くの人がインクルーシブに活動できる環境づくりが重要だと考えています。さらに、信じていることをぶらさないことも大切です。

—— データや指標を用いた判断については、どのように考えていますか。

後藤 そこまでのフェーズには至っていませんし、正直なところ、数字は必要ですが、それに振り回されないようにしています。

—— 後藤社長はケンコーコムなど複数の企業を経営されてきましたが、今回の取り組みとの違いは何かありますか。

後藤 基本的な考え方は変わりませんが、言語の壁を取り除くことが大きなテーマです。 ケンコーコムの時代はインターネットがこれからの時代を変えると信じていましたが、今回はAIがその役割を担っています。これからAIでできることが増えていく中で、AIでできる世界を、作る側に入っていこうと考えています。

—— なるほど、将来的にはAIもインターネットのように重要な存在になると考えているわけですね。

後藤 そうですね。ケンコーコムの時は健康づくりのためにインターネットを活用していましたが、今回は言葉の壁を取り除くためにAIを活用しています。時代や環境が違うため、手段やミッションに違いはありますが、基本的な考え方は一緒です。

—— 観光の分野でAIが理想的な形になると、どのような世界を想像していますか。

後藤 観光は生身の人間が新しい体験をする場です。バーチャルではなく、実際にその場所に行って見て感じることが大切です。AIはその体験をより良いものにするためのサポートを提供するでしょう。情報の質を高め、体験をより豊かにする時代が来ると思っています。

事業拡大の未来構想

—— 事業拡大の未来構想についてお伺いしたいのですが、具体的に今後3年や5年後の目標について、何かお考えがあれば教えていただけますか。

後藤 今回は、日本が抱える大きな課題に取り組んでいます。日本は他国に比べて言語の面でハンディキャップを抱えている部分がありますが、まずは日本でしっかりした言葉の壁を乗り越えるためのサービスを展開していきます。チームもグローバル化しており、グローバルで戦えるプラットフォームを構築していますので、ゆくゆくはそれを世界に広げていきたいと考えています。

—— AIの進化は非常に速いですが、御社ではどのように対応しているのでしょうか。

後藤 AIの進化は非常に速く、我々もそれに追いつくのは大変です。しかし、イノベーションの波に乗り、新たな価値を生み出すことを目指しています。現在はテキストベースの多言語チャットを行っていますが、生成AIの進化に伴い、音声や画像、さらには感情的な要素を取り入れたサービスを展開していく予定です。これにより、言葉の壁を取り除くことに貢献したいと考えています。

—— 例えば、ChatGPTのようなものがあれば十分ではないかと考える人もいるかもしれません。御社の競合優位性について教えてください。

後藤 ChatGPTは素晴らしいツールですが、社会実装する際にはクライアントに合わせたカスタマイズが必要です。例えば、レストランがChatGPTを導入しても、営業時間やメニューの詳細を正確に答えることは難しいでしょう。特定のクライアントに対して正確な回答ができる生成AIを提供することが重要です。これからは組織がChatGPTを活用する際に、カスタマイズされたプラットフォームを提供することが求められると考えています。

—— ChatGPTを日常的に使っている人の割合はまだ低いですが、今後はどう変わっていくとお考えですか。

後藤 ChatGPTを使うという意識は薄れていくでしょう。今はChatGPTのサイトで直接やり取りしていますが、将来的には裏でChatGPTが動き、ChatGPTが使われていることを意識せずに利用することになるでしょう。この技術はAPIを通じてあらゆる場面で活用されるようになります。インターネットがかつて電話回線で接続されていた時代を経てシームレスになったように、AIも同様にシームレスに利用される時代が訪れると考えています。

ZUU onlineユーザーへ一言

—— ZUU onlineのユーザーに向けて一言お願いします。

後藤 そうですね。今はインターネットが登場したときと同じくらい、AIが世の中を大きく変え始めていますが、ただAI基盤だけがかえるのではなく、スタートアップ企業が積み上がって、初めて新たな世界が作られるのです。インターネットも多くの人々が様々な形で取り組んで、今のインターネットの世界ができました。

多くの起業家がこれを活用して新たな付加価値を創造することで、世界が次のステージに進むと考えています。そういった活動をみんなで進めていけたらと思っています。

—— ありがとうございます。

氏名
後藤 玄利(ごとう げんり)
社名
kotozna株式会社
役職
代表取締役

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