この記事は2024年11月22日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「企業向けのサービス価格は所得動向を反映して足元は堅調」を一部編集し、転載したものです。
(日本銀行「企業向けサービス価格指数」)
サービス価格はサービスや労働の需給、所得動向を反映しており、国内の需給ギャップの動向を把握するためにも重要な指標である。今回は、その代表的な指標の一つである企業向けサービス価格指数(SPPI)について分析する。
SPPIは企業間で取引されるサービスの価格を指数化したもので、いわゆるサービスの生産者物価指数である。市況など外部要因の影響を受けやすいサービスも含んでおり、国内の需給動向を示すばかりでない。一方、日本銀行は今年6月、人件費のSPPIへの影響を分析するため、人件費投入比率の高低によりサービスを分類し、低人件費率サービスと高人件費率サービスの価格指標をそれぞれ公表した。
低人件費率サービスには、コストに占める人件費投入比率が低く、財価格の動きを反映しやすいサービスや、運賃市況など市場環境の影響が大きく表れるものが含まれる。他方、高人件費率のサービスには、人件費投入比率が高いITエンジニアが属する情報サービスや、建築・土木設計といった技術サービス、法務・会計といった専門サービスのほか、職業紹介・労働者派遣などの非正規雇用者が多いサービスも含まれる。つまり、低人件費率サービスは財価格や市況などの外部要因による影響を受けやすく、高人件費率サービスは所得やサービス需給の動向を多分に反映する。
では、近年のSPPIの動向を見てみよう。まず低人件費率サービスの価格は、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年初に下落し始め、同年半ばから急速に反転し、22年以降は徐々に落ち着きを取り戻す(図表)。それに歩調を合わせるように、総雇用者所得も20年初めから22年にかけて同様の傾向を示している。
もう少し細分化して低人件費率サービスの価格の動きをたどると、当初は宿泊や飲食サービス業等で下落し、その後不動産や市況関連の景気敏感セクターで上昇した。つまり、コロナ禍期には低人件費率サービスの価格が大きく変動し、所得もこれらのセクター主導で変動した。その結果、両者が同様の動きになったとみられる。
一方、高人件費率サービスの価格は、コロナ禍期にやや弱含みながらも安定して推移し、23年ごろから上昇基調となっている。これは、総雇用者所得が賃金上昇から堅調な動きを示したことによる。そして、財価格や市況などの外部要因も落ち着きを見せているため、低人件費率サービスも高人件費サービスに収斂した動きとなっていく。
SPPIの先行きは、外部要因が落ち着き、所得やサービス需給の動向をより反映していくと思われる。ただし、所得は上昇基調にあるものの、雇用者数が伸びていない点には注意が必要だ。賃金が上昇した分、労働から資本(省人化・IT設備等)への代替が進むことで、所得自体も伸び悩む可能性が示唆される。
東京国際大学 データサイエンス教育研究所 教授/山口 智弘
週刊金融財政事情 2024年11月26日号