この記事は2024年11月29日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「訪日中国人観光客数は雇用情勢悪化で回復に遅れも」を一部編集し、転載したものです。


訪日中国人観光客数は雇用情勢悪化で回復に遅れも
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日本を訪れる中国人観光客の数が回復傾向にある。日本政府観光局(JNTO)によれば、2024年10月の訪日中国人観光客数(推計値)は約58万3,000人となり、コロナ禍前(19年10月)の水準の8割程度まで回復した。このまま順調に持ち直せば、25年半ばにはコロナ禍前の水準を回復しそうな勢いだ。

中国政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて海外への団体旅行などを禁止した結果、訪日中国人観光客数は20年から22年にかけて急減した。しかし、23年に入ると、中国政府によるゼロコロナ対策の全面解除に伴い、訪日中国人観光客数は一転増加し始めた。

中国景気の弱含みや、東京電力福島第一原発の処理水放出などを背景に、23年秋には、一時的に訪日中国人観光客数が減少した。しかし、中国政府が23年8月に日本への団体旅行を解禁したり、処理水放出への懸念が後退したりしたことで再び持ち直している。24年に入ってからも引き続き回復基調が続いている。

中国のアウトバウンドの状況を見ると、日本に向かう中国人観光客数は、23年6月までは、他の主要国の回復水準に比べて見劣りし、出遅れ感があった(図表)。しかし、23年夏以降は、前述のような理由で落ち込んだ同年秋を除き、相対的に速いテンポで回復し、24年には、日本への観光客数の回復水準が主要国の中でも上位に位置するようになった。

訪日中国人観光客数の回復が足元で着実に進んでいる背景には、団体旅行の解禁のほか、中国人にとって日本が人気の高い海外旅行先という事情もある。中国人にとって日本は安全・安心な旅行先というイメージが強い。しかも、日本は中国と地理的に近く、京都や奈良など見どころのある観光名所が多い。さらに和食などグルメも楽しめ、化粧品や健康食品といったさまざまな人気商品が円安効果で比較的安価に購入できるなど、中国人にとって魅力的に映る。

だが、訪日中国人観光客数を年齢別に見ると、最近では観光客の多くを占める30~39歳の回復が他の年齢層よりも緩慢となっている。背景には、中国景気の回復の動きが鈍いなか、30~39歳の年齢層を中心に雇用・所得情勢がかなり悪化していることがある。

筆者は、25年後半以降、米国のトランプ次期政権による対中輸入品の関税強化を背景に、中国の雇用・所得情勢が弱含む可能性が高いとみている。先行きの訪日中国人観光客数を展望する際に、その情勢回復が必ずしも順調に進まないことにも留意すべきだろう。

訪日中国人観光客数は雇用情勢悪化で回復に遅れも
(画像=きんざいOnline)

浜銀総合研究所 調査部 主任研究員/白 鳳翔
週刊金融財政事情 2024年12月3日号