
創業からこれまでの事業変遷と貴社の強み
ーー 創業から現在までの事業変遷と、貴社の強みについてお聞かせいただけますか?
豊田肥料株式会社 代表取締役・豊田大介氏(以下、社名・氏名略) 豊田肥料株式会社は、文久3年(1863年)3月20日に創業しました。これは、私の先祖が16歳で家督を継いだ日であり、新撰組と同い年の会社です。創業当初は米や雑穀を扱う商売から始まり、162年間、農業関連の事業を展開してきました。 幕末には西南戦争の軍事支弁策等による物価騰貴の波の中で、事業の基礎を築きましたが、その後、失敗も経験しています。特に戦時中は肥料や米が統制物資となり、廃業寸前に追い込まれましたが、終戦後に再出発し、現在に至ります。 会社が続いてきた理由は、地域のお客様との信頼関係にあると感じています。着実に歩みを進めてきた結果、今の形に至ったのだと思います。
ーー 会社の事業が成長する中で、エネルギー関連事業にも進出されたとお聞きしましたが、その背景についても教えてください。
豊田: エネルギー関連事業は、昭和32年、肥料・米など季節性の強いビジネスに加え、閑散期となる冬場の経営安定を目指し、当時最先端だったプロパンガスを取り扱うことから本格的に開始されました。現在では、プロパンガスと農業関連事業が会社の柱となっています。
ーー 地域のお客様との信頼関係が、事業の継続に大きく寄与しているとお話しされましたが、具体的にはどのようにお客様との信頼を築いてこられたのでしょうか?
豊田: 農業は基本的に年に一度の勝負で、生産者さんは収穫の保証がない中で春に肥料や資材を準備する先行投資を行います。こうした不安定な状況で、私たちは長期的視点で信頼を重視し、着実に取引を進めてきました。取引規模に関係なく、一歩ずつ商売を広げる姿勢が評価されていると感じています。 プロパンガス事業でも、台所や裏庭まで踏み込んでサービスを提供するため、丁寧な説明や誠実な対応が求められます。一件一件を丁寧に対応することで、長年にわたってお客様からの信頼を築けていると考えています。
ーー ファイナンス面についてもお聞きしたいのですが、支払いサイトの長さや資金繰りについて、どのような工夫をされていますか?
豊田: 資金繰りについては、静岡県西部は温暖で雪の降らない気候を生かし、メロンの周年生産やお茶の生産など、米以外にも1年通じて作物生産が可能です。季節ごとに様々な農産物の収穫がある地の利に加え、月々のガス代が見込めるエネルギー関連事業や、18年前から始めた、即日決済も可能な農薬のインターネット通販など、先人たちの時代に先駆けた挑戦も功を奏し、資金繰りは比較的安定しています。
承継の経緯と当時の心意気
ーー 次に、社長就任までの経緯についてお聞かせいただけますか?
豊田: 私は6代目になります。父である先代から4年前に私が社長を引き継ぎました。地域で影響力のある家系であるため、責任の重さを感じています。
ーー 社長就任にあたってのご苦労や、組織内での課題などはありましたか?
豊田: 就任にあたって周囲からの大きなストレスはありませんでした。私はこの会社に16年間勤めており、その前に3年間全国的なメーカーに勤務していたため、業界経験は19年になります。社員の皆さんから理解と協力をいただくことができ、とてもスムーズに進みました。
42歳での社長就任は少し早いと感じましたが、周囲の優しい見守りもあり、自然な流れで引き継ぐことができました。先代が後継体制を整えてくれたことや、取締役が先代と強い信頼関係を築いていたことも要因です。
特に地場のオーナー企業ならではの「温かさ」があり、周りの方々が幼少期から私を知っているため、親戚の子が社長になったという感覚で見守ってくれたことも大きかったです。そのため、苦労よりも温かく受け入れられ、支えられている感覚が強いです。
今後の新規事業や既存事業の拡大プラン
ーー 今後の新規事業や既存事業の拡大プランについてお聞かせください。
豊田: 創業以来、農業に根ざした会社として、土地に密着した事業が重要だと考えています。異業種への挑戦は過去にありましたが、現在は新たな分野への大きな進出は考えていません。160年にわたり培ってきた栽培技術を次世代にどう伝えるかが、今後の鍵だと感じています。
世代交代や農業の集約化が進む中、技術を見やすく、伝えやすくする方法を模索しています。具体的には、肥料の効果をシミュレーションで「見える化」し、生産者さんに提案したり、リモートで技術勉強会を実施したりしています。
また、インターネットを活用した事業拡大も検討中です。農産物や肥料の販売を強化したいと考えていますが、肥料は内容が分かりづらく、重さもあるため、対面での説明が重要です。引き続き、技術コンサルティングを含めた提供を重視していきます。
ーー 新規事業に関してはどのようなプランをお持ちですか?
豊田: 新規事業として不動産事業に注力しています。エネルギー関連事業と連携し、地域に密着した不動産管理や物件取引を目指しています。特に、高齢化社会に対応し、相続や不動産の管理をサポートしたいと考えています。
ーー 投資の観点から今後の事業拡大についてはどのようにお考えですか?
豊田: 現状、積極的な投資に踏み切る余裕はありません。過去に事業拡大や過度な投資で失敗し、倒産寸前に追い込まれた経験があるため、無理な拡大は避け、堅実な経営を心がけています。また変化に応じて新たな挑戦はしつつも、慎重に対応していきます。
メディアユーザーへ一言
ーー 最後に、今回の記事を読む方々へのメッセージをお願いします。
豊田:農業はSDGsの影響で注目を集め、良いイメージがありますが、実際は甘くありません。160年続けてこられたのは奇跡に近く、今後200年、300年と続けられるかは約束されていません。
また、農産物の価格は決して高くはありません。たとえば、お米の価格が一俵2万円でも、1ヘクタールで得られる収入は160万円程度。20ヘクタール育てても、経費や肥料代を差し引けば家族4人での生活は厳しいです。それでも生産者さんは日々闘っています。
スーパーで100円のほうれん草が200円になっただけで「高い」と感じる方もいますが、その価格でも生産者さんは苦しい状況です。農産物はその価格以上の価値があることを理解していただきたいと強く思います。そんなお客様たちと一緒に、私たちも一歩一歩160年間挑戦をし続けてきたことが今に繋がっています。これからも地に足をつけて新しい挑戦を続けていきます。
- 氏名
- 豊田大介(とよだ だいすけ)
- 社名
- 豊田肥料株式会社
- 役職
- 代表取締役社長