1960年生まれ。86年3月ニューヨーク州フォーダム大学卒業後、株式会社ワールドに入社。90年3月タキヒヨー株式会社に入社し、百貨店事業部、テキスタイル事業部を経て、2004年取締役就任。08年常務を経て11年に代表取締役社長に就任。
目次
これまでの事業変遷について
―― これまでの事業変遷について伺わせてください。
タキヒヨー株式会社 代表取締役社長執行役員・滝一夫氏(以下、社名・氏名略): タキヒヨーは、1751年に初代兵右衛門が、江戸時代の中期に京呉服商ならびに地場絹織物の行商として創業しました。この行商を続け会社の規模を大きくしていったのですが、1962年に大きなターニングポイントがありました。六代目の滝兵右衛門が52歳で急逝したため、父の富夫が家業を継ぎ、呉服から洋服へと業態転換したことです。
当時は、量販店の台頭という大きな市場変化がありました。今で言う、イオンやイトーヨーカドー、ダイエーなどがそれに当たります。タキヒヨーはいくつかの小売店をつなぎ、ビッグストア誕生の仲介をするすることで自ら販路を作り、結果的に売上構造を大きく変え、成長の原動力となりました。
業容を拡大し、衣食住を網羅する総合商社を目指している中、1978年頃には、第2次オイルショックという大きな外部環境変化から逆風を受けました。生産は滞りなく進みましたが、市場が冷え込み、肝心の物が売れなくなったため、大量の在庫を抱えることになりました。大きな損失を計上し、経営危機と呼ばれた時期もありました。
そこから再建計画を立て堅実経営に徹した結果、当初の計画より4年前倒しで再建を完了させました。我々のルーツである素材すなわち生地の販売と、量販マーケットに対するアパレル製品の供給をメインにした量販ビジネスに注力し、これが現在の商売にもつながっています。
自社事業の強みと成功実績・功績
―― 自社事業の強みや成功事例について教えていただけますか?
滝: 弊社の強みは2点あります。
1点目は、素材の企画開発力です。かつては国内生産の生地を取り扱っていましたが、中国をはじめとした海外製の生地の台頭により価格破壊が進み、それまでの国内の素材では戦えなくなりました。そこで20年ほど前に企画開発室を立ち上げ、オリジナル性の高い素材を作ることに取り組み始めました。ものづくりの拠点として、当社の一宮工場に希少価値の高い英式紡績機を備え、特徴ある高品質のmade in japanの生地の開発に成功しました。価格競争に陥ることのない独自性の強い素材の開発が強みとなり、これが現在の海外のラグジュアリーブランドとの取り引きにつながっています。
2点目は、長年にわたるキャラクター・ライセンス事業の展開です。当社は新生児から高齢者向けまで全ての年代に向けた商品の提案ができますが、特に子供・ベビーにおいてはキャラクターを使った商品を得意としており、卸売で日本一の売上を誇ります。また、これらのキャラクター・ライセンス事業によるノウハウの蓄積が異業種とのコラボなど、従来のビジネスとは異なるビジネスへと展開し新たな価値創造を生み出しています。
地域で愛されるための秘訣や地域での取り組みについて
―― 名古屋市に本社を置いているかと思いますが、地域で愛されるための秘訣などがございましたらご教示いただきたいです。
滝: 地域で愛されるための秘訣は、地域貢献の思いを行動で示すことだと考えます。我々は1751年に名古屋の北にある江南市に発祥し、273年にわたってこの地域に支えられ経営することができています。これまで支えていただいた方々への恩返しの思いからも、本社を移すということは全く考えていません。
また、昔からの繊維の産地である尾州でのものづくりが衰退していますが、少しでも活気付けるためにも一宮に工場を作りました。結果としてこれらの取り組みが地域を盛り上げていくことにもなると考えます。
過去のブレイクスルーや成功実績とその秘訣について
―― 過去のブレイクスルーについてお聞かせいただけますか?
滝: 冒頭でお話した和装から洋装への事業変遷のターニングポイントがブレイクスルーです。そしてこのブレイクスルーを起こせたのは2つの特徴を持っていたからです。
1つ目は、量販店のマーケットへ参入することができたことだと思います。現在でも量販店向けのマスマーケット用の商品を多く製造しており、年間約45,000,000枚の出荷量があります。
2つ目は、私が卸売の部隊に所属していた当時、百貨店で販売されていたような高価格帯の商品を、生産プロセスを見直したり、生産ラインの効率化を図るなどして高品質のまま安く作るインフラを構築したことです。
これらのマスマーケットへの参入と私たちの仕組み(インフラ)を掛け合わせることができたからこそ、このようなブレイクスルーを起こせたのだと考えています。
思い描いている未来構想や今後の新規事業、既存事業の拡大プランについて
―― 黒字体質復活計画を立案されたきっかけや目的等についてお聞かせいただけますでしょうか。
滝: きっかけは、それまで長い間安定した経営が続いていたのですが、2016年度に経常利益が半減したことです。
この時点から私自身は大きな危機感を抱いていましたが、結果として2022年には大幅な赤字を計上することになりました。社員も現状は理解していたのですが、どうしても社長と社員で見る目線には差があることに気づき、もっと私の考えを噛み砕いて全社員の意識統一を図らなければならないと感じました。これが黒字体質復活計画を実行した目的です。
現在、このプランは最終フェーズである収益基盤安定化に入っています。さらに今年度は中期経営計画を策定し、純利益6億4千万円を目指しています。 これを達成するための一歩として、今期は選択と集中を掲げ、会社全体でPDCAが回るようにしていきます。また、長年続いた評価制度を見直し、人材育成のカリキュラムも刷新していきます。
―― ありがとうございます。中長期的に貴社が目指す姿はございますか?
滝: 新たなヴィジョンとして「Create Future with Passion」を掲げました。情熱を持ってものづくりを深化し、進化することが未来を形作っていくということです。自由な発想で新しいアイディアを生み出せる「タキヒヨーらしさ」を大切に、ここから生まれる創造性を社員一人ひとりが持ち続けることこそ、タキヒヨーが目指す姿だと考えています。
次世代の経営者へメッセージ
―― 次世代の経営者へひとこといただきたいと思っております。
滝: その人の言うことをまず聞いて、意見の違いを楽しむことが重要だと伝えたいです。最後に決定するのは社長職の職務ですが、最終決定までにいろいろな意見を出さないとダメだと思います。逆に言えば、反対意見がどれだけたくさん出るかが非常に大切です。
一生懸命考えている人だからこそ、反対意見や懸念や疑問が出てくるのです。それらがどれだけたくさん出るかによって、社内の活性に違いが出てくると思っています。自分と違う意見を無闇に潰さず、意見の違いを楽しむことが大切だと思っています。
- 氏名
- 滝 一夫(たき かずお)
- 会社名
- タキヒヨー株式会社
- 役職
- 代表取締役 社長執行役員