この記事は2024年12月20日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日本の林業発展や森林保全の変遷とその取り組み」を一部編集し、転載したものです。


日本の林業発展や森林保全の変遷とその取り組み
(画像=IHERPHOTO/stock.adobe.com)

(林野庁「森林資源の現況」)

戦後の日本林業は、国土保全と木材供給を目的とした大規模な植林活動によって支えられてきた。1930年代には軍需物資として、戦後には復興資材として大量の木材が利用され、国内の森林資源は著しく消耗した。49年には、植林されずに荒れたままの森林地帯(造林未済地)が約150万ヘクタールにも上り、森林荒廃が山地災害を引き起こすなど、国土保全上の課題が深刻化した。

こうした状況から森林の国土保全機能が広く認識されるようになり、50年に「全国植樹祭」が初めて開催された。このイベントは森林の重要性を啓発する恒例行事として定着し、2025年に75回目を迎える。荒廃した森林への再植林も全国的に実施され、スギやヒノキなど苗木生産の技術が確立されていた樹種が山林に広く植栽された。その結果、1956年にはほぼすべての造林未済地への植林が完了した。

50年代には、日本が高度経済成長期に突入し、建築用材として価値の高いスギやヒノキ等の針葉樹需要が高まった。この需要の変化に応じて、天然林を伐採し針葉樹に植え直す政策「拡大造林」が開始された。この政策は96年まで続き、特に50年代から70年代前半にかけて精力的に推進された。

木は植えてから50年以上の歳月を経て利用されるようになる。60年代以降、日本の林業は外材輸入の増加や木材価格の不安定化などの影響で長らく低迷したが、その間、拡大造林によって植えられた針葉樹は着実に成長を続けた。

66年には人工林に蓄えられた木材の資源量(森林蓄積)は5億6,000万立方メートルだったが、2022年には約6.3倍となる35億5,000万立方メートルに達した。天然林蓄積も同じ期間に13億3,000万立方メートルから20億2,000万立方メートルに増えており、日本は現在、有史以来最も充実した森林蓄積を有している。

近年、温室効果ガスの削減や生物多様性保全の観点から、森林の重要性が世界的にも再認識されている。日本でも、従来の国土保全と木材供給を目的にした林業から、環境や経済、社会のすべてに貢献し、資源の循環利用を実現する「持続可能な林業」への転換が進められている。この実現に向けては、森林の再生可能性を踏まえた適正な伐採と植林のサイクルを確立し、生物多様性を保全するとともに、地域社会との協力を通じて発展を遂げることが求められよう。

今後は消費者の意識も変化し、持続可能な手法で生産された木材への需要が高まると予想される。こうした変化は、業界全体を持続可能な方向へと導く推進力にもなり得る。未来の森林資源を守りつつ、次世代に向けた林業の在り方を模索することこそ、日本の使命といえる。

日本の林業発展や森林保全の変遷とその取り組み
(画像=きんざいOnline)

農林中金総合研究所 主事研究員/土居 拓務
週刊金融財政事情 2025年1月7日号