この記事は2025年1月10日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日本の木材産業における需要拡大と輸入依存の歴史」を一部編集し、転載したものです。
(農林水産省「木材需給表」)
1945年の終戦直後から73年にかけて、日本は戦後復興と高度経済成長の流れに乗り、木材需要が急激に増加した。特に住宅建設での需要は顕著で、65年に84万戸だった新築住宅着工戸数は、73年にはピークの191万戸に達した。しかし、当時の日本の森林資源は戦前の軍需物資としての大量伐採や戦後の復興資材の大量利用で枯渇。植林された木々も伐採可能な林齢に達していなかったため、必ずしも国内の木材産業の追い風とはならなかった。
政府はこうした状況を踏まえ、60年代に木材の輸入自由化を段階的に実施し、64年には完全自由化を実現した。この結果、国産材の供給不足を補うかたちで輸入材が急増し、60年には754万立方メートルであった建築・家具などの材料になる木材(用材)の輸入量(用材自給率86.7%)は、73年には7,537万立方メートル(用材自給率35.9%)まで拡大した(図表)。
輸入材が安価で安定的に供給されるようになると、製材業者、製紙業者、建築業者などの木材需要者は、国産丸太を生産する国内の木材業者よりも安定した供給体制を持つ海外の木材業者との連携を深めた。85年以降は、丸太に代わり加工済みの丸太(製材)の輸入が増え始め、国内の木材需要者は輸入製材を取り扱うことが一般的になった。国内の木材市場は次第に、輸入丸太・輸入製材(輸入材)ありきの体制へと移行していった。
74年以降、新築住宅着工戸数は減少し、用材需要も73年の1億1,758万立方メートルをピークに、2009年には6,321万立方メートルにまで落ち込んだ。1997年の消費増税や2008年のリーマンショックに伴う新築住宅着工戸数の減少などで、09年には製材の需要が2,351万立方メートルにまで低下した。
輸入材への依存から脱却し国産材利用を促進するため、10年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が制定された。公共建築物において国産材利用を通じた地球温暖化対策および国内経済の成長促進を目的とした法律だったが、21年に対象を民間建築物にまで拡大した「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(都市(まち)の木造化推進法)へと法改正された。
23年には、製材工場の大規模化や合板工場の国産材への切り替え、木質バイオマス発電の増加などの需要拡大を背景に、丸太(木材)の自給率は02年の18.8%から42.9%へと大きく回復。同様に輸入に大きく依存していた用材の自給率も、00年の18.2%から38.6%にまで向上した。木材需要者が輸入材から国産材への切り替えを進めるなか、木質バイオマス発電の増加や法整備の強化が、国産材利用を後押ししている。日本の林業・木材産業は、持続可能な森林管理の実現に向けて新たな段階を迎えつつある。
農林中金総合研究所 主事研究員/土居 拓務
週刊金融財政事情 2025年1月14日号