本記事は、内藤誼人氏の著書『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

お金
(画像=Song_about_summer / stock.adobe.com)

あまりお金に執着しない

わたしたちの文化には、いつもではないにしろ、魔法の力をふるっていると感じられるものがあります。それはお金です。

『性格の法則』

言うまでもなく日本は立派な資本主義国家。資本主義の国では、とにかくお金がモノをいう社会です。お金がある人ほど、社会的なステータスも高くなります。

ということは、お金をたくさん稼げば、本人は幸せになれるのでしょうか。

調べてみると、どうも現実はそのようにならないみたいですね。

イリノイ大学のキャロル・ニッカーソンは、1976年に21の大学に入学した新入生に、「あなたにとって経済的に成功することはどれくらい重要なことですか?」と質問してみました。

それから約20年後に追跡調査をして、彼らがどれくらいの収入を得ているのか、またどれほど人生に満足しているのかを尋ねてみたのです。

すると興味深いことが2つわかりました。

1つ目は、「お金持ちになるのは自分にとって重要」と大学1年生のときに答えた人ほど、20年後の収入が高くなることがわかりました。本人が望むような夢をかなえることができたのです。

2つ目の結果は、お金持ちになることを重視していた人たちほど、「人生満足度が低くなる」という衝撃の事実が明らかになったことです。

「ええっ!? お金持ちになれたのだからハッピーなのでは?」と思うかもしれませんが、そうではありません。お金持ちになることを重視している人は、とにかく仕事にすべてのエネルギーを注ぎ込んでしまうので、どうしてもプライベートが犠牲になります。家族と過ごす時間も減りますし、趣味の時間もとれません。そのためでしょうか、人生満足度は低くなるのです。

たしかにお金を稼ぐことは大切ですよ。

けれども、お金に執着しすぎるのは考えものです。

仕事人間になって、仕事のことだけをしていたら、人生も味気なくなります。もちろん仕事には本気で取り組むべきですが、だからといってプライベートな部分をないがしろにしてよいわけがないのです。家族とも仲良くやったほうがいいですし、自分の趣味も充実させましょう。そういうバランスをとるようにしないと、つまらない人生を送ることになってしまいます。

自分なりのジンクスを持とう

例えば、虎が戸の前に立っている、と私が信じているだけであっても、実際に虎が外にいようと、どちらでもいいことです。事実であるかは重要ではなくて、事実をどう見なすかが重要なことなのです。

『教育困難な子どもたち』

客観的な根拠などなくとも、自分なりのジンクスを持っていると心強いですよ。「私はステーキを食べるとやる気が出る」というジンクスを持っていると、お肉にはやる気を引き出す成分などないのに、本人にはやる気が出るものです。自分がそう思い込んでいれば、自己暗示の効果が働くのでしょう。

ジンクスの効果をバカにしてはいけません。

プロのスポーツ選手もジンクスのお世話になっている人は、たくさんいるのです。プロは意味のないことはしません。ジンクスに効果があることを知っているので、ジンクスに頼るのです。

オランダにあるエラスムス大学のマイケラ・シッパーズは、サッカー、バレーボール、ホッケーのトップ選手197名に、どれくらいジンクスに頼っているのかを教えてもらいました。すると、80.3%が自分なりのジンクスを持っていることがわかりました。10人中8人のプロが、ジンクスを信じていたのです。

また、シッパーズは、プロの選手はジンクスを1つだけでなく、平均2・6個持っていることも明らかにしました。1つのジンクスでも十分に効果的なのでしょうが、2つ、3つと組み合わせることでさらなる相乗効果が見込めるのかもしれません。

なおプロの選手のジンクスで一番多いのは「特別なものを食べる」というジンクスでした。

197人中66人がそういうジンクスを持っていたのです。他には「特別な服や靴を身に着ける」が51人、「テレビや散歩など」がやはり51人でした。

読者のみなさんも自分なりのジンクスを持ってください。

自分なりのハッピーミール(これを食べると幸せな気持ちになれるというもの)を決めておき、特別な日にはそれを食べるようにするのです。そういうものがあると、一瞬で自分のやる気を高めたり、リラックスできたりしますので、とても便利です。

ジンクスを決めるときには、疑ったりしてはいけません。

「本当にこんなことで何か変わるのかな?」などと疑っていたら、自己暗示の効果は働きません。根拠などまったくなくてもいいのです。自分に効果があると思えば、本当に効果が出てくるのです。

悪い想定をしておく

私の空想は無駄ではありませんでした。それは私の心の訓練になりました。

『教育困難な子どもたち』

明るいことを考えたほうがよいに決まっておりますが、悪いことを考えるのはよくないのかというと、そうでもありません。あらかじめ悪い想定をしておくと、心理的なダメージを減らせるからです。

イヤな出来事でも、あらかじめ頭の中で想定しておくとわりとすんなり受け入れられるものです。おそらく悪い出来事を受け入れるための準備ができるからでしょう。

サザン・イリノイ大学のジョエル・フォックスマンは、75名の女性に集まってもらい、実験群には「これから10分後に、食用できる3匹の毛虫を食べてもらいます」と告げました。たとえ食用であっても、毛虫を食べたい人などおりませんよね。

比較のための統制群に割り当てられた人には、「これから10分後に、いくつかの重さの違う封筒を手に持って、その重さを推定してもらいます」という、どうでもいい作業をお願いしました。

さて10分が経過したところで、フォックスマンはいきなり条件を変えました。「調べてみると、すでにたくさんの参加者のデータが集まったようですので、毛虫を食べてもらっても、封筒の重さを推測してもらっても、どちらでもかまいません」と伝えたのです。

好きな選択ができるのであれば、毛虫を食べることを選ぶ人などいないと思いますよね。

ところが、もともと実験群に割り振られた人の多くが、「毛虫を食べる」を選んだのです。

なぜかというと、10分待ってもらっている間にしっかりと心の準備ができたから。すでに心の準備ができていたので、毛虫を食べることを敬遠しなかったのです。

あらかじめ過酷な状況を頭の中で考えていると、私たちは心の準備ができて、それを受け入れるのです。

ものすごく練習がハードだということで有名な部活に入部する学生は、その辛さを頭の中で何度もイメージするでしょう。そのため知らないうちに心の準備ができ、辛さへの耐性を持つことができるのです。そして実際に練習に参加しても、「なんだ、言われているほど大変でもないな」と思えるのです。

悪い想定をしておくのは、心のウォーミングアップになります。

よいことばかりを考えていると、辛い出来事に直面したときに耐えられません。「話が違うではないか」「こんなはずじゃなかった」と、事態を受け入れられずにパニックになってしまうのです。

卵は1つのかごに盛るな

自分の人生を他のすべての人より秀でることができるようにすることは、正常な成長にとってよいものではありません。

『子どもの教育』

自己評価を高めたいのであれば、いろいろな点で評価を下すようにしたほうがいいですよ。決して1つの指標だけで自分に点数をつけてはいけません。

英語には、「卵を1つのかごに盛るな」という表現があります。もしうっかりかごを落としてしまったりすると、卵が全部割れてしまいますからね。そうならないように、いくつかのかごに分けて卵を盛ったほうがよいのです。

自己評価をするときも同じで、収入だけ、学歴だけ、顔だちだけで自分に点数をつけるのはとても危険です。その1つが劣ると、自己評価がすべて悪くなってしまいます。

米ニューヨーク州にあるナイアガラ・コミュニティ大学のジェイソン・オズボーンは、全米の1,052の中学校に在籍する2万4,599名の中学2年生について調査を行いました。

すると、白人の子どもは、学力と自尊心が密接に関係していました。学力のある子どもほど自尊心は高く、学力のない子どもは自尊心が低くなっていたのです。けれども黒人の子どもは違いました。学力と自尊心には何の関係もなかったのです。

オズボーンによると、白人の子どもは、学力という1つの指標だけで自己評価をしてしまうのだそうです。そのため、学力の高さがそのまま自尊心の高さに結びついてしまうのです。

ところが、人の子どもは、学力だけで自己評価をしません。もっといろいろな次元で自己評価していました。「私は、勉強はできないけど、スポーツ万能」「私は成績はよくないかもしれないが、クラスの人気者」というように、いろいろな点を加味して総合的に自己評価をするので、学力が少しくらい劣っていても自尊心まで低くはならないのです。

1つの指標だけで自分に点数をつけると、その指標が劣ると自分のすべてがつまらなく見えてしまうので注意してください。

収入という1つの指標で自己評価してしまうと、自分の年収が平均年収に到達していないというだけで絶望してしまうかもしれません。

体重という指標だけで自己評価すると、ぽっちゃり体型だというだけで、その人は自信を持てなくなるでしょう。

人間には、探そうと思えば自分の良いところなどいくらでも見つかると思いますので、さまざまな点も含めて自己評価をするのがポイントです。

『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』より引用
内藤誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)、『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)など多数。その数は250冊を超える。

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『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』
  1. あまりお金に執着しないことが人生満足度を高める
  2. 「できない」と思っているのは本人だけ
  3. 共感できる人ほど仕事はうまくいく
  4. 「死ぬこと以上に怖い」ものとは?
  5. 事実は変えられないが、意味づけは変えられる
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