本記事は、内藤誼人氏の著書『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
意志力を高める方法
意志があれば、そのことが行為を始めようとしていることの証拠であるという考え方です。これはよくある思い違いです。意志と行為の間には大きな対立があるのです。
『教育困難な子どもたち』
意志があるからといって行動が起きるわけではないとアドラーは指摘しているわけですが、この指摘は心理学的に正しいと言えます。
「選挙に行くつもり」という意志があっても、実際に投票に出かけるのかというと、そうでもないことはよくあります。「タバコを止める」と周囲の人に宣言しても、実際に禁煙できるのかというと、それは別の話です。
意志があるからといって、それがそのまま行動につながるのかというと、どうもそういうことにはならないケースのほうが多いのです。
スポーツジムに通おう、毎日1万歩のウォーキングをしようと思っても、すぐに意志が挫けて、三日坊主になってしまうことはよくありますが、意志力を強化できるような便利な方法はないものでしょうか。
実は、あるのです。
その方法は、ぎゅっと手を握るだけという簡単な方法です。いわゆる握りこぶしを作ってみると、意志力が高まるのです。
シンガポール国立大学のアイリス・ハンは、握りこぶしを作ることによって意志力が高まることを実験的に確認しました。
ハンは54名の実験参加者を2つのグループにわけ、実験群にはペンをしっかりと握ってもらい、比較のための統制群にはペンを人差し指と中指ではさんでもらいました。そのような状態で、たいていの人が嫌がる行動をとるように求めると、握りこぶしを作った条件の人は、イヤなことでもやる、と答えてくれました。
何となくイヤだな、何となくやりたくないなというときには、握りこぶしを作りましょう。そうすれば「でも、やろう」という強い意志力を得ることができます。
面倒な雑用を上司から求められたときには、作業に取りかかる前にぎゅっと手を握ってください。そうすれば少しは意欲も出てくるでしょう。
ではなぜ、握りこぶしを作ると意志力が強化できるのでしょうか。
その理由は、握りこぶしを作ることが、戦闘態勢の姿勢だからです。握りこぶしは人を殴るときのしぐさですので、そういうしぐさをとっているとアドレナリンが自然と出てくるのです。
私たちは、そんなに強い意志力を持っているわけではありませんが、握りこぶしを作ればよいという豆知識を覚えておくと、いろいろなところで役に立ちます。
苦労して覚えたほうがよい
ほとんど努力することなしに手に入れた成功は滅びやすいものです。
『子どもの教育』
自分のスキルアップをしたいのであれば、できるだけ苦労をしたほうがいいでしょう。苦労もしないで身につけたスキルはたいてい役に立ちません。苦労すればするほど、スキルは血肉化していくものです。
勉強もそうです。簡単に覚えたことはすぐに忘れます。苦労して覚えたものは、覚えるまでには時間がかかるかもしれませんが、結局は、記憶の定着率もよいのです。
米ノーザン・コロラド大学のジーン・オームロッドは、大学生になじみがなく、スペルも難しい50個の単語(Hemorrhoidsなど。「痔」という意味の単語です)の記憶実験をしています。
普通の記憶条件では、単語を5回連続で正しく書けたら、次の単語へと移りました。
過剰学習(オーバーラーニング)条件では、5回連続で書けても、さらに10回その単語のスペルを書くことになっていました。
作業が終わったところで記憶のテストをしてみると、過剰学習条件のほうが正しく覚えられることがわかりました。覚えてもらった50個の単語のうち、12個の単語でテストしてみると、普通の記憶条件ではそのうちの平均7.67個しか答えられませんでしたが、過剰学習条件では平均10.08個も正しく答えることができたのです。
またオームロッドは、3週間後に抜き打ちでもう一度記憶のテストをしてみましたが、やはり過剰学習条件のほうが正しく答えられることがわかりました。
「よし、もう覚えたぞ」と思っても、そこでやめてはいけません。
そこからさらにしつこいくらい過剰学習したほうが、結局は、自分のためになります。
プロのピアニストは、覚えようという曲を弾けたら、そこで練習をやめてしまうのでしょうか。いいえ、違います。そこからさらに練習に練習を重ねるのが普通です。徹底的に練習をするからプロでいられるのです。
勉強でも、仕事でも、苦労をすればするほど確実に我がものとすることができます。簡単に身についたものは、やはり簡単に消えてしまうということを覚えておきましょう。苦労している最中には、「よし、これで血肉化できる」と考えるようにすれば、苦労も苦労と感じなくなります。
環境を変えてみる
子どもが変わるとすれば、状況が変わるからです。例えば、思いがけない成功をおさめた時、あるいは、担任が厳しい教師からやさしい先生に代わった時です。
『子どもの教育』
現代人は自分のことばかり考えて、他人のことなど顧みません。ただし、これはあくまでも一般論であって、そうでない人もたくさんいます。たとえば、田舎の人。田舎には、心のやさしい人が相対的に多いのです。都会の人は、「我関せず」の態度をとりやすく、冷たい人が多いのですけれども、田舎は違います。田舎の人は知らない人にも挨拶をしてくれたり、電車でたまたま隣り合わせた人に、自分の持っているお菓子やミカンなどをおすそ分けしてくれたりする人が少なくありません。
米ジョージア・サザン大学のシャウナ・ウィルソンは、田舎と都市部にアシスタントを送り込み、1人で歩いている人がいたら、その前を歩き、封筒をさりげなく落としてみて、10秒以内に拾ってくれるかどうかを検証する実験をしてみました。
その結果、拾ってくれるやさしい人は田舎で80%、都市部で60%であることがわかりました。また助けてくれるまでの時間も田舎のほうが早いことも明らかにされました。田舎では、封筒を落としてから平均3.7秒で拾ってくれましたが、都市部では平均5.3秒かかったのです。
人間関係がギスギスしているように感じたり、みんなが冷たいと感じていたりすることに悩んでいるのなら、田舎への移住を考えてみるのはどうでしょう。住む環境を変えてみると、悩みが消えることは少なくありません。
「田舎への移住はちょっとハードルが高い」という人は、転職するのもいいですよ。
今の職場の雰囲気がどうにも冷ややかで満足できないというのなら、たとえ給料が減ることになってしまったとしても、アットホームな雰囲気の職場を探し、そちらに転職するのです。そのほうが毎日、楽しい気持ちで暮らせます。
私たちの心理というものは、環境に応じて変わるのです。
自分の心理を変えるよりも、むしろ環境を変えることを考えたほうが、現実的にはすんなり問題も解決されることが少なくありません。
悶々としながら現状を嘆くよりも、環境を変えてみることを考えましょう。モヤモヤが消えて、ものすごくスッキリするはずですから。
「できない」と思っているのは本人だけ
大きな困難は、自分を過小評価するということです。「もう追いつくことはできない」と信じるのです。これは本当ではありません。実際追いつけるからです。判断が誤っていることを指摘しないといけません。さもなければ、生涯にわたる固定観念になってしまいます。
『子どもの教育』
「できない」という言葉は絶対に口にしないようにしてください。なぜなら、「できない」と思っていると本当に「できない」人間になってしまうからです。そういう思い込みをしないためにも、「私にはうまくできません」という言葉は口にしないほうがよいのです。
自分にはできないと思っていても、けっこうできてしまうことはよくあります。
カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学のリン・アルデンは、「自己主張するのが大の苦手」という人と、得意な人に集まってもらい、ビデオの前で相手の申し出を拒絶したり、相手にムリな要求をしたりする役割の演技をしてもらいました。
演技が終わったところで、「あなたはどれくらいうまく自己主張できたと思いますか?」と聞いてみました。すると、自己主張が苦手な人たちは、「声が震えていてみっともない」「しどろもどろで何を言っているのかよくわからない」などと悪い自己評価をしました。
ところが、ビデオ撮影したものを別の人に見てもらい、「どれくらいうまく自己主張できていると思いますか?」と尋ねてみると、自己主張が苦手な人が演技をしているときでも「スムーズに話せている」「不安を感じるようには見えない」とものすごく好ましい評価を受けたのです。自己主張が苦手な人も、自己主張が得意な人とまったく遜色のない評価を受けたのでした。
結局、「うまく話せない」というのは本人の思い込みにすぎず、他の人から見たら十分に「うまく話せている」と評価してもらえることのほうが多いのです。
私たちは、ともすると自分自身にものすごく厳しい得点をつけてしまうものですが、周りの人はそんなふうには思っていません。もっと好意的に評価してくれるものですから、そんなに心配もしないでください。
自己評価が低すぎる人は、他の人に聞いてみるといいですよ。自分の仕事ぶりがどうにも悪いように思うのなら、職場の同僚に「私の仕事ぶりって、10段階の評価で何点くらい?」と聞いてみるのです。おそらく自分では1点とか2点だと思っていても、他の人の目から見ると「8点くらいじゃない?」とびっくりするほど高い答えが返ってくると思います。
あまりに自己評価が高すぎるのも問題ですが、低すぎるのはもっと大きな問題です。もう少しだけ自分に自信を持ちましょう。実際に、そんなに悪いということはそんなにないものです。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)、『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)など多数。その数は250冊を超える。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
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