本記事は、内藤誼人氏の著書『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

準備
(画像=Татьяна Макарова / stock.adobe.com)

あらかじめ準備しておけば、何も怖くない

教育のもっとも一般的な原理は、私たちが後年の人生において出会う出来事と一致していなければならないということである。

『The best of Alfred Adler』

教育というものは、将来的に役に立つものでなければなりません。ところが私たちが義務教育で学ぶ内容の多くが、「これって、本当に社会に出てから必要かな?」と疑問符がつくようなものが多いのも事実です。

学生のうちから、社会に出たときのことを見据えて勉強していれば、いざ社会に出たときにも右往左往しなくてすみます。すでに学習済みなわけですから。

社会に出てから慌てずにすむためのコツは、自分が就きたい仕事について徹底的に調べておくことです。あらかじめ準備しておかないからパニックに陥るのであって、入念に準備しておけば、少しも不安になりません。

仕事で大切なのは準備。

あらかじめ自分なりに準備しておくからこそ、平常心でいられるのです。

アリゾナ州立大学のヴィンセント・ワルドロンは、就職面接のときにパニックにならないよう、「面接官にこう質問されたら、こう回答しよう」という想定問答集を作って準備している学生ほど、2、3か月後の調査で、しっかり内定を獲得していることを明らかにしました。

就職面接がうまくいかないのは、単純に準備不足。何の準備もせずに面接に出向いてしまうと、しどろもどろになってうまく答えることができないのも当然です。

何事も抜かりなく準備しておくのが正解です。

「お客さまとうまく話ができない」ということで悩んでいる人もいると思うのですが、それはある意味で自業自得。「こんな話題を自分から切り出そう」という準備をしっかりやっている人は、実際にうまく話もできるでしょうし、不安にもなりません。うまくできないのは、準備をしておかないからです。

私は、講演会やセミナーに呼んでいただくことが多いのですけれども、あまり自慢はしたくありませんが、ものすごく上手に話すことができます。というのも、あらかじめ原稿を丸暗記しているので、よどみなく話すことができるのです。いきなりアドリブで話すわけではないという点では、プロの落語家と同じことをしていることになります。

いろいろな想定問答集を自分なりに作ってみて、その通りに人と会うようにすれば、人間関係で問題を抱えることもなくなります。

原稿を覚えるのはちょっと大変かもしれませんが、それをしておいたほうが何事もうまくいくということを覚えておいてください。

事実は変えられないが、意味づけは変えられる

ドイツ語では、この言語特有の感覚で、経験することを「経験を作る」と言います。これは、経験をどのように利用するかは、その人次第であることを暗示しています。

『人間の本性』

過去に起きてしまった出来事の事実は変えることができません。「なかったこと」にはできないのです。けれども、そうした事実の意味づけは、自分次第で変えることができます。

どれほど悲惨な経験をしたとしても、その経験によって自分が成長したと考えることができるのなら、その悲惨な経験でさえ有益なものと考えることができるでしょう。

ワシントン大学のカーチス・マクミレンは子どもの頃に虐待を受けた女性154名に、虐待を受けた体験について「まったく益はなかった」を0点とし、「少しは益があった」を1点、「きわめて有益だった」を2点として答えてもらいました。

ごく常識的な判断をすれば、虐待を受けることに益などあろうはずがありません。ところがそうではありませんでした。なんと46.8%が子どもの頃に受けた虐待を有益だったと答えたのです。さらにそのうちの24%は「きわめて有益」とさえ答えたのです。その理由として、自分が子どもを持ったときに子どもを守れるようになった、虐待への知識が高まった、強い性格が手に入れられた、などが挙げられました。

たとえ辛い経験をしたとしても、必ずしもダメになってしまうというわけではありません。自分なりに意味づけを変えて、有益な経験として受け入れることもできるのです。

大学受験に失敗したら、人生は台なしになるのでしょうか。

いいえ、そんなことはありません。かりに志望大学に入ることができなくとも、そんなことで人生はダメになどなりません。一流大学に進学できなくとも、「エリートどもを見返してやる!」という強い気持ちを持つことができるのなら、むしろ受験で失敗したことがよかったとさえ思えるでしょう。

離婚をしたら、お先真っ暗になってしまうのでしょうか。

いやいや、そんなこともありません。昔と違って、今は離婚をしたということで悪い評価を受けることはありません。むしろ「つまらない人と別れたことで、自分の人生の選択肢が大きく広がった」とポジティブな意味づけをすれば、離婚をしたことも受け入れることができるはずです。

これはアドラー心理学の基本的な考え方なのですが、人間はたとえつまずいたり、転んだりしても、人間はいくらでもそこから立ち直ることができるのです。

自分の人生を変えたいのなら、まずは自分がコンプレックスに感じていることに対して、ポジティブな意味づけをしてみましょう。そうすれば暗い過去も、人生の汚点も、黒歴史も、すべて帳消しにできます。

お金以外に価値を見出す

われわれの文化において、お金がたとえ不十分なものであっても人間の価値をはかる基準になったので、誰もが(所持する)金額で自分の価値を見る努力をする。

『個人心理学の技術Ⅰ』

お金はたしかに生活をする上で重要ではありますが、お金、お金と、お金にばかり執着するのは、あまりにさもしい人生になってしまいます。

世の中には、もっと素晴らしいことがいくらでもあります。ガーデニングが趣味の人は、庭の草むしりをするのも至福の時間でしょうし、子どもが好きな人は、子どもと遊ぶ時間がかけがえのない喜びになります。

米テキサス州にある南メソジスト大学のローラ・キングによりますと、人生に意味を感じていると、高収入であるよりも、8倍も満足感が高くなるそうです。

小さな頃からなりたかった仕事に就くことができた人は幸せです。何しろ、仕事をしているだけで嬉しくなれるのですから。さらに仕事が楽しければ、いくらでも仕事ができるでしょうし、そうやって働いていれば自然と給料もアップするはずでよいことづくめだといえます。

お金に関して言いますと、「お金があれば幸せになれるだろう」という考えは、間違えています。お金が増えると幸福感までそれに比例して高くなるかというと、そんなこともないのです。

プリンストン大学のダニエル・カーネマン(心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞した珍しい方です)は、1,173名を対象にした年収と幸福感の関係を調べ、収入の多さと幸福感にはまったく関係がないことを示しました。

カーネマンが調べたところ、年収が9万ドル以上の高額所得者のうち「かなり幸せ」と答えた人は51.8%でしたが、年収2万ドル以下の人では「かなり幸せ」と答えたのは60.5%だったのです。

私たちには、他の人の利点だけを見てしまうところがあります。カーネマンはこれを「フォーカス幻想」と名づけました。

お金のない人は、お金持ちのよいところばかりに焦点を当てて考えます。大豪邸に住むことができるとか、高級車に乗れるとか、ブランドの服を身につけられるなどです。ようするにお金持ちのよいところだけを見て、「いいなあ …… 」と思ってしまうのです。

けれども、お金持ちは悪いところも自分のことなのでよく知っています。お金があるばかりに強盗に襲われる危険が高いとか、仕事以外の時間があまりとれないとか、さまざまな問題を抱えています。決して、お金持ちだから幸せ、というわけでもないのです。

『不安や悩みがすぐに軽くなるアドラー心理学』より引用
内藤誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。著書に『人間関係に悩まなくなるすごい心理術69』(ぱる出版)、『いちいち気にしない心が手に入る本:何があっても「受け流せる」心理学』(三笠書房)、『「人たらし」のブラック心理術』(大和書房)、『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』(総合法令出版)、『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)など多数。その数は250冊を超える。

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