本記事は、桑原晃弥氏の著書『ドナルド・トランプの名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=sdecoret / stock.adobe.com)

これは壮大なプロジェクトだ。
この仕事で君は一躍スターになれるぞ

―― 「トランプ自伝」

トランプの特徴は「世界一」や「当代最高」への強いこだわりにあります。1つの時代に「世界一」や「当代一」がいくつも共存することはありません。自分がつくるものこそ最高のものにしたいというのがトランプの考え方です。

最高のものをつくるためには最高のスタッフや最高の会社と手を組むことが不可欠です。ここで妥協すると目指す「卓越したものづくり」は不可能になるからです。だからこそ、ウォルマン・スケートリンクの管理は「当代最高の腕を持つ会社」(「トランプ自伝」)に任せましたし、初めてのゴルフ場開発では世界トップレベルの人や企業に教えを請うことでプロジェクトを成功させています。

そんなトランプもグランド・ハイアットの建設にあたってはまだ20代であり、誇れるほどの実績もありませんでしたから、世界最高の建築家に依頼するほどの力はありませんでした。しかし、それで諦めるトランプではありません。代わりに将来、世界最高の建築家になりそうな人を探しています。荒廃したコモドアを再生する方法はいくつかありました。ある安ホテルのチェーンは自分たちがコモドアを買い取れば、2、300万ドルかけて改装して運営すると提案しましたが、それは三流のホテル会社による二流の改装工事(「トランプ自伝」)であり、トランプによるとそんな手を入れる程度の改装は地区の再生にとって何の役にも立たない提案でした。

二流三流の仕事を続けても一流になれることはありません。トランプが考えていたのは荒れ果てている周辺の建物との調和など無視した完全なつくり変えでした。そんな人目を引く斬新なデザインを実現するためにトランプが選んだのは「若い才能ある建築家」のダー・スカットでした。トランプはスカットに「なるべく図面に金をかけたように見えるようにしてくれ」(「トランプ自伝」)と依頼し、安い設計料しか払っていません。代わりにこう言いました。

「これは壮大なプロジェクトだ。この仕事で君は一躍スターになれるぞ」

スカットはのちにトランプ・タワーなども手掛けることになり、「トランプが私の将来について語ったことは正しかった」とのちに認めたといいます。才能ある人ほど壮大なプロジェクトに心惹かれるものです。スティーブ・ジョブズも才能ある人を見出し、そして口説き落とす達人でしたが、トランプにも早くから才能ある人を見出し、やる気にさせる才能が備わっていたのです。才能ある人は才能を認めてくれる人を好み、お金以上に仕事のやりがいや、「世界を変える」といった影響力に惹かれるものなのです。

ワンポイント
才能ある人間を口説きたいのなら、お金よりもその仕事がいかに魅力的かを語れ。

相手がどう接するかが、そのまま私の相手に対する接し方になることもある。
これを私はフェアプレーと呼んでいる

―― 「明日の成功者たちへ」

トランプはその言動のせいか非常に攻撃的な人間と思われていますが、一方で「誰かに助けてもらったら、必ずお礼を言いなさい。これは人生の基本中の基本だ」(「でっかく考えて」)と話しているように「感謝の心」を大切にする人間でもあります。

「私たちには誰でも、感謝すべきことがたくさんある」というのがトランプの考え方です。とはいえ、世の中には感謝の念を忘れた恩知らずもたくさんいるのも事実です。トランプは何度も何度も擁護したにもかかわらず、感謝の手紙一本受け取っていない相手に対しては一切容赦することはありません。トランプは言います。

「私のモットーは『必ず借りを返せ』だ」(「でっかく考えて」)

相手が自分を助けてくれたならお礼を言って感謝の気持ちを忘れませんが、もし誰かにひどい目にあわされたなら、徹底的に反撃しなければならないというのがトランプの流儀です。

「右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ」ではありませんが、本来、どんなにひどい目にあわされても寛容の精神で接するのが立派な大人の態度のような気もしますが、トランプはきっぱりと否定しています。こう言い切っています。

「相手が私にどう接するかが、そのまま私の相手に対する接し方になることもある。これを昔から言う『目には目を』方式と呼ぶ人もいるが、私はフェアプレーと呼んでいる」

マンハッタンに進出したばかりの頃、ペン・セントラル鉄道が持つ操車場跡地を購入する権利をトランプは取得します。価格は6,200万ドルでしたが、この計画をトランプが発表するとすぐにあるプロジェクトでパートナーを組んだこともあるスタレット・ハウジング社が1億5,000万ドルというはるかに高い金額での購入を申し出ます。

金額では負けていてもトランプは引き下がるつもりはありませんでした。「私は負けず嫌いで、勝つためには法の許す範囲ならほとんど何でもすることを隠しはしない。時には競争相手をけなすのも取引上の駆け引きの1つだ」と考えるトランプはあらゆる手段を使って勝利します。

相手が戦いを挑んでくるのなら、こちらも勝つためにはあらゆる手を使えばいい。それがトランプ流の「フェアプレー」でした。いじめっ子に対処するには殴られたら思い切り殴り返して、相手が何をしているかを分からせることが必要だ。これがトランプの言うフェアプレーの精神です。トランプ外交にもこうしたフェアプレーの精神がいかんなく発揮されています。

ワンポイント
親切にされたらお礼を。ひどいことをされたら同じことをやり返す。
『ドナルド・トランプの名言』より引用
桑原晃弥(くわばら てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『トランプ108の言葉─読むだけで人生に革命が起きる』(すばる舎)、『ドナルド・トランプ勝利への名語録─世界を揺るがす90の言葉』(PHP文庫)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『藤井聡太の名言 勝利を必ずつかむ思考法』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』『不可能を可能にする イーロン・マスクの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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