新しい資本主義の担い手であるベンチャー企業。政府からユニコーン100社創出が宣言されたこの状況下において、「現在の成長企業・ベンチャー企業の生き様」は、最大の関心事項と言える。ジャンルを問わず、一社のトップである「社長」は何を思い、どこにビジネスチャンスを見出しているのか。その経営戦略について、これまでの変遷を踏まえ、様々な角度からメスを入れる。

株式会社フリースタイル
(画像=株式会社フリースタイル)
青野 豪淑(あおの・たけよし)――代表取締役社長
大阪生まれ。6人兄弟の末っ子として貧困の中で育つ。早く自立を目指し、大手食肉店に就職するも、業績悪化を機に営業職へ転身。好成績をおさめるが、私生活では自己啓発セミナーに傾倒し4000万円の借金を抱え、どん底に。利己的な過去を反省し「人のために生きる」と決意。会社員の傍ら若者の就職支援を始め、2006年に株式会社フリースタイルを設立。ITスキル習得をサポートし、技術者を育成する体制を築く。
愛知・東京を拠点に、SES事業・システム開発事業・ゲーム開発事業を展開しています。 IT人材育成に力を入れており、技術者枠で採用する人材の8割が未経験スタートです。当社が提供するプログラミング学習カリキュラムや勉強会、認定試験制度を通してスキルを身につけ、システムエンジニアやゲームプログラマとして第一線で活躍している人も多数。 2014年には、スキルを身につけた社員から上がった「やりたい!」の声をもとに、ゲーム開発事業が発足しました。現在では当社の看板事業となっています。

目次

  1. これまでの事業変遷
  2. 飛躍的な成長を遂げた秘訣
  3. 経営判断をする上で重要視している点
  4. 今後の事業展開や投資領域
  5. メディアユーザーへ一言

これまでの事業変遷

—— 御社の事業の変遷についてお話しいただけますか。

株式会社フリースタイル 代表取締役社長・青野 豪淑氏(以下、社名・氏名略) 私は営業職を長く続けておりまして、その中で人の役に立ちたいと思うようになりました。あるときテレビで非行少年たちを助けていた水谷先生という方に感銘を受け、私も繁華街の近くで定職につかない若者たちと仲良くなり、経営や営業のことを教えるボランティアを始めたのがきっかけです。

その活動が徐々に人気になり、セミナーをしたり、勉強サークルのような形になりました。クリスマスパーティーでは500人以上集まったこともあります。

その後、その若者たちの親とも会うようになり、彼らの就職を手伝うようになっていきました。ただ、企業の社長にお願いして就職を斡旋しても、彼らはすぐに辞めてしまうことが多かったんです。そんな中で、1人の青年から「青野さんが会社作って俺らを雇ってくれればクビにはならないだろう」と言われ、その一言から、自分で会社を立ち上げて最初は20人ほどをを雇うことにしました。

不良少年・少女たちには営業を、オタクたちにはプログラミングを教え、IT会社として事業を始めました。口コミで人が増え、売上も自然と大きくなりました。最初はフリースタイルで経験を積んで、他社へ転職しステップアップしていくことを想定していましたが、5年目、10年目からは会社に残る人も増えてきました。

今では普通の会社として成長していますが、もともとはボランティア精神から始まったものです。

—— なるほど、非常にユニークな経緯ですね。御社のスタートがボランティア精神から来ているというのは、他の企業とは違いますね。

青野 そうですね。ほかの社長たちと話していると、みんな商品作りに情熱を注いでるんですよね。でも、僕の場合はそれよりも、目の前にいる人たちをなんとか雇ってあげたい、居場所を作ってあげたいっていう思いがすごく強かったんです。

今は社員たちから「こういうものが作りたい」という声があがり、それらが事業化していっています。私も貧しい家庭で育ちましたが、貧しい家だったり学歴面でハンディキャップのある人にとっての夢って、「スーツを着てオフィス街で働く」ということだったりするんですよ。その夢だったら自分にも叶えてあげられるんじゃないかと思って、今まで続けてきたと言う感じです。

他社の採用の機会に恵まれなかった子たちも採用し、社内教育を通していいプログラマーに育てています。今は次のステップとして上場を目指していますが、会社が大きくなりすぎてどうなるか分からないというのが正直なところです。

—— 2年前くらいに、銀行から上場した方がいいと言われたと聞きましたが、その時はどう感じましたか?

青野 そうですね。私は会社を立ち上げたときからお金稼ぎを目的にしていませんでした。そのため、これまでの経営姿勢や事業内容を見て、「上場もしやすい会社ですね」と言っていただくこともあります。

上場のメリットについてはまだ模索中な部分もありますが、47歳になり、今後の事業承継や会社の持続的な成長についても考えるようになりました。 そういう理由から上場という選択を意識するようになりました。

—— 上場の承認が出るのを見るのが楽しみですね。社員の方々も日々楽しく働いているのではないでしょうか?

青野 そうですね、社員たちは非常に仲が良いです。最近は良い人材が入ってきますが、昔は高校中退や大学中退の人が多かったですね。何かしらの挫折を経験した人たちが集まってくるので、自然と仲良くなります。お互いに支え合いながら楽しくやっているのだと思います。

離職率も非常に低いです。特に主要な人員は辞めないですね。業界平均は30%くらいですが、うちは7.69%です。主要な人材に対しては他社からの引き抜きの話もありますが、それでも残る人が多いです。愛着があるのでしょうね。

—— それは素晴らしいですね。他の会社はどうしても人材流出に悩んでいるようですが、何かアドバイスはありますか。

青野 愛情を持って社員を育てることが大事です。

不登校など、ドロップアウトの経験があったり、経歴にコンプレックスを感じている人ほど、成長の機会や活躍の場を与えることで『会社に育ててもらった』という愛着を持ってくれることが多いんです。

もちろん、すべての人が残るわけではありませんが、文化が醸成されていると感じます。

—— 文化の醸成ですか。それは具体的にどういった取り組みをされているのでしょうか。

青野 私たちは、配置転換を積極的に行っています。開発がダメだったら営業部に移したり、他の部署に配置転換したりして、その人に適した場所を見つけるのです。トラブルがない限り、能力が低くても配置転換で活躍できる場所を探します。

—— 長期的な視点での人材育成が重要だということですね。

青野 そうです。長い目で見れば、ダメな子でも10年経てば優秀になります。経験が大事です。教育に投資することで、優しい社会が広がると思います。企業が教育にもっと力を入れれば、日本全体が良くなると信じています。

私自身、低学歴の世界から来ました。未経験者は即戦力にはならないかもしれませんが、やる気がある人なら1年ほど育てれば大きな力になります。大手企業にも様々な背景を持つ人材を採用してほしいですね。バランスを持って、多様な人材を育てることが重要です。

飛躍的な成長を遂げた秘訣

—— 御社が飛躍的な成長を遂げた秘訣について、どういったところにそのエッセンスがあると思われますか?

青野 愛がお金に変わっていくということですかね。お金に対する欲はあまりなく、とにかく人に優しく接することが大事だと感じていました。不良少年でも、愛情を持って接すれば変わることができます。彼らを見捨てるのではなく、肩を組んでラーメンでも食べながら、兄貴のように接することで、結果的に組織としての結束力が強まり、離職率の低下にも繋がるんです。

—— 若者たちへの愛情が、結果的に会社の成長に繋がっているのですね。

青野 そうです。特にIT業界では、優秀な人材が引き抜かれてしまうことが大きな問題です。中小企業では、上位の社員が抜けると一気に会社が縮小してしまうこともあります。うちの会社はそのような引き抜きに遭わないように、社員を家族のように大切にしています。親代わり、兄貴代わりとして接することで、社員が安心して働ける環境を作っています。

—— 社員の自主性を尊重することも大切にされているのですね。

青野 はい。部下がやりたいことを尊重し、挑戦させることで、結果的に成長に繋がることが多いです。例えば、Nintendo Switch向けのゲーム『オバケイドロ!』がヒットしたのも、部下の発案から始まりました。最初はゲームを作ったことのないメンバーが提案してきたのですが、やらせてみたところ大成功しました。

—— それは素晴らしいですね。お金を未来への投資に使うことで、さらに会社が成長するということですね。

青野 そうです。貯まった利益を事業に投資し続けることで、どこかで成功する可能性が高まります。私自身、派手な生活には興味がないので、結果的に堅実な投資ができているのだと思います。

ただ、やりたいことを優先するあまり上場準備では予算やコストの想定が甘く、バタつくこともしばしば。今は、コンサルタントが来て、KPIなどの計算をしてくれており、着実と固まってきています。

経営判断をする上で重要視している点

—— 経営判断をする上で、重要視している点は何ですか?

青野 あまりこちらから「これをやれ」と指示すると、やりたくなくなることが多いです。私が部下だったら嫌ですからね。だから、彼らに「何をやりたいのか」と尋ねることが大事です。自分からやりたいと言い始めたことは、成功することが多いです。

うちの会社は200〜300人ほどいますが、事業部が一人で立ち上がると、その人に人を集めさせるんです。前のチームから人を引き抜いて、自分のチームに引き込むんです。そうすると、他の部署にいる人たちが自然と集まってきて、チームが形成されます。

—— その事業に興味を持った人たちが自然と集まるということですね。

青野 そうです。部署内で「この人は重要だから引き抜くな」なんて喧嘩が起こることもあります。でも、それが面白いんです。

昔は適当にやっていたことが、今では文化として定着しています。ある程度の区切りをつけて、「この部署を辞めてあっちに行きたい」と言う社員もいます。転職のような感覚ですね。

—— それは興味深いですね。

青野 文化として定着するか、ルールとして縛られるかは大きく異なります。上からの命令で動くよりも、自分たちがやりたいことをやる方が良い結果につながることが多いですから。

私も正直、従業員にやってほしいことはたくさんありますが、やりたいと言い出すまで自分でやることが多いです。

うちの会社は社名のごとく、社員たちは自由に動いていると思います。

今後の事業展開や投資領域

—— 今後の事業展開について、どのような方向性を考えていらっしゃいますか?

青野 そうですね、やりたいことを持っている社員がリーダーとなり、商品を作っていく体制を取っています。これにより、いくつかの事業が成功し、他の失敗したビジネスの赤字を補うことができるのです。企業としては、コンサルの意見通りに成長している形ですね。

唯一、私が指示しているのは、様々なアプリやゲーム、そして便利系アプリや企業向けの商品を作ることです。特にゲームは社員から人気があり、やりたいという声が多く上がりますが、他の分野にも力を入れてほしいと思っています。ゲーム市場が変わると、会社全体が影響を受ける可能性があるので、多角的な商品開発を進めています。

—— それは非常に戦略的ですね。多様な事業を立ち上げるための資金はどのように管理されていますか?

青野 1つの事業に対して約5000万円の予算を割り当てています。もちろん、すべてがうまくいくわけではありませんが、失敗から学ぶことも重要です。最近も、予算をもらっているプロジェクトがうまくいかないと相談を受けましたが、逃げずにしぶとく続けることが大切だと伝えました。大体、5年ほど粘れば事業は成功するものです。

—— 失敗も成功の一部と捉えているわけですね。新規事業の数には制限を設けているのですか?

青野 当社の規模では新規事業は5つが限界です。一度に30個も立ち上げると会社が潰れてしまいますから、慎重にコントロールしています。多くの社員から「やりたい」と声が上がりますが、優先順位をつけて進めています。

最近は海外事業をやりたいという声もありますが、アメリカなどは居住費や人件費が高いので、すぐに実現するのは難しいです。社員が3人ほど仲間を集めて準備を進めていますが、現時点では時期尚早だと伝えています。それでも、こうした積極性は素晴らしいと思います。

—— 社員との距離感についてはいかがですか?

青野 以前よりは少し距離ができましたが、まだ普通の会社よりは近いと感じています。社員が自由に意見を言える環境を大切にしています。これからも、社員の声をしっかりと聞きながら、会社を成長させていきたいと思います。

メディアユーザーへ一言

—— 最後に、メディアユーザーへのメッセージをいただけますか?

青野 今、日本では少子化が進んでいるとか、労働力が不足していると言われていますけど、実際には見えにくい存在になっている人がたくさんいるんですよ。例えば、引きこもりの人たちが800万人もいるとも言われています。その人たちが社会に出て、働く力を持てるようになれば、外国からの労働者なんて必要なくなるんじゃないかと思うんです。

例えば、採用にかかる広告費ってすごい金額がかかっていますよね。企業が広告に何十億円も投じるなら、むしろそのお金を教育に回せば、若い人たちを育てるための機関を作れると思うんです。私は日本の社会が、求人費を教育費に使うような方向にシフトすれば、もっと良くなるんじゃないかと考えています。

—— 広告費が増えていく中で、なぜその方向に転換すべきだと思うのでしょうか?

青野 広告会社はどんどん成長していますが、実際にその広告費を使っている企業が、人材を育てるために使っているかというと、そうではないんですよ。求人広告に「即戦力を求める」とか書いてありますけど、結局それって経営者の短期的な利益思考が表れています。即戦力だけを求めて、育成の時間をかけないのは、結局企業の疲弊を招くだけだと思うんです。

なので、例えば、企業が教育機関を持ち、そこから学び成長した人材を受け入れるようになれば、社会全体が強くなりますよね。優秀な人たちだけを取り合うのではなく、支援や機会があれば飛躍できる人たちを救い上げる仕組みを作れれば、日本全体の経済力が上がるはずなんです。

私たちの活動が少しでも多くの企業に広がり、変化を促すことができれば。それが私たちの目標です。

氏名
青野 豪淑(あおの・たけよし)
社名
株式会社フリースタイル
役職
代表取締役社長

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