紀伊国屋書店は、京王電鉄傘下で「啓文堂書店」を展開する京王書籍販売(東京都多摩市)を買収することになった。書店の買収は昨年12月末、旭屋書店の運営会社を子会社化したのに続く。本離れ、スマートフォンの普及などを背景に深刻な出版不況が続く中、矢継ぎ早に繰り出した書店M&Aの狙いどこに?

国内100店舗の実現に弾み

紀伊国屋書店は6月30日付で京王書籍販売の全株式を取得し、完全子会社化する。取得金額は非公表。京王書籍販売は1975年に創業し、京王線を中心に、小田急線、JR中央線沿線に「啓文堂書店」を20店舗運営する。最盛期は40店舗を超えていたが、2010年代以降、店舗網を縮小してきた。

啓文堂書店の店名については子会社化後、順次変更される。折しも創業50年の節目の年に、啓文堂書店の名前に別れを告げる。

紀伊国屋書店は現在、国内70、海外43の店舗を展開する。創業100周年となる2027年に向けて国内、海外のいずれも100店舗の実現を目指している。今回の啓文堂書店の買収により、国内100店舗体制に大きく弾みをつける形だ。

M&A Online
(画像=京王電鉄傘下の「啓文堂書店」(都内で)、「M&A Online」より引用)

その紀伊国屋書店は昨年12月末、「蔦屋書店」や「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC、東京都渋谷区)から旭屋書店(大阪市)と東京旭屋書店(東京都豊島区)の全株式を取得し、完全子会社化して間もない。

旭屋書店は戦後、大阪で創業し、関東進出に際して東京旭屋書店を設立。ひところは国内30店舗を超え、香港にも出店した。しかし、業績低迷に伴い2018年にCCCの傘下に入った。現在の店舗数は東西で7店舗にとどまるが、紀伊国屋書店グループ入り後も今のところ、「旭屋書店」の店名は維持したままだ。

紙の出版市場、20年で6割減る

紙の出版物の販売額は1996年をピークに長期低落が続いている。出版科学研究所の調べによると、2024年の出版物販売額(取次ルート、電子出版は除く)は前年比5.2%減の1兆56億円(書籍4.2%減の5937億円、雑誌6.8%減の4119億円)。ピーク時の2兆6564億円に対し、この20年間で6割減ったことになる。

出版業界では販売面で「雑誌優位」の時代が長く続いたが、2016年を境に状況が一変。書籍の販売が雑誌を上回るようになった。雑誌が電子媒体などデジタル化の影響をもろに受け、売り上げを落としたためだ。

出版市場の縮小は書店の経営を直撃し、これにアマゾンに代表されるネット書店の台頭が追い打ちをかけた。2000年代初め全国2万店を超えていた書店数は1万店ほどに半減。実際、商店街など街の本屋が次々に姿を消している。

もちろん、紀伊国屋書店としてデジタル化の進展に手をこまぬいているわけではない。2023年4月に「紀伊国屋書店バーチャル新宿本店」をオープン。リニュアルした新宿本店をバーチャル空間に完全再現した。