この記事は2025年5月20日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:財政収支が黒字化すれば国民の所得は減少します」を一部編集し、転載したものです。

シンカー
フランス政治:新選挙制度導入による解散総選挙の可能性
恐らく、今後2年間のフランス政治における最大の不透明要因は、再び総選挙が実施されるかどうかであろう。これは、政府が難解な予算案をいかに可決できるかによって決まる可能性が高い。しかし、新たな要因を綿密に考慮する必要がある。
4月末以降、バイル首相は、比例代表制への移行に向けた選挙法改正について政党指導者と協議している。RNは、現在の世論調査で約35%の支持率を得ていることから、この比例代表制の恩恵を受けるだろう。相対多数は確保できるものの、絶対多数を獲得するのは依然として困難であり、より広範な連立政権(国民議会内および選挙区レベルの両方)が必要になるだろう。RNに対抗する政党間の協力は、この新制度の下では不可能となるだろう。
RNにとって、比例代表制では選挙区の規模が小さいほど、最終的な議員数は増加する。中道は大幅に縮小するものの、議会における議席の20~25%は維持される可能性が高い。これは、LR(共和党)、社会党、その他中道政党の連携の成否次第である。共和党のみが比例代表制に強く反対している。2024年の2つの選挙(欧州議会選挙と総選挙)結果を、5%の得票率基準による県別比例投票制度と地域別比例投票制度に基づいて、いくつかの予測が立てられる(図3、4)。
現在、政府と各政党間の協議が継続中で、政府は今後数週間以内に法案を提案する可能性がある。ただ、国民議会で比例代表制に関する合意に至る可能性は、年初に予想した20~25%という数字よりも高いと思われるものの、メインシナリオとするには十分ではない。6月30日の現在の国民議会会期末に合意に至る可能性は比較的低く、次の会期は10月から予算審議とともに始まる。さらに、この問題を議論するために夏に臨時国会が開催される可能性も低いだろう。
バイル首相は、2026年度予算に対するRNの強い反対を避けるため、意図的に比例代表制に関する議論を数ヶ月間引き延ばし、年末まで持ち越そうとする可能性がある。これは、現在、2026年度予算と政治的安定にとって最も深刻なリスクであると考える。マクロン大統領はこのプロセスには関与しない。ただ、法案が可決されれば、マクロン大統領は同制度を直ちに活用するために、6月以降に総選挙を行う可能性が出てくる。そして、ほとんどの政党もマクロン大統領にそのように促すだろう。これは短期的な政治的不確実性のリスクを高める要因となる。
法案が夏前に可決されれば、その後数ヶ月以内に再度総選挙が行われる可能性が大幅に高まると我々は考える。早ければ9月もあり得るが、2026年1月になる可能性が高い。各政党は2025年10-12月期の予算審議において政府に反対し、新たな総選挙を強いる動機が高まるためである。その結果、政治的な不確実性が高まり、フランス政治の注目は現在よりもさらに議会中心、予算中心となるだろう。(松本賢)
財政収支が黒字化すれば国民の所得は減少します
■ マクロ経済学では、誰かの支出が、誰かの所得となります。
■ 企業の支出が弱い間は、政府が支出拡大や減税をして財政収支は赤字であるべきです。
■ 財政赤字と企業の貯蓄率を合計したネットの資金需要が、政府と企業の合わせた支出する力を示します。
■ 企業が貯蓄をしている時に、財政収支を黒字化させることは、所得の減少を通じて、国民の生活を困窮させ、内需停滞で投資と成長が生まれないことで、負担を将来世代に先送りすることになります。
■ ネットの資金需要(GDP%)を0%ではなく、名目GDP3%成長と整合的な-5%程度とすることが、財政政策の正しい目標です。
■ 2024年10-12月期には財政収支はついに黒字になってしまいました。
マクロ経済学では、誰かの支出が、誰かの所得となります。政府と企業の支出する力が弱ければ、国民の所得が強く増加することはできません。企業の貯蓄率は、借入でマイナスになるのがマクロ経済学的に正常ですが、プラスの異常な状態になってしまっています。企業の支出(賃金や投資)が極めて弱い異常な状態で、デフレ構造不況の原因となってきました。
企業の支出が弱い間は、政府が支出拡大や減税をして財政収支は赤字であるべきです。財政赤字と企業の貯蓄率を合計したネットの資金需要が、政府と企業の合わせた支出する力を示します。企業の支出の弱さと比較し、消費増税など財政政策は緊縮で、ネットの資金需要が消滅してしまいました。国民に所得がしっかり回らず、緊縮財政がデフレ構造不況からの脱却を妨げてきました。
企業が貯蓄をしている時に、財政収支を黒字化させることは、所得の減少を通じて国民の生活を困窮させ、内需停滞で投資と成長が生まれないことで、負担を将来世代に先送りすることになります。ネットの資金需要(GDP%)を0%ではなく、名目GDP3%成長と整合的な-5%程度とすることが、財政政策の正しい目標です。国民に所得をしっかり回すことができる水準です。
ネットの資金需要はまた消滅していて、大きな減税余地(マクロの財源)があることを示します。2024年10-12月期には財政収支はついに黒字になってしまいました。一方、家計の貯蓄率は最低水準まで低下して、将来に向けた貯蓄がほとんどできないほどに国民は困窮してしまっています。
図1:財政収支ではなく企業行動も考慮したネットの資金需要が正しい財政目標です

図2:国民が困窮してる中での財政収支の黒字は税金の取り過ぎとの批判を免れません

図3:2024年選挙結果を踏まえた比例代表制選挙後の議席構成シナリオ(左:欧州議会選、右:総選挙(第1回投票))

図4:2024年選挙結果を踏まえた比例代表制選挙後の議席構成シナリオ(左:欧州議会選、右:総選挙(第1回投票))

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