この記事は2025年6月9日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):利上げより国債格下げが怖いという非合理」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 5月米国雇用統計:関税の雇用への悪影響はまだ顕在化せず
  2. 利上げより国債格下げが怖いという非合理
  3. 社会保障の負担による財政危機の思い込みが国民生活を困窮化してしまいました(6月3日)
  4. 財政余力を政府だけで見るのはマクロ経済学として間違いです(6月4日)
  5. 消費減税ができない根拠 日本国債の評価は本当にギリギリなのか?(6月6日)
    1. 日本の国債の評価はギリギリ発言についてどう考えるか?
    2. 財務省の考えは食料品の消費税率引下げが出来ない根拠となるのでしょうか?
    3. 総理大臣や財務大臣の財政に関する発言に、多少なりともマーケットは反応してしまうのでしょうか?
    4. 社会保険料の引き下げや減税で、国民生活は支えられないのでしょうか?
    5. 高齢化と社会保障費についてどのようにお考えでしょうか?
  6. シンカー
    1. 6月ECB理事会:25bpの利下げを決定、利下げサイクルは終了か

シンカー

5月米国雇用統計:関税の雇用への悪影響はまだ顕在化せず

5月米国雇用統計は雇用者数が前月比+13.9万人、失業率は4.2%で横ばいとなった。3月と4月の雇用者数が合わせて9.5万人下方修正されるなど、雇用者数の伸びは小幅になりつつあるも、トランプ関税後の悪影響が懸念されていることを踏まえれば、堅調な推移が続いている。

業種別では娯楽・宿泊と教育・ヘルスケア合わせて+13.5万人と全体を押し上げた。母数が大きく全体の押し上げにこれまで寄与してきた教育・ヘルスケアは新型コロナで大きく雇用が減少してから直近で概ね過去のトレンドに沿った水準に回復したことで、増加幅は徐々に鈍化していく可能性がある。

製造業や貿易・輸送・公共事業など関税との関連が強いと考えられる業種はそれぞれ直近3ヵ月の伸びの平均が若干マイナスの-0.1万人、-0.4万人ではあるが、まだ大きく悪影響が出ているとは言えないだろう。政策不透明感はありながらも、相互関税の猶予期間が続いており、貿易が急激に滞っている状況にはないことが反映されているとみられる。

GDPでFRBが注視している、家計と企業の消費や支出の合計である民間最終消費は25年1-3月期も前期比年率+3.0%(前年比+2.9%)と堅調で、雇用の支えとなっている。雇用の伸びがマイナスとなる景気後退は、過去の関係性をみると、前期比ベースで最終消費がマイナス圏になるような経済状況だが、4月以降の各指標は減速しつつも大きくは崩れていない。

ただ、プラス圏の実質金利や実質賃金、そして関税引き上げによる当面の企業利益の下押しで企業の投資や雇用は引き続き減速が続くとみられる。こうした引き締め的な環境下で投資の拡大等で再び鈍化トレンドを転換させるには、90年代後半のような、企業利益を度外視した強い成長期待が必要となってくるだろう。(松本賢)

利上げより国債格下げが怖いという非合理

■ 6月の骨太の方針に先立ち、財務省の諮問機関である財政制度等審議会は財政運営に関する提言で、財政に対する市場の信認を維持するためには、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を一定程度黒字に保ち続け、日本国債の格下げリスクを回避する必要があると主張した。直近で米国やフランスの国債が格下げされたのは財政への信認が揺らいだ事例であると指摘し、日本国債の格下げも「決して非現実的な話ではない」と警告した。石破首相は、「金利がある世界の恐ろしさをよく認識する必要がある」と述べ、自民党の森山幹事長も、「日本の国債の評価がギリギリのところまで落ちている」と述べるなど債務残高GDP比などを念頭に、格下げによる金利上昇リスクへの懸念を示している。マーケットでも、足元で30年など超長期の国債が売られているのは、財政拡大への懸念であると解釈をするなど、日銀による利上げの影響は許容する一方で、日本の債務状況を踏まえた将来的な格下げリスクが金利上昇を引き起こすことへの警戒が強い。

■ 日本国債の格下げによる長期金利の押し上げ圧力は、格付けを指数化したうえで長期金利の推計式に代入することで測ることができる。10年金利を、日銀の政策金利であるコールレート、米国10年金利、ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、GDP比)、日銀の国債買入れ額(GDP比)、そして格付け会社S&Pの格付けを用いた格付け指数(AAAを0、AA+を1、AAを2、のように格付けが下がるごとに1を追加)で推計する。推計式の係数をみると、日銀の利上げでコールレートを25bp引き上げると10年金利には17bp程度の押し上げ圧力がある一方で、格下げは1ノッチ(指数は1増加)で5bp程度の押し上げ圧力と、利上げの1/3以下であることが分かる。過去の長期金利の変動は、これまでの国債格下げや政府の債務残高増加ではなく、政策金利や、政府と企業を合わせた資金需要の影響が強いことを示している。日銀の利上げを許容して、国債の格下げの長期金利上昇圧力を恐れるのは非合理的だ。国債の格下げが怖いのなら、日銀の利上げを止めさせるべきだろう。

■日本国債の格下げによる長期金利の押し上げ圧力が軽微であれば、政府は格付けを過度に不安視するのではなく、財政支出(=ネットの資金需要の拡大)で内需を押し上げることが優先の、「経済あっての財政」の姿勢を続けることが正しいことが分かる。過去の日本国債の格下げに沿う形で推移してきた一般政府の純負債残高(GDP比)は、新型コロナ後の財政拡大による名目GDPの増加や資産価格の上昇が影響し、足元まで急低下している。純負債残高は先進国では日本が唯一コロナ前の2019年水準を下回っており、格下げが懸念されるのではなく、格上げが妥当な状況であるともいえる。また、政府の純利払い費は、他国と大きく異なり、GDP比でほぼゼロである。

■ 格下げや「金利のある世界」を恐れて財政政策の幅を狭めてしまうことこそが、将来の低成長と純負債の増加に繋がることとなる。成長のない中で無理に政策金利を引き上げ、日銀が「金利のある世界」を作り出すのではなく、企業の資金需要の復活による経済成長率の押し上げで自然利子率が上がっていく形での「金利のある世界」が本来あるべき姿である。1-3月期の実質GDPは、二次速報で、前期比年率-0.2%へ―0.7%から上昇修正された。上方修正のほとんどが在庫の増加によるものだ。トランプ関税前の駆け込み生産・輸出の在庫がはげ落ちることにより、4-6月期は前期比年率―0.4%の2四半期連続のマイナス成長となり、テクニカル・リセッションとみなされるリスクが高まった。日銀は今年に利上げは出来ず、追加利上げは早くて来年1月となるだろう。

国債10年金利(%)=0.01(定数) +0.66 コールレート(%)+0.31 米国10年金利(%)-0.057 ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支、対GDP比%)-0.040 日銀長期国債買入れ額(年率換算、対GDP比)+0.05 格付け指数(S&P:AAAを0、AA+を1と、格付けが下がるごとに1を追加) R2=0.97

図1:利上げと格下げの10年金利への影響

図1:利上げと格下げの10年金利への影響
(出所:S&P Global、Bloomberg、日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図2:政府の純負債残高(負債ー金融資産)と格付け

図2:政府の純負債残高(負債ー金融資産)と格付け
(出所:S&P Global、Bloomberg、日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図3:一般政府の純利払い費

図3:一般政府の純利払い費
(出所:OECD、クレディ・アグリコル証券)

図4:米国雇用者数:教育・ヘルスケアサービス

図4:米国雇用者数:教育・ヘルスケアサービス
(出所:BLS、NBER、クレディ・アグリコル証券)

図5:米国実質GDP民間最終消費と民間雇用者数

図5:米国実質GDP民間最終消費と民間雇用者数
(出所:BEA、BLS、NBER、クレディ・アグリコル証券)

図6:米国企業利益と実質非住宅投資

図6:米国企業利益と実質非住宅投資
(出所:BEA、NBER、クレディ・アグリコル証券)

図7:米国実質GDP知的財産生産物投資とNasdaq指数

図7:米国実質GDP知的財産生産物投資とNasdaq指数
(出所:BEA、NBER、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

社会保障の負担による財政危機の思い込みが国民生活を困窮化してしまいました(6月3日)

社会保障費は、高齢化に比例的に増加していることが確認され、等比級数的な増加というのは思い込みにすぎませんでした。社会保障費(GDP%)の伸び率は、65-75歳比率と、75歳以上比率で説明でき、高齢化に比例的に増加しているにすぎないことが分かっています。高齢化が更に進行する将来的にも、伸び率は安定しています。名目GDPを拡大させつづければ、社会保障は経済の大きな負担にはなりません。過剰な危機感で国民負担率を上げ、成長が鈍化すれば、より危機に迫ります。

確かに、後期高齢者の増加は、社会保障の伸び率に対して、より若い高齢者より二倍程度の押し上げの力となります。しかし、それは比例的なもので、実際の予算の推移もその通りとなっています。問題なのは、高齢者比率にまったく変化がなかったと仮定した場合、社会保障費は定数のマイナス分の0.5%(GDP比)、毎年、恒常的に削減される緊縮となってしまっていることです。

基礎年金の国庫負担分が小さすぎるなどして、高齢化に対応した額が十分に支払われていないことになります。または、社会保障費の経済と国庫の負担は着実に減少していることになります。将来の更なる高齢化を考慮しても、GDP比0.2%程度の社会保障費の増加が恒常的に足りない試算です。

間違った前提による過度な危機感が社会保障費を削減し、医療・福祉などの社会保障を支えるインフラが打撃を受け、年金不足で国民生活にも大きな負担になってしまいました。社会保険料の引き下げや減税で、国民生活を支えられるはずです。社会保障費の等比級数的な増加や、年金財政は深刻な状態にあるという思い込みによって、国民負担率が過度に引き上げられ、経済低迷が続いてきました。

社会保障関係費(%GDP、前年度差)=-0.46 +0.57 65~75歳比率(%、前年度比、1Yラグ)+1.06 75歳以上比率(%、前年度比、1Yラグ)+0.66経済ショックダミー(2009年度に1,2010~2011年度に0.5、2020年度に1) + 0.24 アップダミー-0.25ダウンダミー;R2=0.95

図:高齢化による社会保障費の増加は比例的で等比級数的にはなっていません

図:高齢化による社会保障費の増加は比例的で等比級数的にはなっていません
(出所:財務省、内閣府、総務省、クレディ・アグリコル証券)

財政余力を政府だけで見るのはマクロ経済学として間違いです(6月4日)

企業の資金需要が強ければ、政府が国債を発行できる量(財政余地)は小さくなります。企業は借入れではなく、貯蓄をしてしまっていて、資金需要は極めて弱い状態です。負債から金融資産を引いたネットの負債残高は、企業ではゼロ(消滅)となってしまっています。企業の資金需要が極めて弱い中では、政府はほぼ独占的な借り手で財政余力は巨大です。マクロ経済学的には、企業と政府を合わせたネットの負債残高が、日本経済の負債構造の安定化の尺度です。金利に影響を与えるのは、政府の動きだけではなく、企業の動きも重要だからです。政府の負債残高だけで見るのは間違いです。

企業と政府を合わせたネットの負債残高はGDP比120%程度で安定して、名目GDPの拡大で70%台まで改善しました。統計開始以来、圧倒的に最低の水準になっており、日本経済の負債構造は最良であることを意味します。米国の315%、ユーロ圏の115%と比較すると、極めて良好な水準です。

政府と企業を合わせたネットの負債残高が、家計のネットの金融資産残高の裏付けとなっています。企業活動が弱い中、政府の負債残高の安易な削減は、所得の減少を通じて、家計の金融資産残高の減少となってしまうのがマクロ経済学の考え方です。政府の負債拡大が足りず、経済が低迷しました。

国債は永続的に借り換えされ、将来の税収で残高を減らすことは想定されていません。民間の金融資産を減らすことになるからです。国債は政府の支出による通貨発行であり、将来世代へのツケではありません。裁量的歳出増加・減税に財源を求めることは間違いです。裁量的歳出増加・減税の是非は、財源の有無ではなく、必要性と景気・インフレが過熱するのかどうかで判断するのが正解です。

図:企業のネットの負債残高は消滅して巨大な財政余力となっています

図:企業のネットの負債残高は消滅して巨大な財政余力となっています
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

消費減税ができない根拠 日本国債の評価は本当にギリギリなのか?(6月6日)

日本の国債の評価はギリギリ発言についてどう考えるか?

問(寺島):自民党の高市・前経済安全保障担当大臣が自身のSNSで、同じ自民党の森山・幹事長が日本の経済状況について発言したと伝えられた内容に対して、「日本を、自らおとしめてはいけません」と苦言を呈しました。高市氏は「森山幹事長が、講演で『日本の国債の評価がギリギリのところまで落ちている』と発言された事が報じられていて、とても驚き、残念に思いました」と述べました。森山幹事長は講演先で「我が国は、まだまだ返していかなければならない国債発行残高があり、今、1,128兆5000億円もある」と述べました。その上で、「日本の国債の評価が、ぎりぎりのところまで落ちている」と語り、財政再建の必要性を訴えたことについてはどう受け止めていますか?

答(会田):逆です。日本の負債構造は良いと考えられます。金利の動きは、政府だけの動きでは決まりません。企業の動きも重要だからです。企業の負債の大きさを考慮して、政府の負債が大きすぎるのかを判断するのが正しいことになります。確かに、資金循環統計の日本の政府の負債から金融資産を引いたネットの負債残高GDP比は87%となり、高水準です。しかし、企業の自己資本である株式を除いたネットの負債残高GDP比は-14%と、消滅してしまっています。政府と企業のネットの負債残高は73%となっています。米国の304%、ユーロ圏の121%と比較すると、圧倒的な小ささとなっています。これが、日本の金利水準が圧倒的に低く、マーケットの評価はギリギリどころか、良い証拠です。

財務省の考えは食料品の消費税率引下げが出来ない根拠となるのでしょうか?

問(寺島):高市氏は、食料品の消費税率引下げが出来ない根拠として財務省が作成した石破総理の答弁書について、自民党税制調査会で問いましたと投稿しています。石破総理は国会の答弁で「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」と発言しました。財務省側は、「事務方が用意した答弁書に沿って発言したものではない」とした上で、「債務残高の対GDP比がギリシャを含めた他国と比べて高い水準にあることを念頭に置いて、日本の財政が厳しい状況にあることについて言及したもので、財務省としても同じ認識を持っている」としています。夏の参院選を控え、消費税減税を求める動きが広がっている中、財務省の考えは食料品の消費税率引下げが出来ない根拠となるのでしょうか?

答(会田):全くなりません。IMFの推計によると、2025年の日本の総債務残高GDP比は235%と、先進国の平均110%よりかなり大きいと見込まれています。しかし、コロナ前の2019年と比較すると、G7諸国で、比率が改善する見込みなのは、日本のみとなります。一方、実質消費がコロナ前より小さいのも日本のみです。財政は改善し、消費は悪化です。これは、「経済あっての財政」ではなく、「財政あっての経済」になっている証拠です。結果として、国民が困窮してしまいました。政府が取り過ぎた分は、減税で国民に戻せるはずです。

総理大臣や財務大臣の財政に関する発言に、多少なりともマーケットは反応してしまうのでしょうか?

問(寺島):石破総理が「日本の財政状況はギリシャよりもよろしくない」と発言したことについて、加藤・財務大臣や財務官僚は国会で「同じ認識だ」と述べています。しかし、高市氏は、「総理あるいは財務大臣が自国の国債の危機をあおるのは控えるべきだ。国益に反するのではないか」と問いただしました。すると、加藤・財務大臣は「私自身、自国の国債の危機をあおったことはない」と反論しました。総理大臣や財務大臣がこういう発言をすると、多少なりともマーケットは反応してしまうのでしょうか?

答(会田):マーケットでは、30年などの超長期の国債が売られ、超長期金利が大きく上昇してきました。よく、財政に関する懸念で国債が売られたと解釈されます。しかし、実際は真逆です。国民生活の困窮にしっかり向き合わない自民党が、7月の参議院選挙で負けるのではないかと、マーケットは予想しています。結果として、野党が主張する減税が実現することも予想しています。緊縮財政から積極財政への転換です。緊縮財政のくびきを脱することで、日本経済がデフレ構造不況を完全に脱し、名目GDP成長率が平均3%程度になると見込まれます。30年金利は、この3%程度の水準に上がったことになります。マーケットは、財政の悪化ではなく、経済の正常化を織り込み始めたことを示します。ドイツが、積極財政に転じ、金利も大きく上昇しましたが、株価も大きく上昇したのと同じ展開が予想されています。

社会保険料の引き下げや減税で、国民生活は支えられないのでしょうか?

問(寺島):自民党のナンバー2である森山幹事長は、夏の参議院選挙に向けた自民党の公約について、「消費税を下げるような公約は、どんなことがあってもできない」と述べています。今年も新たに28兆6000億円の国債を発行しなければならない状況だと述べ、「そんなに余裕のある国じゃない」と指摘しました。社会保険料の引き下げや減税で、国民生活は支えられないのでしょうか?

答(会田):社会保険料の引き下げや減税は十分にできます。確かに、資金循環統計では、2024年に、政府は借入から返済を引いた12兆円のネットの借入を行っています。一方、企業は28兆円のネットの貯蓄をしてしまっています。政府と企業を足すと16兆円のネットの貯蓄、即ち支出を削減していることになります。家計の所得は、主に、政府と企業の支出が背後にあります。それが削減されているわけですから、国民が困窮してしまうことになります。国債発行だけみて判断するのは、国民生活の困窮にしっかり向き合っていないことを意味します。

高齢化と社会保障費についてどのようにお考えでしょうか?

問(寺島):石破総理は、消費税の減税に慎重な理由として、社会保障の財源であることを強調しています。高齢化によって、社会保障費がどんどん伸びていると言われているわけですが、この辺りについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):財政健全化を主張する人々と議論をすると、高齢化によって、社会保障費は比例的ではなく、等比級数的、加速的に増加していくのが恐ろしいと言います。しかし、社会保障費のGDP比の上昇をみると、高齢化に比例的に増加しているに過ぎないことがわかっています。更に、高齢化に変化がないと仮定すると、社会保障費はGDP比0.4%ほど、削減されるペースになっていることも分かっています。社会保障費の増加を恐れるあまり、社会保障費を削りすぎ、社会保険料を取り過ぎ、国民だけではなく、医療・介護業界も疲弊させる異常な状態になってしまいました。思い込みではなく、エビデンスに基づいた財政運営をすべきです。

シンカー

6月ECB理事会:25bpの利下げを決定、利下げサイクルは終了か

マクロ経済見通しのアップデートは、今会合の重要な注目点であった。ECBはついに、関税とドイツの今後の財政政策の影響を予測に組み入れた。ECBは、GDP成長率見通しを小幅に下方修正した(2026年は-10bp、2025年と2027年は据え置き)。コアインフレ率は、2025年は上方修正(+20bp)、2026年は下方修正(-10bp)した。

ECBの見通しは、概ねCACIBおよびコンセンサス予想と一致している。ECBは予想されていた通り、25bpの利下げを実施し、預金ファシリティ金利を2.00%、リファイナンス金利を2.15%、限界貸付ファシリティ(MLF)金利を2.40%とした。

ラガルド総裁は、ECBはデータ・ディペンデントであり、政策決定は会合ごとの判断になると改めて強調した。しかしながら、ECBはこれ以上利下げを急ぐ必要がないことを強く示唆した。ラガルド総裁は、ECBは今回の利下げで利下げサイクルの終盤を迎えており、現在、ECBは「良好な状態」にあり、潜在的なショックに対処できる「態勢が整っている」と説明した。これは、さらなる利下げを行うには、さらなる悪いニュースが必要になることを示唆していると考える。

CACIBは、ECBは利下げサイクルを終え、今後数カ月は政策金利を2%に据え置くとの見方を維持する。現時点では、7月の利下げ見送りの可能性が非常に高いと思われ、9月の決定については、マクロ経済見通しのアップデート次第となる。それまでに経済的なショックがなければ、ECBは成長見通しとインフレ率の両方を前向きな方向に修正する可能性がある。

米国の関税(最終的な水準とその影響)とユーロ圏の財政政策については依然として不確実性が残っていることから、ECBは必要があれば対応をとる準備をしている。しかし、大きなサプライズがない限りは、現在の金融政策スタンスはインフレ目標が達成され、それを維持するには十分であるように思われる。(松本賢)

図1:ECBのGDP(左)とコアインフレ率(右)見通し

図1:ECBのGDP(左)とコアインフレ率(右)見通し
(出所:ECB、クレディ・アグリコル証券)

図2:ECB政策金利見通し

図2:ECB政策金利見通し
(出所:ECB、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し表
(出所:日銀、内閣府、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)
実質GDP

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。