この記事は2025年8月1日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日銀が利上げ見送り 物価の動向は?」を一部編集し、転載したものです。

- 利上げの見送りについては当然の判断と言えるのでしょうか?
- 相互関税による経済と物価への影響はどうご覧になっていますか?
- 植田総裁はなぜ利上げをしたがるのでしょうか?
- 参院選で与党が大敗した影響についてはいかがでしょうか?
- 日銀の物価の見立てについてはどうご覧になっていますか?
- アメリカが利下げを進めた場合、日本にはどのような影響があるのでしょうか?
以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。
利上げの見送りについては当然の判断と言えるのでしょうか?
問(寺島):日銀はきのうの金融政策決定会合で利上げを見送りました。政策金利を0.5%に据え置いています。アメリカの関税政策が日本に及ぼす影響がこれから出るとみて、経済・物価の動向を引き続き注視します。1月に今の金利に引き上げてから半年が経ちます。利上げの見送りについては当然の判断と言えるのでしょうか?
答(会田):内需がまだ弱いので、利上げの見送りは当然です。実質消費は、コロナ前の2019年平均をまだ回復していません。物価上昇率が日銀の2%の物価安定目標を超えていますが、これまでの輸入物価の極めて大きな上昇の影響が遅れて出てきている結果です。内需が強くて物価が強く上昇しているわけではありませんから、日銀が利上げをして抑えられるものではありません。この場合、景気を更に冷やしてしまうリスクとなる日銀の利上げではなく、政府が財政政策で家計の負担を軽減するのが正しい選択です。
相互関税による経済と物価への影響はどうご覧になっていますか?
問(寺島):日米関税交渉では、アメリカが日本に15%の相互関税を課すことで合意したと発表されています。アメリカに輸入される日本の自動車にかかる関税も15%となります。トランプ大統領が当初主張していた25%から15%に引き下げられたわけですが、日本経済と物価の影響についてはどうご覧になっていますか?
答(会田):トランプ米政権の関税率引き上げなどにより、グローバルな景気減速が見込まれます。相互関税は25%から15%に引き下げられましたが、0.5%程度の潜在成長率なみの実質GDP成長率の下押し圧力が、逆風となる状況に変わりはありません。日本経済はしばらく強い成長ができない状態に陥るとみられます。当然ながら、企業のコスト意識が高まりますから、賃上げや設備投資には逆風となるリスクがあります。家計の貯蓄率は極めて低く、家計はもはや大きな値上げに耐えられる状態ではなくなっています。物価上昇率は、思ったより早く減速していくとみられます。
植田総裁はなぜ利上げをしたがるのでしょうか?
問(寺島):日銀はトランプ関税が日本に及ぼす影響について、これから出るとみています。経済・物価の動向を引き続き注視していますが、経済・物価の改善に応じて引き続き金利を引き上げる考えとみられます。植田総裁はなぜ利上げをしたがるのでしょうか?
答(会田):強い物価上昇には、日銀が利上げで対応するという短絡的な思い込みに支配されているからだと思われます。現在、需要が供給を上回る需要超過幅が小さい状態です。それでもインフレが起こるのは、人手不足で設備が稼働できないからだと、日銀が考えています。しかし、それが正しいのであれば、人手不足によるインフレを抑制するためには、人手がなくても設備が稼働できるように、AIやDXなど、投資を促進しなければなりません。投資を促進するためには、利上げより、利下げの方が有効です。日銀は、利下げの理由で、利上げを正当化していることになります。
参院選で与党が大敗した影響についてはいかがでしょうか?
問(寺島):ただ、参院選で与党が大敗して、利上げに批判的な野党の影響力が高まっています。石破総理が辞任して、自民党内で利上げに否定的な人物が総裁に選出されれば、大きな制約となる可能性があるのでしょうか?
答(会田):国民の生活の困窮を救うため、これまでの財政健全化優先路線から積極財政路線に転換しなければ、自公政権はもたなくなったとみられます。政府の積極財政路線への転換には、国債市場の安定の条件となる緩和的金融政策の継続が必要になり、日銀は利上げを早期に再開しにくくなるとみられます。秋の臨時国会では、政府は大規模な経済対策を実施するとみられ、政府が景気を押し上げようとしている時に、景気を押し下げる利上げを日銀はやりにくくなるでしょう。石破首相の下で離反していた保守層と若年層の支持を回復させることが急務ですから、石破首相が辞任すれば、自民党の新総裁は、高市さんなどの保守派・積極財政派が就任する可能性が高いと考えます。積極財政に加えて、高圧経済の方針が加わり、日銀の利上げペースの後ずれの影響が及ぶでしょう。
日銀の物価の見立てについてはどうご覧になっていますか?
問(寺島):日銀内部からは、来年度にかけて関税の影響が日本の実体経済に及び、成長率の下振れを通じて物価が伸び悩み、その後回復するという大きな見立ては変わらないとの声が多く出ているといいます。我々庶民は物価高に苦しんでいるわけですが、この見立てについてはいかがですか?
答(会田):IMFの推計で、2025年の政府債務残高GDP比が、コロナ前の2019年より改善しているのは、G7各国の中で日本だけです。一方、実質消費がコロナ前の2019年平均を下回っているのも日本だけです。家計はほとんど貯蓄ができないほど、生活が困窮しています。それなのに、財政収支は税収の急増によって、黒字をうかがうところまで改善してしまっています。マクロ統計は、政府が家計から資金を取り過ぎていることを、鮮明に示しています。国民にお返しする資金はありませんという緊縮スタンスの自公政権が、参議院選挙で敗北するのは必然でした。成長の下振れの後に回復するシナリオには、積極財政への転換によって、減税などで家計にしっかり資金を回すことが前提条件になっています。
アメリカが利下げを進めた場合、日本にはどのような影響があるのでしょうか?
問(寺島):一方、アメリカの中央銀行にあたるFRBは30日に開いた会合で、政策金利の据え置きを決めました。FRBは次回会合の9月まで時間をかけて関税政策の影響を見極めます。しかし、トランプ大統領は即時の利下げを求めています。4月と7月にFRBのパウエル議長の解任を示唆したものの、いずれも市場の混乱を招いて撤回した経緯があります。来年5月に議長としての任期を終えるパウエル氏の後任には利下げを進める人物を指名すると公言しています。アメリカが利下げを進めた場合、日本にはどのような影響があるのでしょうか?
答(会田):米国経済の景気が減速すると見込まれるため、FRBは利下げを検討していることになります。日銀が拙速な利上げをする中で、米国の減速が予想より強くなった場合、大きな円高圧力をともなう輸出需要の減退で、日本経済は景気後退に陥るリスクが高まります。円安の水準であるからこそ、トランプ関税のバッファーとなり、日本の製造業への下押し圧力が緩和されています。これまで、日銀は、利上げ後に、日本経済が深い景気後退に陥ってしまい、デフレ構造不況を長引かせてしまった間違いを二度しています。今回も間違えれば、三振となってしまいます。そうなれば、日銀には金融政策を正しく運営する能力が欠如しているとみなされ、日銀法が改正され、運営方法が見直されることになってしまいます。日銀は、決して前のめりにならず、慎重に利上げを進めていくとみられます。
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