この記事は2025年8月7日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:プライマリーバランスの黒字化目標は投資不足で将来世代を貧困化させます」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)
  • 政府投資は、民間投資と雇用拡大を誘引し、将来世代の所得を増やすため、国債でファイナンスすることが可能です。財政法でも、政府の投資を建設国債でファイナンスすることは認められています。
  • 政府の投資も税収でファイナンスすることが必要となるため、政府の投資が過小となり、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は、将来世代を貧困化させます。
  • プライマリーバランスから狭義の成長投資を控除したコア(経常的)プライマリーバランスを、政府の成長投資競争のグローバル環境に適した財政目標にすべきです。

政府投資は、民間投資と雇用拡大を誘引し、将来世代の所得を増やすため、国債でファイナンスすることが可能です。財政法でも、政府の投資を建設国債でファイナンスすることは認められています。

政府の投資も税収でファイナンスすることが必要となるため、政府の投資が過小となり、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は、将来世代を貧困化させます。

グローバルにプライマリーバランスの黒字化を財政目標としているのは日本だけです。経済安全保障を含め、政府の成長投資を中心に国力を高めることがグローバルな潮流で、プライマリーバランスの黒字化で成長投資が抑制されれば、日本は競争に負け衰退国家になってしまいます。

政府の成長投資は、狭義には公共事業など建設国債で賄われたもの、広義には、環境、教育、テクノロジー、経済安全保障への支出なども含まれます。プライマリーバランスから狭義の成長投資を控除したコア(経常的)プライマリーバランスを、政府の成長投資競争のグローバル環境に適した財政目標にすべきです。

骨太の方針でも、「経常的歳出(成長投資と国債費を除く)について毎年の税収等で着実に賄われる構造の実現に向けた取組を進める」としています。トラス・ショックが起こった英国でさえも、経常的収支の黒字化によって、総負債ではなく純負債のGDP比を低下させることを財政規律としています。日本の経常的収支は既に黒字化し、純負債GDP比も低下し、英国の財政規律は満たしています。

図1:コアプライマリーバランスは既に黒字で財政は健全化しています

図1:コアプライマリーバランスは既に黒字で財政は健全化しています
(注:当初予算ベース
出所:財務省、クレディ・アグリコル証券)

図2:スティグリッツ教授(コロンビア大学)とのディスカッション

図2:スティグリッツ教授(コロンビア大学)とのディスカッション

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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