本記事は、水野 俊哉氏の著書『世界の一流が読んでいるビジネス書100冊』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

読書
(画像=Rawpixel.com / stock.adobe.com)

きみのお金は誰のため
ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」

『世界の一流が読んでいるビジネス書100冊』より引用
著者=田内学
発売●2023年10月出版元●東洋経済新報社
当書は、主人公の中学生・佐久間優斗が謎の富豪「ボス」からの問いを通して、お金の本質を学んでいく物語形式の経済教養書である。お金の価値とは何か、働くとは何か、豊かな社会をつくるとは何か ―― といったテーマを、読者が優斗と一緒に考えながら理解できる構成になっており、難解になりがちなお金の本質を、中高生にも届くやさしさと深さで描き切っている。

お金の3つの謎

お金の本質とは何か? ―― このことを真に理解している人は少ない。多くの人は、お金が持っている価値を表す機能のほうにばかり目がいってしまい、お金の向こうに人がいて、その人たちがいるからこそ社会が成り立っていることを忘れてしまいがちだ。

主人公の佐久間優斗は、ある偶然からアメリカの投資銀行で働く若い女性・久能七海と一緒に、莫大な富を投資で築いたとされるボスに出会う。

ボスは1億円もある札束を机の上に積み上げながらいう。[「多くの人がお金のために働き、お金に感謝する。年収が高ければえらいと思い、貯金が多ければ幸せやと感じる。生活を支えるのはお金やと勘違いして、いつしかお金の奴隷に成り下がるんや」]。

お金の奴隷にならないようにするためには、お金に対する3つの真実を理解することだという。ボスが話す3つの真実とは、

①お金自体に価値はない。
②お金で解決できる問題はない。
③みんなでお金を貯めても意味はない。

ということだ。しかし、お金があれば全て解決できると思い込んでいる優斗とお金の奴隷にならない程度に年収を増やしたいと思っている七海には、この3つのお金の真実が「謎」に見える。そこで、この3つの謎を解くことで、お金という鎖から解放され、お金を自分の意思に従って、道具として使えるようになる。

最初の謎は、「お金自体には価値がない」というものだ。紙幣や硬貨は、それ自体では食べられず、何も生み出さない。お金に価値を与えているのは、実際にモノをつくったりサービスを提供したりする人間の労働だからだ。つまり私たちが買っているのは、商品そのものではなく、その背後にある「誰かの時間と努力」である。では、なぜお金に価値があるように見えるのか。それは、私たちに「お金が必要だ」と思わせる仕組みがあるからだ。税金を払う必要がある。自分にできない仕事を誰かにやってもらう必要がある ―― こうした“必要”があるからこそ、お金は社会のなかで流通し、人と人とを結びつけ、経済圏を形成する。

2つ目の謎は、「お金で解決できる問題はない」というもの。お金が問題を解決してくれるわけではない。実際に動いて解決してくれるのは“人”だ。誰かが動き、考え、手を動かすからこそ、問題は片づく。お金はそのための媒介にすぎない。お金が持つ力とは、誰かを“選ぶ力”と言い換えることもできる。

3つ目の謎は、「みんなでお金を貯めても意味がない」というもの。お金をたくさん持っていれば安心、というのは直感的には理解できる。しかし、現実の経済は「循環」によって成り立っている。すべての人が貯め込んでしまえば、モノもサービスも動かなくなり、経済は停滞する。日本が直面する少子高齢化の本質的な問題もこれだ。お金を動かす側の“人”が減っていけば、生産力は落ち込み、供給される商品やサービスの数も減る。すると、いくらお金を貯めても買えるモノが減り、物価は上がる。貯めたお金の価値は目減りをしてしまう。だからこそ、「お金を貯める」ことだけに意味を見出すのではなく、「誰かの労働に報いる」「社会の循環を支える」という視点が不可欠なのだ。

お金のフィルターをとっぱらったら、私たちが働くのは誰かのために役に立つことである。本当のお金のつながりを意識することでそのことが理解できる1冊である。

水野所感
著者はゴールドマンサックス出身の田内学氏(『お金の向こうに人がいる』も併せて読みたい)。物語の設定は、謎の屋敷に住む大富豪に学ぶあたりは、マーク・フィッシャーの「成功の掟」に似ている。経済小説だが難しい専門用語を使わず、しかもこれまでのわかりやすくお金や経済の仕組みを解説する書籍とは一線を画した視点が新鮮である。
『世界の一流が読んでいるビジネス書100冊』より引用
水野 俊哉
1973年生まれ。作家、出版プロデューサー、経営コンサルタント、富裕層専門コンサルタント。ベンチャー起業家、経営コンサルタントとして数多くのベンチャー企業経営に関わりながら、世界中の成功本やビジネス書を読破。近年は富裕層の思考法やライフスタイル、成功法則を広めるべく執筆活動をしている。現在は自ら立ち上げた出版社2社や文化人プロダクション、飲食業のオーナー業の傍ら、執筆やコンサルティング、出版プロデュース業を営んでいる。国内外問わず富裕層の実態に詳しく、富裕層を相手に単にビジネスにとどまらない、個人の真に豊かな人生をみすえたコンサルティング・プロデュースには定評がある。

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