本記事は、筬島 正夫氏の著書『10人の東洋哲学者が教える ありのままでいる練習』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

シェア文化も龍樹的
「すべては固定されたものではない」という「空・縁起の教え」を別の角度からみてみましょう。
たとえば「車」ひとつとっても、「車」という固定不変なものはないのです。どういうことでしょう。
車は多くの部品によってつくられていますよね。ハンドル、エンジン、ドア、座席などなど。ではそれらのものの、どこからどこまでが車なのでしょう。どの部品がなくなったら車ではなくなるのでしょうか。
座席が破れても車だし、屋根がなくても車ですよね。では、ハンドルやタイヤがなくなったらどうなのかと聞かれると、これはちょっと怪しい。エンジンがなくなったら車じゃないと言う人もいますが、○○時代の名車展などの時はエンジンがなくても、それは車として扱われていますよね。
このように、「これが車」という「固定されたもの」はなく、なんとなくこんなものを「車」と仮に言っているだけなのです。
すべては因縁が仮に合わさっているにすぎないことを、「因縁仮和合」と呼びます。すべて、固定されたものは存在しないということです。
車のように「いかにもこれは車ですよ」という物でさえ、「固定不変のモノ」ではなく、因縁合わさった仮の関係性(コト)にすぎない。すべては一時的な状態なのです。
ましてや、モノですらない、「考え方」が固定不変なはずがありません。
しかし現実には、「固定された考え方」にとらわれ、融通がきかない頑固な人が決して少なくなく、意固地になって自分も損し、周りも迷惑という状態になっています。
「こうでなければならない」「この関係はずっと壊れないものだ」「昔からそうすると決まっているんだ」という間違った常識や固定観念に縛られるのではなく、その時、その場の一期一会のご縁を大事にしながら、自分らしい人生を歩む。そのほうが、ずっとラクに、そして幸せに生きられます。
たとえば、所有することではなく、「体験」や「関係性」に価値を見出すことが、より持続的な幸福につながる場合も少なくありません。
こうしたインドの龍樹(ナーガールジュナ)の思想は、実は私たちの身近な生活にも関係しています。
近年、日本や世界で広がっている「シェアリングエコノミー」は龍樹の「空」の思想と共鳴しているように思えます。
シェアリングエコノミーとは、車や家、オフィスなどを所有するのではなく、「必要な時に共有するスタイル」を指します。要はカーシェアリング、シェアハウス、共同オフィスといった仕組みのことです。
これらは「所有することに執着しない」という思想の具現化ともいえます。
龍樹は、そんな未来まで見通していたのでしょうか。
「NEVERねば」
「~ねばならない」と思い込んでいること、あなたにはどれくらいありますか?
人前では、いつもかっこよく(美しく)あらねばならない。
年収は、常に右肩上がりでなければならない。
組織で働いているかぎり、出世競争に勝たなければいけない。
適齢期になったら、パートナーを見つけて家庭を築かなければならない。
結婚したら、子どもを持たなければならない。
家庭では、よき母親(父親)であらねばならない。
健康のために完璧な食生活をしなければならない。
このような「ねばならない」をやめて、「本当に自分が望んでいることは何か?」を考えること。これが「NEVERねば」です。
「NEVER」とは「決して〜ない」という意味ですから、「NEVERねば」は「決して“ねば”と思わない」というレッスンです。
もちろん、ルール(常識)をすべて無視しろと言っているわけではありません。
そのルールが単なる偏見ではないのか、本当に必要なのか、一度立ち止まって考えてみることが大切だということです。
龍樹は「すべてのものは固定されていない」と説きました。つまり、人間が考えた決めごとに「いつでもどこでも絶対に正しい」というものなんて、本当はないのです。でも私たちは、親や学校、社会から教わった価値観に縛られて、「こうしなければ」と思い込んでしまいます。
アインシュタインは「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションでしかない」と言いました。つまり、「ねばならない」と思っていることの多くは、ただの思い込みかもしれないのです。それに気づかずにいると、必要のないプレッシャーにつぶされかねません。
たとえば、35歳の女性が「結婚しなければ」と焦って婚活をしていたとします。
でも、本当に彼女にとって結婚が必要なのでしょうか?
彼女が本当に望んでいるのは、安心できるパートナーとの穏やかな時間かもしれません。もしそうなら、「結婚」という形にこだわらず、自分にとって心地良い関係を築くことに目を向けるほうが、ずっと幸せになれるはずです。
また、40代の男性が「管理職にならなければ」とプレッシャーを感じているとします。でも、彼が本当に求めているのは、安定した仕事と家族との時間かもしれません。「出世しなければならない」という思い込みを捨てて、「今の仕事を楽しみ家族を大切にすること」に意識を向ければ、もっと充実した人生になるかもしれません。
このような「ねばならない」を手放すことで、心は驚くほど軽くなります。
誰かが決めた「ねばならない」に振り回されるのではなく、自分が選んだ大切な道を選ぶこと。それが、自分の人生を、あなたらしく自分で生きることにつながるのです。
それこそが、龍樹の教えにも通じる「固定観念にとらわれない」生き方です。

幼稚園の頃、戦争などの争いが絶えない世界に絶望感と無力感を覚え、みんなが幸せになれる道を探し始める。さらに高校時代、後輩の死を通して、良い学校を出て良い就職してお金持ちになれば幸せになれるという幸福観に大きな疑問を抱く。
キリスト系の関西学院大学社会学部に入学し、答えをキリスト教や西洋哲学に求めるも得られず、東洋哲学に目覚める。 世界の哲学・思想を比較する社会学を学び、浄土真宗の布教使として学んできたことを活かして令和6年フリーのユーチューバーとして独立。
すべてのお経を読破したうえで、東洋哲学の深い内容を中心に0から一気にわかりやすく解説し、チャンネル登録7万5,000人を突破。おさじー先生の名前で親しまれている。
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