本記事は、秋山 具義氏の著書『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
センスとは、「人をハッとさせるアウトプット」である
「センスがあると人が思うとき」の共通点を抜き出し、「センス」を定義していきましょう。結論から言うと、
センスとは、「人をハッとさせるアウトプット」
です。
わかりやすいところで言うと、広告。ほとんどの広告が見向きもされず流されてしまう中で、ふとあなたが興味を惹かれるとき。そのとき、あなたの中に「ハッ」とさせられる何かがあるのではないでしょうか。
ファッションも同じです。「センスある」と思うとき、あなたはその相手を見た瞬間に「ハッ」とさせられる何かがあるはずです。
それは、クリエイティブやファッションだけではありません。仕事でも同様です。たとえば、会議の場である人のポロッと言った一言に「ハッ」とさせられる瞬間はありませんか? 他の人の意見では何も心が動かなかったのに、その人の意見だけはなぜか共感できる。
そうです。センスとは、「人をハッとさせるアウトプット」のことを言うのです。
ここで言う「ハッとする」とは、単なる驚きのことではありません。人が「ハッ」とする瞬間には、驚き、納得、共感、意外性、記憶への刻み込みなど、いくつかの要素が複雑に絡み合っています。たとえば、誰かの発言を聞いたときに「そうそう、それが言いたかった!」と胸の内がすっと晴れるような体験。それもまた、一つの“ハッとする瞬間”です。「ハッとする」というのは、一瞬、相手の心が動く瞬間です。
センスがある人は、この“ハッとさせる力”を、意識的か無意識的かは別として、確かに持っています。
「ハッとする」とは、半歩先の提案である
こうした“ハッとさせる”瞬間は、派手な演出や特別な才能から生まれるわけではありません。むしろ、相手の立場や背景をよく観察し、「どのように提示すれば一瞬で伝わるか」を考える姿勢から生まれます。センスとは、相手の理解の射程と興味の範囲を踏まえた上で、ほんの少しだけ先を提示する力なのです。
たとえば、日常会話でも同じです。「その話、わかる!」と相手が思わず身を乗り出すような一言を添える人がいます。こうした人は話し上手というよりも、相手の感情や視点をよく観察し、“半歩先”を見越して言葉を選んでいるのです。センスとは、まさにそうした微妙な距離感を読み解き、アウトプットのかたちに落とし込む力だと言えます。
ここで重要なのは、「ハッとさせる」と言っても、決して奇をてらう必要はないということです。
よくある勘違いとして、「センス= 斬新・独創的・派手なもの」と思い込んでしまう人がいます。確かに、まったく見たこともない大胆な発想やデザインは、一瞬で人の目を惹きつけます。しかし、それは必ずしも「センスがある」ということと同義ではありません。
むしろ、その斬新さが強すぎるあまり、受け手に理解されない、拒絶されてしまうケースも少なくないのです。
センスとは「十歩先を行くこと」ではありません。十歩も先を走ってしまえば、たとえ素晴らしいアイデアでも、相手には理解されず、届かないからです。相手がそこまで視野を広げていない段階で、遠く離れた場所を指し示しても、共感は生まれず、むしろ「自分とは違う世界の話」として距離を置かれてしまいます。
逆に、既存の枠の中に収まってしまえば、「どこかで見たことがある」と思われ、印象に残らない。安心感はあっても、人の心は動きません。つまり、斬新すぎても凡庸すぎても、相手の心には届かないのです。
センスが光るのは、十歩先では行きすぎで、その手前─「半歩先」です。
相手が理解できる範囲のすぐ外側。共感と予想外のちょうど間にある“心地よいズレ”。この“半歩先”を提示できることが、「人をハッとさせるアウトプット」につながります。
この「半歩先」という距離感は、非常に繊細です。たとえば、アイデアを考えるとき、多くの人は「とにかく新しさを出さなければ」と意識しすぎて、つい遠くまで走ってしまいがちです。しかし本当に印象に残るのは、既存の文脈の中にある“当たり前”を少しだけずらした提案なのです。その“少しだけ”を丁寧に探り当てることこそ、センスの本質です。
私が「半歩先」を実感した仕事のお話をします。
2010年、即席ラーメンの売り上げは業界全体で停滞していました。その中で東洋水産は、麺を油で揚げる通常の即席ラーメンの製法とまったく違う、切り出した生の麺をそのまま乾燥させるという画期的な製法で、まるでラーメン店で食べているような食感の麺の開発に成功しました。
私がパッケージデザインについて、東洋水産の担当者からオリエン(説明)を受けた際に、「即席ラーメンの現状(2010年当時)は、主婦の方がスーパーで購入して、週末に冷蔵庫の中の余っている野菜を使って食べることが多いんです」という話を聞きました。
私は、主婦の方がスーパーで即席ラーメンを買うときに、「手抜きしているように見られるんじゃないかしら……」と思っていると仮定しました。
そこで、パッケージデザインにキンキラキンと輝く金色の素材を使用することで、他社の即席ラーメンよりも少しリッチに感じてもらい、主婦の方がカートに入れても、レジで即席ラーメンを出しても、恥ずかしくないと思ってくれるであろうと、パッケージの提案をしたのです。
結果、2011年に発売したマルちゃん正麺は、大ヒットとなり、2012年の「日経MJヒット商品番付」で西の関脇に選ばれました。
もちろん、商品が優れていたことが一番のヒット要因だと思いますし、CMプランナーの福里真一さん、コピーライターの谷山雅計さんと、アートディレクターの私が制作し、役所広司さんが出演したCMも話題になりましたが、ヒットした要因の一つにはパッケージもあると思っています。
金色に輝くパッケージを、他社の即席ラーメンのパッケージも追随し、スーパーの即席ラーメンの売り場の棚はその当時、金色に輝くパッケージだらけになったのです。
たとえば、このマルちゃん正麺のパッケージに、「硬いプラスチックのボックスにしたら、インパクトがあって目立つだけでなく、食べたあとは小物入れにもなります」と提案して、今までの即席ラーメンのパッケージの紙の素材とまったく違う素材が採用されたとしたら、これは“十歩先”の提案で、硬い素材のプラスチックで価格も上がって、スーパーの袋やエコ袋にも、硬くて大きくて入れにくいなど、間違いなく売れなかったと思います。
今の例は、極端ですが実際にあった話で、以前、大手飲料メーカーが、新しく発売する飲料をおしゃれな雑貨店で売っているようなスチール缶のデザインにしたところ、あまり売れなかったということを聞きました。商品名もアルファベットでスマートにデザインされていて、デザイン的には良いと、私は思っていましたが、コンビニやスーパーで新しいものを買うときに、人間は口に入れるものに対して慎重になり、中身がよくわからないものは買わないという心理があるそうです。
つまり、これも“半歩先”を超えた提案だったということだと思います。これが、中身が見えないスチール缶ではなく、中身が見える透明のペットボトルだったら、違っていたのかもしれません。
このように、「あの人、センスがあるな」と感じる瞬間は決して特別な才能や演出の賜物ではありません。そこにあるのは、相手と場をよく観察し、ほんの“半歩先”を提案する力です。
日本大学芸術学部デザイン学科客員教授。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。「日本パッケージデザイン大賞2017」にて「マルちゃん正麺カップ」が金賞受賞。
著書に『世界はデザインでできている』『ファストアイデア25』がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。2025年『カイカイキキHidari Zingaro』にて自作の陶芸作品の個展「秋山具義の陶芸展」を開催。
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