本記事は、秋山 具義氏の著書『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
表現しなきゃセンスは高まらない!
「表現」のステップには二つの役割があります。
【役割①】センスの精度を上げる
一つが「センスの精度を上げる」役割。ここまでの「知覚」と「組み替え」で、すでに高い「センス」を生み出すことはできています。しかしながら、「センスがあるかどうか」を最終的に決めるのは「他人」です。決めるのが「他人」である以上、「他人の反応」を見なければ、センスの高さはある一定までで止まります。
「知覚」と「組み替え」でセンスができたら、どんどんそれを表現してみましょう。いざ他人の反応を見て、「あっ、こういう点に相手は感心してくれたな」「これはイマイチなんだな」「アウトプットはいいのかもしれないけど、自分に合っていないのかも……」と、さらに精度を上げるヒントが見えてくるはずです。
こうして、他人の反応(意見)を愚直に取り入れ、精度を上げていく。この繰り返しを何度も何度も回していくうちに、「センスのよさ」は完成されます。
【役割②】センスの「伝わり方」を設計する
もう一つが「センス」をより多くの人に伝わりやすくする役割。
センスを「見つけられる」人と、「形にできる」人の間には、目に見えない大きな差があります。
「知覚」と「組み替え」は、どちらも“センス”を生むための前段階です。
しかし、どんなに優れた発想でも、それが他者に伝わる形にできなければ、存在しないのと同じ。
「表現」とは、センスを社会に翻訳する行為だと私は考えています。
私が一番好きな映画監督、アルフレッド・ヒッチコックの逸話があります。
『北北西に進路を取れ』『サイコ』『裏窓』『鳥』など数々の名作を残した彼は、映画館で観客全員が「今のシーン、自分だけが気づいたかもしれない」と思うような演出をしていたそうです。
それを知ったとき、私は深く感動しました。
観客一人ひとりが“自分だけがわかった”と思う瞬間を作る─。まさにそれこそが、「表現」の究極形ではないかと思ったのです。
表現とは、単なる技法ではなく、「伝わり方」を設計すること。
たとえば、デザインなら余白やバランス。
コピーなら言葉の強弱。
会話なら声のトーンや間。
どれも「少しの調整」で結果が劇的に変わります。
センスの正体は、実はこの「伝わり方」への微妙なこだわりにこそあるのです。
この二つの役割の観点から、センスの最終ステップである「表現」について、私自身の仕事を通じて得たメソッドを解説していきます。それは、デザイナーやアートディレクターに限らず、ビジネスパーソン、学生、あるいは誰もが自分の伝えたいことを磨くときに使える方法です。
「知覚」して、「組み替え」て、「表現」する
「知覚」と「組み替え」は、表現の準備運動でした。
「知覚」とは、見慣れた世界を新しい角度で観察する力。
「組み替え」とは、その気づきを違う文脈に置き換えて、新しい意味を作る力。
そして「表現」とは、その二つを掛け合わせて、人の感情を動かすアウトプットへと昇華させる段階です。
表現を考えるときに、私が大切にしているのは、「自分の中の発見を、相手の中の発見に変換する」ということです。
“自分が感じたこと”を“相手が感じること”に翻訳できるか。
この翻訳精度を高めるほど、センスは伝わる。
そのためには、自分だけの“観察装置”と“変換装置”が必要になります。
日本大学芸術学部デザイン学科客員教授。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。「日本パッケージデザイン大賞2017」にて「マルちゃん正麺カップ」が金賞受賞。
著書に『世界はデザインでできている』『ファストアイデア25』がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。2025年『カイカイキキHidari Zingaro』にて自作の陶芸作品の個展「秋山具義の陶芸展」を開催。
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