本記事は、秋山 具義氏の著書『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
知覚を「掘り出し」、思考を「組み替える」
「ひとりブレスト」の本質は、自分の中にある“知覚”を掘り出し、それを新たに組み替えるという行為にあります。
人は普段、無意識のうちに“見たいものだけを見る”ようにできています。
しかし、知覚のセンスを鍛えるとは、その無意識のフィルターをいったん外して、世界をありのままに観察すること。
「ひとりブレスト」は、その観察を“思考の地層”として可視化するための装置なのです。
時間を空けて再び見ると、以前とは違うアイデアが見えてくることがあります。
黒ペンのときに“過去の自分”が書いた言葉を、“今の自分”が赤でつなぎ直す─ このプロセスそのものが「組み替え」です。
言い換えれば、「ひとりブレスト」は“自分の知覚と時間の編集”でもあるのです。
アイデアは、待っていても訪れません。
偶然のひらめきを待つのではなく、日々の観察や感覚を積み上げておくことで、ひらめきを“起こりやすくする”環境を自分で設計する。
これが、私が長年続けてきた「ひとりブレスト」の狙いです。
クリエイティブな仕事に限らず、企画や営業、商品開発、教育─どんな分野でも、この“知覚の地層化”と“組み替えの構造”は役立ちます。
私自身、20代の頃の、まだ頭の中でアイデアが組み立てられなかったときは、広告やデザインのアイデアを考えるとき、この「ひとりブレスト」を行っていました。
一見、関係のない要素同士を線で結んでみると、予想もしなかった意味が立ち上がる。
たとえば「空」と「冷たい飲み物」という言葉をつなぐと、「空気で冷える飲料」なんてアイデアが浮かぶかもしれません。
これは感覚の偶然を、思考の必然に変える訓練です。
つまり、センスとは生まれつきの才能ではなく、積み重ねと組み替えによって育てる“思考の習慣”なのです。
知覚するとは、“世界を観察すること”。
組み替えるとは、“観察した世界を編集し直すこと”。
この二つの往復運動こそが、センスを磨くプロセスです。
「ひとりブレスト」は、日常の中でそれを体現できる実践的なトレーニングです。
頭の中でぼんやり感じていることを紙に落とし、いったん地層として積み上げ、そして再び掘り返して組み替える。
それはまるで、考古学者が遺跡を発掘しながら未来を想像するような作業です。
やがて、この積み重ねた地層の中から、自分だけの“視点”が見えてきます。
それが、世界の「普通」と「半歩先」を見分ける力─ すなわち「センス」なのです。
結論:「近くの地層」からセンスは生まれる
「ひとりブレスト」とは、単なるアイデア発想法ではなく、自分の知覚を構造化し、再編集するための思考装置です。
黒・赤・青という三層のプロセスを通して、自分の中に眠る「見えていなかった視点」を掘り起こし、それらを組み替えていくことで、発想の“地層”が育っていきます。
この「地層化」と「組み替え」の循環が、センスの根幹です。
センスとは、天性の勘ではなく、「世界をどう見ているか」を何度も問い直す行為によって育つもの。
昨日までの自分の“当たり前”を、一度分解し、もう一度、組み替えてみる。
その小さな繰り返しが、やがて自分だけの視点を形づくっていくのです。
また、「ひとりブレスト」は“感覚の棚卸し”でもあります。
書くことで、思考が外に出て、俯瞰できる。
俯瞰することで、過去の知覚を“素材”として再利用できる。
偶然のひらめきに頼らず、自分の中に“再現可能な発想の構造”を持てるようになる─ それがこのトレーニングの真価です。
このように、「知覚」を地層化することで、自分の中に“発想のアーカイブ”が蓄積されます。
そこからアイデアを掘り出し、新たな視点を組み合わせる。
それが「組み替え─世界の『普通』と『半歩先』を組み替える」につながっていきます。
センスは、天から降ってくるのではなく、自分の中に静かに積もっていくもの。
そして、その積もったものを自ら掘り返し、新しく編集し直すことで、“世界の見え方”そのものが変わっていくのです。
日本大学芸術学部デザイン学科客員教授。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。「日本パッケージデザイン大賞2017」にて「マルちゃん正麺カップ」が金賞受賞。
著書に『世界はデザインでできている』『ファストアイデア25』がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。2025年『カイカイキキHidari Zingaro』にて自作の陶芸作品の個展「秋山具義の陶芸展」を開催。
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