本記事は、秋山 具義氏の著書『こうやって、センスは生まれる』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

こうやって、センスは生まれる
(画像=polkadot/stock.adobe.com)

半歩先の視点が、「普通」を「人の心を動かす表現」に変える

情報化社会の進化によって、テンプレート思考が日常化しました。
AIが生成する文章は正確で整っており、ビジネスメールの例文集を探せば数千件ヒットする。
それらを組み合わせれば、誰でも「無難な成果物」がつくれる時代です。
しかし、それが多くの人の落とし穴にもなっています。
“無難”は安心を与えますが、“感動”は生まない。
「間違ってはいないけれど、印象に残らない」─。
この“正しさの罠”こそ、現代のビジネスに潜む最大の壁です。
だからこそ今、必要なのは「普通を半歩だけ踏み越える力」です。
たとえば提案書であれば、単にスペックや機能を並べるのではなく、「この提案があなたの会社の未来をどう変えるのか」を物語として描く。
就職活動であれば、流行りの言葉を並べるのではなく、「自分が感じたリアルな体験」を、少しだけ違う角度で語る。
この“半歩先”の視点が、ありふれたアウトプットを“人の心を動かす表現”に変えていきます。

私自身の体験で、「表現のちょっとした差」で成果をつかんだ例があります。

2006年、立命館大学のコミュニケーションマーク「R」のデザインコンペに参加したときのことです。
複数の広告代理店が参加し、私はそのうちの一社と共同で提案を行いました。
課題は、アルファベットの「R」という一文字をどう表現するか。
大学という“知の象徴”にふさわしく、かつ長く愛されるデザインを求められました。
スタッフの間での打ち合わせでも、当然、さまざまな意見が出ます。
「明朝体で知的に」「丸文字で親しみを」「ゴシックで力強く」─。
どれも正しい。しかし、決定的な違いにはならない。
そこで私が意識したのは、“誰かに伝えたくなる理由”をデザインに込めることでした。
見た目の美しさだけでなく、語りたくなる仕組みを持たせる。
その結果、「黄金比」という概念を取り入れた提案を行いました。
黄金比とは、自然界や歴史的建築物に見られる、約五対八の美しい比率。
植物の葉の並び、巻き貝のうず、パルテノン神殿─これらは、この黄金比で成り立っています。数年前に、九州の形も黄金比でできているということが話題になりました。
この普遍的な“安定美”を、大学という「知の器」に重ね合わせて提示したのです。
「このロゴマークは単なるデザインではなく、“知の黄金比”で構成されています」
そう説明した瞬間、会場の空気が変わりました。
それは派手な演出ではなく、ほんの“半歩先”の切り口。
その知的な物語が、決定権者の心に響き、私たちの案が採用されました。
ロゴはフラッグや校章、グッズなど、長年にわたって使われ続けるものです。
日常に溶け込みながらも、意識の奥で「美しい」と感じさせる─。
その“自然な存在感”こそが黄金比の魅力であり、まさに「半歩先のセンス」でした。

こうやって、センスは生まれる
(画像=こうやって、センスは生まれる)

これはデザインだけでなく、あらゆるビジネスにも通じる考え方です。
センスのある提案とは、「人をハッとさせられる」ものですから、結果として、“誰かに伝えたくなる提案”ともなります。
実際の現場では、あなたのプレゼンを直接聞く人が最終決裁者とは限りません。
多くの場合、担当者がその場で話を聞き、後日上司や社長に伝えます。
そのとき、あなたの言葉が“そのまま伝わる”ことはほとんどありません。
いわば、提案は“伝言ゲーム”なのです。
伝言が進むほど、情報は削られ、ニュアンスは失われていく。
だからこそ、「伝えたくなる一文」や「記憶に残る比喩」を仕込むことが重要です。
私はそれを「伝言耐性のある提案」と呼んでいます。
たとえば、

  • 単に「コスト削減ができます」ではなく、「この施策で社内の温度が3度変わります」
  • 単に「顧客満足度が上がります」ではなく、「クレームが“ありがとう”に変わる仕組みです」
  • 単に「若者向けの商品です」ではなく、「10代の“いいね”が30代の購買を動かす構図です」

こうした“半歩先”の言葉は、担当者の記憶に残り、次の会議で必ず語られます。
センスとは、情報を飾ることではなく、「届く構造を設計すること」です。
つまり、あなたがその場を離れても、“言葉が一人歩きできる”仕組みをつくること。
それが「伝えたくなる提案」の本質であり、どんな職業にも応用できる普遍的な力です。
現代の社会では、「正しいこと」より「独自の視点」に価値が置かれます。
同じ情報を見ても、他の人が見落とした角度に気づくこと。
それがセンスの出発点です。

こうやって、センスは生まれる
秋山 具義(あきやま・ぐぎ)
デイリーフレッシュ株式会社代表取締役、クリエイティブディレクター/アートディレクター。
日本大学芸術学部デザイン学科客員教授。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。同年、株式会社I&S(現I&S BBDO)入社。1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。
主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、日本フェンシング協会「新国章」デザイン、松竹「十八代目 中村勘三郎 襲名披露」ポスター、立命館大学コミュニケーションマークデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。「日本パッケージデザイン大賞2017」にて「マルちゃん正麺カップ」が金賞受賞。
著書に『世界はデザインでできている』『ファストアイデア25』がある。
2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。2025年『カイカイキキHidari Zingaro』にて自作の陶芸作品の個展「秋山具義の陶芸展」を開催。

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こうやって、センスは生まれる
  1. “センスがある人”はここが違う、相手の半歩先を出す
  2. 半歩先の視点で変わる、提案が“伝わる”構造
  3. “何を足すか”より“何を捨てるか?” センスは削る勇気で決まる
  4. センスは才能じゃない、共通点と相違点で鍛えられる
  5. センスは天才じゃない、知覚×組み替えの往復で育つ
  6. なぜ良いアイデアが埋もれる? “伝わる形”に変える表現の設計図
  7. 顔を見せなきゃ伝わらない、“人が主役”のプレゼン術
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