◉法律的な制度の利用の可能性
では、何か法律的な手段を用いることによって代表者様等の保証人の負担を消滅させることはできないのでしょうか。
ケースは限られてしまいますが、法律の制度的に一方的に保証人の地位を消滅させることができるケースも存在します。具体的には、代表者様等が根保証人となっている場合です。
(1)根保証契約と元本確定期日制度
まず、根保証とは、一定の額(極度額)を限度として、一定の取引から生じる債務をすべて保証するという契約をいいます。この根保証は、慣習的に用いられていますが、根保証人の負担があまりに大きいため、平成16年の民法改正により、根保証人の責任を一定の範囲に限るという制度が新設されています。
これが元本確定期日制度と言われるものであり、具体的には、①あらかじめ定めた元本確定期日②あらかじめ定めた元本確定期日がない場合には根保証契約締結から3年を経過した後は、現存債務のみを支払えば根保証人の責任は消滅するという制度です。(民法第465条の3)このため、代表者様と金融機関が締結した契約が根保証契約である場合には、元本を確定させ、その元本額だけを弁済すれば、保証人としての地位を消滅させることが可能となります。
(2)根保証契約の特別解約権
次に可能性があるケースとしては、判例上認められている根保証契約の特別解約権を行使するという可能性です。既に述べましたように、根保証契約は保証人に極めて大きな負担を与えるものですので、主債務者(ここでは借り入れをしている会社のことです)と保証人の間に大きな信頼関係があるからこそ、保証人になったはずであるという理論を前提として、根保証契約締結後に特別の事情がある場合には根保証契約を解約することができるという権利です。
根保証契約を解約することができる特別な事情として過去の裁判例で認められた事案として、後任の代表取締役が連帯保証契約書を差し入れ、同時に旧代表取締役が連帯保証契約の解約を申し入れた場合には、特別な事情があるとされたものがあります(東京地方裁判所平成8年8月26日判決)。
この裁判例の理解を前提とすれば、企業の事業承継の際に後継者を連帯保証人として申し出ることにより、代表者様の保証人の負担を消滅させることが可能という立論をすることが可能となります。
この特別解約権は、法律解釈が伴いますので、弁護士の協力を得て金融機関と話し合うことが必要となります。ただ、金融機関と対立関係となってしまうと以後その金融機関と取引をすることが難しくなる可能性があり、企業の事業承継実施後の付き合いができなくなる可能性もあるので、交渉は対立関係にならないよう慎重に行う必要があります。
◉後継者の信用強化の必要性
このように企業の事業承継の際には、代表者様が負担してきた、保証人としての地位や差し入れている担保を解約するための手続きや交渉が必要となるケースがあります。
たに事業を起されたり、先代様から事業を引き継ぐなどしてから、保証人等の負担を負いながらずっと事業を育ててこられた代表者様が勇退されて、悠々自適な時間を過ごされるために保証人の負担を免れることは、当然の権利ということもできるのではないでしょうか。
そのため、保証人の負担を免れるための手続きも事業承継においてはとても大きな、意味のある手続きであると言えます。
そして事業承継のために保証人等の負担を免れるために、最も自然な形は後継者が連帯保証人等に就くことであると言えます。代表者様がそうであったように会社と一蓮托生になって経営を進めていくことが会社の代表者としての一つの覚悟・責任であると言うことができるためです。
BY S.K
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