◉資金確保の1つの方法として生命保険の活用
そこで、どのようにして事業承継のタイミングで会社に資金が入ってくるようにするかという方法が問題となりますが、ここで生命保険を活用するということが1つの方法として可能となります。
どのように利用するかといいますと、保険商品の中には、会社が掛金を掛けながら、解約時に解約返戻金を受け取ることが可能な保険商品があります。具体的には、長期標準定期保険、逓増定期保険、養老保険などです(がん保険の一部にも解約返戻金があるものがあります)。
この返戻金を受け取り、事業承継直後における会社の運転資金としたり、退職金として活用するということができます。このようにして生命保険を利用して企業の事業承継時に生じる売上減少対策や退職金の支出に備えることが可能となります。
もちろん、保険商品の利用のためには一定期間保険料を支払い続ける必要があるので、事業承継手続きが進んでしまってから利用を検討するのでは、時間的に利用が難しくなってしまうこともありますが、実際に事業承継手続きの検討をはじめてから事業承継手続きを完了させるまでには、長い時間を要することが通常です(後継者の選定や教育、株式や事業用財産の把握や後継者がこれらを買取るための資金調達、許認可の承継手続きなど)。
そのため、事業承継手続きをスタートする時点から、将来の資金調達を見込んで生命保険に加入するということでも手続きにかかる時間などを考慮すれば、十分に間に合います。
このように事業承継手続きを始めるにあたっては、将来の資金調達の必要性も見越して保険商品の購入・見直しを検討することが円滑な事業承継実施のための1つの方法として検討することがおすすめできます。
また、言うまでもなく、保険料は商品や保証の内容、被保険者の年齢や健康状態によって大きく異なってくるので、どのような保険が事業承継計画との整合性が期待できるかは商品の選別が必要となります。信用することができる保険会社に相談し、最適な保険商品を選ぶことが重要です。
◉保険商品活用の最終的な目標から事業承継計画を考える
このように、企業の事業承継実施後のことを見越して、保険商品を利用することが可能となります。ただ、生命保険を活用することの最大の目的は、事業承継後の経営者交代による売上落ち込みや退職金の支払いなどのためです。
このように保険金利用の目的ははっきりしています。そのため、可能であれば、事業承継の実施前から後継者を取引先や金融機関に紹介し、経営の多くを任せるなどによって、経営者交代による影響を軽減すること、また、経営者様も可能な限り個人資産を貯蓄されて、退職金支払い額をへらすなどにより会社経営を圧迫しないように配慮することなどで二重、三重に企業の事業承継を円滑に進めることが期待できると言えるでしょう。
BY S.K:企業の事業承継に取り組む行政書士