現在、政府の財政収支の改善と日銀の大規模な金融緩和などにより、日本の国債市場の流動性が縮小し、金利の変動幅が大きくなっていると言われている。

このような、大きな金利変動により金利の水準感を見失う恐れがある。そのため、マクロのファンダメンタルズや政策要因に基づいた分析で、金利のフェアバリューがどのあたりにあるのか認識しておく重要性が極めて高い。そこで以下では「マクロのファンダメンタルズ」「金融政策」の両面から、日本国債の金利のフェアバリューの水準を試算してみる。

マクロのファンダメンタルズとしては、柱が二つある。一つは、貨幣経済そのものの拡張を左右するネットの資金需要、トータルレバレッジ(企業貯蓄率と財政収支の和、GDP対比)であり、もう一つが内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIとなっている。

他方で、金融政策要因については、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)が、分析の2つの柱となる。

加えて、海外要因として、グローバルな金利水準を示す米国債10年金利を使えば、日本の国債10年金利(長期金利)がうまく推計できることがわかっている(1988年からのデータによる4四半期移動平均)。

長期金利 = 0.017 + 0.020 中小企業貸出態度DI + 0.73 政策金利 - 0.066 (トータルレバレッジ+日銀当座預金残高変化) + 0.99 LN(米国長期金利)、R2= 0.98

上のモデルは4四半期移動平均ベース(季節性が強すぎるトータルレバレッジが4四半期移動平均ベースでしか分析できないため)の安定的関係を示したものであるが、各説明変数(トータルレバレッジ以外)にスポットのデータを入れれば、スポットの長期金利の推計値(フェアバリュー)が得られる。

2015年1-3月期(平均)では、中小企業貸出態度DIが+13、政策金利が0.07%、トータルレバレッジ(GDP比)が-3.8 %、日銀当座預金残高の変化(GDP比)が+14.0%、そして米国長期金利が2.0%程度とすると、長期金利の推計値は0.3%程度となる。

今回計算して得られた数値は現在の水準に近く、変動が大きいながらも、金利はフェアバリュー近辺で動いていることがわかる。

フェアバリュー近辺であるということは、昨年の消費税率再引き上げ延期の決断や格付け機関の日本国債格下げの後でも、日本の財政ファイナンスに対する不安がほとんどないということでもある。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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