ギリシャ支援交渉が難航
5月12日に迫った国際通貨基金(IMF)からの融資9億5,000万ユーロの返済期限を前に、ギリシャ支援交渉が難航していることでギリシャのユーロ離脱懸念が高まり、金融市場のおもしになって来ている。
専門家の間からは、ギリシャのユーロ離脱によって世界経済が再びリーマン・ショック並みの危機に見舞われる、ユーロは1ユーロ=0.9ドルまで下落するなどといった悲観的な声も出て来ている。
ギリシャが実際にデフォルトに追い込まれるのか、ユーロから離脱するのかは定かではないし、それが現実となった場合にユーロ安がどこまで売られるかも「神のみぞ知る」の世界であり、誰も正確に予測することは不可能である。ユーロに関して忘れてならないことは、ユーロは分裂した場合「ドイツが含まれるグループの通貨が相対的に強くなる」という宿命を負っていることである。
2010年のギリシャ危機発覚以降、ギリシャなど財政破綻懸念国をユーロから切り離すという主張が繰り返されて来た。ユーロがドイツなど財政健全国だけの統一通貨になればユーロは安定するはずだという理屈である。しかし、ことはそれほど簡単ではない。なぜなら、ユーロをどのように分割しても、最も経済的にも財政的にも安定しているドイツが含まれるグループの通貨が、他方のグループの通貨よりも強くなるからである。仮にギリシャをユーロから離脱させた場合、ギリシャの新通貨はユーロに対して安くなることはほぼ確実だといえる。
これは、ギリシャにお金を貸しているドイツなどの債権国からしたら、ユーロ換算貸付債権の価値が通貨安分だけ減価することを意味する。反対に、ユーロ建ての債務(借金)を抱えているギリシャからみると、自国通貨安・ユーロ高によって債務が大幅に膨らむことになる。こうなれば、デフォルトは避けられない。つまり、単純なギリシャのユーロ離脱は、資金を貸している債権国にとっても、資金を借りている債務国にとってもメリットの少ない選択肢だといえる。
ギリシャがユーロに残るか残らないかに関らずにデフォルトが避けられない状況なのであれば、少しでも債権毀損と債務拡大のリスクを減らすという共通の目的を達成するためには、ギリシャをユーロに残留させる方が債権国にとってもギリシャにとっても有利な選択になるはずである。
日本のメディアでは、ギリシャがデフォルトを避けるためにIMFやEUと条件交渉をして駄々をこねているかのような報道がされている。しかし、ギリシャの財務相と直接討論をした著名エコノミストの報告によると、実態は必ずしもそうではない可能性がある。ギリシャ政府が目指しているのは「ギリシャは破綻している」ことを前提に破綻処理を進めていくことであるのに対して、IMFやEUは「ギリシャはまだ破綻していない」という前提で再建策を作り上げようとしているということである。
ギリシャが自国を破綻していると認めているのは、債務の返済が不可能だからである。一方、IMFやEUが破綻を認めたがらないのは、破綻処理によって金融機関が多額の損失処理を迫られることで金融システムに影響を及ぼしかねないからである。また、ギリシャの望みどおりに破綻を認めたら、その他の財政脆弱国の中からもデフォルト申請する国が現れかねず、そうなった場合にはようやく立ち直りかけて来た金融システムが崩壊の危機に瀕することになりかねない。