また、ギリシャのユーロ離脱という事態はドイツにとっては不都合なものでもある。ドイツはギリシャなど財務脆弱国と統一通貨ユーロを採用していることで経済的恩恵を受けている。それは、「自国の経済力に対して 弱い通貨 を持つ」ということである。「自国の経済力に対して 弱い通貨 を持つ」ことのメリットは、日本が敗戦から70年代初頭まで1ドル360円、308円という「自国の経済力に対して弱い通貨を持つ」ことが出来たことで、輸出主導で世界第二位の経済大国になるまで高度成長を果たしたことからも明らかである。

もし、ドイツがユーロに参加せずに、自国通貨マルクを維持していたとしたら、マルクはユーロに対して相対的に強い通貨であった可能性が高い。「自国の経済力に対して弱い通貨を持つ」ことで経済的メリットを受けているドイツにも、財政脆弱国をユーロから離脱させるインセンティブがあるわけではない。「自国の経済力に対して弱い通貨を持つ」ドイツは、ユーロ安傾向が続く中で輸出競争力が高まり、その結果、ドイツのDAX指数は史上最高値を更新して来た。

しかし、ここに来て市場でギリシャのユーロ離脱懸念が高まって来たこともあり、ユーロは買い戻され、ドイツのDAX指数も調整して来ている。これは、ギリシャのユーロ離脱が現実となれば、それによってユーロが相対的に強くなることと、それに伴って「自国の経済力に対して 弱い 通貨を持つ」ドイツの優位性が薄まることを反映した動きだともいえる。

ギリシャのユーロ離脱懸念が叫ばれているが、結果はともかく、ギリシャがユーロ離脱せずにデフォルトした場合に起きることを想像することと比較すれば、ギリシャがユーロを離脱した方がいろいろな可能性が検討しやすいといえる。

経済力も政治体制も異なる19か国が、政治面での独立を維持しながら金融政策と通貨を統一するという人類始まって以来の壮大な実験は曲がり角にさしかかって来ている。そして、それによって世界経済や金融市場にどのような影響が出るのかを正しく推測することは人類には困難である。なにしろ人類初の実験なのだから。

投資家が肝に銘じておかなければならないことは、ギリシャがユーロ離脱に追い込まれたらユーロが下落するといった単純な方程式が成り立つと思い込まないことである。

近藤駿介 (評論家、コラムニスト、アナザーステージ代表)
約20年以上に渡り、野村アセットを始め資産運用会社、銀行で株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資等様々な運用を経験。その他、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・運用責任者を務めたほか、投資信託業界初のビジネスモデル特許出願を果たす。現在は、 「近藤駿介流 金融護身術、資産運用道場」 「近藤駿介 In My Opinion」 「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」 などを通じて、読者へと金融リテラシーの向上のための情報発信をおこなう。

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