世界経済を未曾有の危機に陥れた金融危機からはや7年が経過しようとしている。「震源」である米国では、多くの金融機関が経営破綻し、生き残った金融機関にも莫大な金額の公的資金が注入された。
「大きすぎて潰せない」金融機関への批判が高まり、ハイリスク・ハイリターンで巨額の利益を上げる金融取引への監視の目が高まったのは記憶に新しいが、金融当局はこの7年間、巨大金融機関に対し手をこまねいていたわけではない。
G20、バーゼル銀行監督委員会、各国金融当局が中心となり、安定的で持続可能な国際金融秩序を再構築すべく、様々な法規制の枠組みが整備されてきた。
そして2015年7月21日、これまで導入が延期されてきたボルカー・ルールがいよいよ施行される。グローバル金融の歴史的転換点となりうるボルカー・ルールの影響を我々は決して軽視すべきではない。
ボルカー・ルールとは?
ボルカー・ルールとは、2010年7月に成立した米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)の中核となる銀行の市場取引規制のことを指す。
世界不況を引き起こした2008年秋のリーマンショック後、バブルを膨張させて儲けてきた米金融界の取引が危機の元凶となったとする見方が広がり、米議会で金融規制の強化が検討され、1930年代の大恐慌以来の大規模な金融改革と言われる同法が誕生した。オバマ大統領の呼びかけにより、ポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長が提唱したことが名前の由来である。
巨大金融機関のビジネスモデルに致命的なダメージ
ボルカー・ルールは様々な面で金融取引を規制するが、なかでも影響が大きいと見られるのは「自己勘定トレーディングの禁止」だ。
自己勘定による債券売買取引などは銀行にとって多大な利益を生み出す反面、市場がひとたびパニックに陥れば、金融機関自身に与える損失も多大なものとなる。その「ツケ」を米国の一般納税者が負担する事態となった反省を踏まえ、規制が強化される運びとなった。
一方で、ボルカー・ルールが与える影響は決して楽観視されるべきではない。自社のビジネスモデルに致命的なダメージを与える事が明白であるからこそ、巨大金融機関は政治的圧力を用いて施行を遅らせてきた。