祖父の功績を利用し、祖父が拒否した提案で平和に貢献する?

安倍総理が安全保障政策の変更に関して、1960年の日米安保条約改正が「抑止力として長年にわたって日本とこの地域の平和に大きく貢献してきた」ことを繰り返し強調するのは、日米安保条約改正を行ったのが祖父である岸信介元総理大臣だったこともあるように思います。

個人的にはこうした事実を利用し、自らも「日本とこの地域の平和に大きく貢献する政治家」であるというイメージを与えるための小道具のように思えてなりません。

安倍総理の祖父である岸信介元総理は、世論が二分するなか日米安保条約改正に踏み切りました。しかし、岸元総理は国内世論や集団的自衛権の行使に該当する恐れがあるという理由で、条約区域を「太平洋における双方の領土、施政権下にある地域」へ拡大するという米国の提案を拒否し、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方」に止めさせました。

「歴史が証明している」ことは、岸元総理のこの決断によって、日米安保条約改正が「長年にわたって日本とこの地域の平和に大きく貢献」することが出来たように思えてなりません。

今回安倍総理は、祖父である岸元総理が懸念した集団的自衛権の行使の憲法解釈を拡大し、条約範囲を全世界にまで広げる決断をしました。つまり、条約範囲を限定することで「長年にわたって日本とこの地域の平和に大きく貢献」して来た1960年の安保条約改定による成果を、条約範囲の拡大の根拠に利用しているということです。安倍総理のこうした論理構成には無理があるように思えます。


国民の皆様にはっきり申し上げた?

「3回の選挙戦で私たちはお約束をしてきて、そして昨年の7月1日の閣議決定を受けて、そして総選挙において速やかに法整備を行うと言いました。そして、12月24日総選挙の結果を受けて発足した第3次安倍内閣の組閣に当たっての記者会見において、皆様も覚えておられると思いますが、平和安全法制は通常国会において成立を図る旨、はっきりと申し上げております。国民の皆様にはっきりと申し上げたはずであります」(首相官邸HP 平成27年5月14日 「安倍内閣総理大臣記者会見」)

記者会見の質疑応答の中で、安倍総理はこのように述べ、今回の安全保障政策の変更は「国民の皆様にはっきりと申し上げて来たことだ」という見解を示しました。

確かに「12月24日総選挙の結果を受けて発足した第3次安倍内閣の組閣に当たっての記者会見」では冒頭発言のなかで安全保障政策について述べています。

しかし、衆議院解散を表明した11月21日の記者会見の冒頭発言の中では、全く安全保障政策については述べていません(質疑応答の中では発言)。それどころか、冒頭発言の最初に「本日、衆議院を解散いたしました。この解散は、『アベノミクス解散』であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります」(官邸HP 平成26年11月21日 「安倍内閣総理大臣記者会見」)と述べており、12月24日の総選挙で問うのは「アベノミクス」、つまり経済政策であると明言しています。

もし、安倍総理が本当に安全保障法制を解散の争点として、国民に信を問うつもりがあったのであれば、冒頭発言できちんとそのことを示す必要があったはずですから、争点ぼかしの総選挙であったという批判を受けてもしかたないように思います。

筆者は、憲法を時代に合ったものに改正して行くこと自体は自然の事であるとは思っています。そして、憲法改正を実施するのは、政治の強い意思が必要だということも理解しています。しかし、出来るならば憲法改正は冷静に客観的な判断が出来る内閣の手で行ってもらいたいと思っています。

安倍総理の今回の記者会見は、安倍政権がそのような期待に応えられる内閣ではないことを明らかにするものでありました。

近藤駿介 (評論家、コラムニスト、アナザーステージ代表)
約20年以上に渡り、野村アセットを始め資産運用会社、銀行で株式、債券、デリバティブ、ベンチャー投資、不動産関連投資等様々な運用を経験。その他、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・運用責任者を務めたほか、投資信託業界初のビジネスモデル特許出願を果たす。現在は、 「近藤駿介流 金融護身術、資産運用道場」 「近藤駿介 In My Opinion」 「元ファンドマネージャー近藤駿介の実践資産運用サロン」 などを通じて、読者へと金融リテラシーの向上のための情報発信をおこなう。

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