エイズの治療薬として活用されてきた「ザイアジェン」として販売されているアバカビルが、白血病の一種である「成人T細胞性白血病(ATL)」にも有効である可能性を指摘する研究が発表されて注目を集めた。

京大の研究チームが明らかにしたこの成果は、特定の疾患向けの治療薬が、別の疾患にも有効であることから、適応の異なる疾患でも治療に活用されることが想定される。こうした動きは「ドラッグリポジショニング(DR)」と呼ばれるが、どのように進められているのだろうか。 前回 に引き続き、DRがどういうものなのか紹介していく。


DRの進め方とは?

医薬品の研究開発を進めるDRの方法では、2通りが知られている。一つ目は、医薬品の本来標的とする分子以外にも作用する分子を探すことである。医薬品は特定の分子を標的として期待する薬効を発揮する(オン・ターゲット)のが基本だが、本来の標的分子以外にも時には作用することがあり(オフ・ターゲット)ある。その多くは悪影響で、これがいわゆる副作用となる。

オフ・ターゲットとして発見されたものとしては、胎児への催奇形性が原因で発売中止となった「サリドマイド」が上げられる。サリドマイドは本来の睡眠導入剤としての薬効(オン・ターゲット)の他に、胎児の手足の血管の増生を妨げるというオフ・ターゲットとしての機能(当時は知られていなかった)があった。このオフ・ターゲットは癌が拡大する際の血管増生を妨げることが発見され、現在では多発性骨髄腫の治療薬になっている。

二つ目は、医薬品の本来のターゲット分子(オン・ターゲット)を別の疾患に応用するということである。疾患はそれぞれ異なった症状を呈し、一つの疾患には多数の分子が関わっていることが知られている。しかし、一つ一つの分子は、別の疾患の成り立ちにも関わっていることが知られている。

こうした医薬品と病気の相互関係を明らかにするのが、分子レベルの疾患研究だ。同種の研究が進めば、まだ有効な治療薬が発見されていない疾患でキープレーヤーとして機能している分子が、実はまったく思いもしない他の疾患でもキープレーヤーとして機能していると判明する可能性もある。その場合には、全く別の疾患の治療用医薬品が利用できる可能性をすことができるということだ。過去の事例を挙げると、例えば、乳癌治療薬として利用されていたエストロゲン受容体調節薬であるラロキシフェンが、骨粗鬆症の治療に使われるようになっている。