回復基調にある日本市場のM&A
国内独立系M&Aブティックのレコフの調べによれば、日本企業のM&A件数は2007から2010年にかけて減少傾向をたどりましたが、2011年と2012年は増加傾向に転じています。2013年は減少に転じましたが、日本企業間(IN-IN)のM&A件数は増加しており、中小規模の案件を中心に底堅く推移しています。
ロイター通信によれば2013年のM&Aの金額は前年比27%の減少に転じましたが、夏以降は5000億円超規模の大型案件が増え回復基調を見せました。
1985年以降のマーケット別M&Aの推移
(出典:
株式会社レコフ
)
2013年からの円安を背景に日本企業の海外企業買収は減ったもの、海外投資機関による日本企業株式の取得が増えました。
こうした機関投資家の参入により、今後日本企業への余剰資金の配当や再投資、成長への圧力が高まると考えられます。こうした市場の速い変化に対して、「時間を買う」という側面を持つM&Aは、経営問題の解決策として増加していくと予想されます。
M&Aニュースはどう読むべきか?
こうしたトレンドを受けて、読者の皆様の保持している銘柄が買収・被買収企業になる可能性も高くなると考えられます。M&Aは、企業の機密情報として当事者間だけで議論され、水面下で進行します。その発表は大型案件であればメディアには大々的に取り上げられる一方で、比較的中立的な評価がなされる傾向にあります。そのため多くの個人投資家にとって、こうした銘柄に対してどのようなポジションをとるべきか判断しかねるのではないかと私は考えました。そこでM&Aがもたらす投資リターンと、買収成功の可否についての思考枠組みを提供したいと思います。
また本稿で議論するM&Aの「成功」および「失敗」は、M&Aが成立したことを前提として、その投資リターンが株主の利益につながったか否かを問題としています。
海外の研究結果が示すM&Aの投資リターン
M&Aの投資リターンは、欧米において多くの研究業績があり、次のような事がわかっています。
1. ターゲット企業の短期リターンは非常に高い一方で、買収側の企業の短期リターンは正負あり総じて0である(買収側からターゲットへの価値の移転が起こる)。
2. 買収企業の株価ベースでの3〜5年の長期リターンは総じてマイナスである。
3. 買収企業の財務指標(ROA,ROEなど)で測った長期パフォーマンスは、M&A後に減少傾向をたどる、あるいは市場の平均を下回る。
一般的なイメージと違い、現実のM&Aは成功しにくい事業投資であると言う事ができます。M&Aは市場全体でみれば失敗の方が多く、成功する理由を探すより、まず先に失敗する理由 を探る方が現実的であると言えます。