正しいM&Aの動機とロジック
M&Aの動機として、正しい動機の一つとして数えられるのが「戦略的経営資源の獲得」です。戦略的資源とは、買収企業の経営戦略にとって重要な資源のことであり具体的に以下のような資源を指します。
○経営統合による規模の経済獲得
○他社の持つ特許、ライセンスの確保
○他社の研究業績の獲得、R&D活動の統合
○海外企業の販売網、地域ネットワークの確保
これらの資源は非常に重要度が高く、その他の手段(業務委託、ラインセンス付与、事業提携など)では、業務管理や機密保全などの観点から、十分に確保できない物であると言えます 。他方、自社で一から開発・発展させていくより、市場で調達して「時間を買うこと」に明確なメリットが存在している場合、これらの資源獲得のための買収は非常に有効になります。
例えば武田薬品がナイコメッドの買収によってR&D活動の連携や欧州での販売網を獲得した事や、ソフトバンクがウィルコムとイー・アクセスを買収して周波数帯を確保した事は、戦略的資源の獲得の好例であると言えます。
投資ポジションを決めるための最終的なチェック項目
これまでの議論をふまえ、現実にM&Aのニュースを目の当たりにしたとき、投資家は何をチェックするべきでしょうか。必要な質問事項をここでは列挙したいと思います。
その1:M&Aの戦略は、企業の長期的な経営目標と合致しているか
中核事業の目標に合致しないM&A戦略で経営資源を浪費しようとしていないかが問題です。
その2:獲得しようとしている経営資源は何か?
経営資源の獲得が経営目標にとって、合目的かつ重要であるか。また、M&Aの動機として正しいかが問題です。
その3:シナジーの所在はどこにあるか?
シナジーがコスト削減効果を見込んだものであれば売り、成長を見込んだものであればハイリスク・ハイリターンの投資として買いです。
その4:M&Aは最適な手段か?
M&Aの失敗のリスクを考慮すればこそ、その企業がとりうる他の投資手段や機会と比べて最適であるかを問うべきです。
こうした点を、手に入る情報源から素早くチェックし、短期のイベントリターンを利食いするか、ハイリスク・ハイリターンの銘柄として長期保有するか否かを判断するべきです。
また突然のイベントリスクに備えて日頃から保持している銘柄の企業に対し分析ないし監視をしていくことが必要であるとも言えます。企業の実態面に目を向け、ポートフォリオのメンテナンスを定期的に行うことが大切なのではないでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。やや抽象的かつ包括的な話で、これだけでは現実の投資判断への応用が難しいかもしれません。その点については今後個別銘柄の企業分析を行い、本稿での応用問題を扱うことも検討しております。皆様の堅実な投資にお役にたてれば幸いです。
BY 三角友幸:2012年まで神戸大学の大学院に在籍し金融政策を専攻。現在はCFA取得に向け勉強中。