(写真=PIXTA)
5月の米住宅着工件数は、冬場の落ち込みから抜け出した先月までの反動で2ケタ減。ただ拡大する雇用と賃金及び低金利に支えられ、回復基調に変わりはない。
当面はこのよい流れが続くだろうが、利上げ以降は今以上に内需が後退し、労働市場の縮小を通じて住宅投資にも悪影響が及びかねない。利上げ前後の変化に注目が必要だ。
前月までの反動減も、回復基調は維持
米商務省発表の5月住宅着工件数(季節調整値の年率換算)は11.1%減と3カ月ぶりに前月割れ。構造と地域の内訳を見ても、すべてマイナスに陥っている。それでも103.6万戸と、堅調さの目安とされる100万戸を2カ月続けて上回った。
こうした変動の激しさや、天候等の影響で建築開始時期がずれる場合があることを考慮し、平均値(3カ月後方移動平均)も見ておこう。
下記を見ると冬場の悪天候による不振から脱却していることがわかる。
1月:0.2%、2月:-3.1%、3月:-3.6%、4月:3.8%、5月:5.7%
この傾向は内訳にも表れており、全体の7割を占める主力の一戸建ては4.6%増、マンションなどの集合住宅も8.3%増と、いずれも2カ月連続で拡大。厳冬だった北東部が60.0%増と3カ月続けて大幅に伸び、中西部の15.3%増、西部の4.7%増は2カ月続けての押し上げとなっている。
つまり、単月では底割れが激しかったものの、一時的な調整にすぎず、トレンドとしては冬期の低迷から抜け出し復調しつつあるといえよう。
労働市場拡大と低金利の支えで住宅投資は堅調
金融引締めの傾向にも拘らず、労働環境が改善し続けていることから、住宅市場も回復を持続できているようだ。14年度前半、同後半、15年度4~5月について平均値をとり、その流れを確認してみよう(マネタリーベースとダウ平均株価、平均時給は前月比、企業収益は前期比、失業率と住宅ローン金利は実数)。
量的緩和終了以降、マネタリーベースは0.6%、0.1%、-0.5%と当然減速している。それに伴い、個人消費や設備投資は後退し始め、ドル高で輸出も停滞し、生産活動も低迷して来て、企業収益は5.8%から-3.6%と悪化(15年度データは未発表)。それを反映し、ダウ平均株価も0.6%、0.8%、0.4%と伸び悩む。
ただ、このように需要縮小で企業業績や株価が頭打ちになっても、雇用や賃金はそれらに遅れて動くので、依然拡大している。失業率は6.1%、5.6%、5.5%と低位推移し、平均時給も0.12%、0.23%、0.20%と上昇を持続。
また事実上のゼロ金利維持で、30年固定型住宅ローン金利も4.18%、3.84%、3.76%と低下。このように、生活に余裕が生じ、住宅ローンを組みやすい環境にもあるため、住宅市場は概ね広がりを見せてきたのだ。
基本的には、金融引締めの方向になれば、個人消費や設備投資と同様に住宅投資も後退し始め、それが企業業績や株式市場にも悪影響を及ぼすはずだ。
ただこれまでの所は、労働市場が遅れて拡張している時期であり、低金利が維持できているため、住宅市場に関してはその悪いサイクルに陥らずに済んでいるといえよう。