「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっている」。
黒田総裁のこの発言を受けて、6月10日の為替相場は大きく動いた。124円だった円ドルは15分で1円50銭も急騰し122円台半ばをつけた。
「円安けん制」かと市場に捉えられたこの発言。そもそも日銀総裁が為替に言及することは異例である。また「実質実効為替レート」という耳慣れない用語が使われたこともあいまって、その発言の真意をめぐっては憶測が飛び交った。そもそも黒田日銀総裁が使った「実質実効為替レート」とはどのようなものか。
実質実行為替レートとは?
「ドル円」などの、通常目にする二国間の為替レートは「名目為替レート」である。また「実効為替レート」というものがある。単に二国間だけではなく、多国間における通貨の強さを見るもので、それぞれのレートを貿易額等で加重平均して求める。一定基準時(たとえば2000年)を100とした指数として表示される。
二国間の「名目為替レート」、多国間の「実効為替レート」、ともにそれぞれの国の物価変動の影響を受けた数値である。
その影響を取り除いたものが、二国間においては「実質為替レート」であり、多国間のものが黒田日銀総裁が言及した「実質実効為替レート」である。つまり、「実質実効為替レート」とは、物価変動を除外した多国間における通貨の強さをあらわした指数である。対外競争力を適切に表したものとされている。
黒田発言の意図とは?
黒田総裁は、なぜあの発言をしただろうか。16日「名目ベースで円安を望んでいない、円安にならないと言ったわけではない」と釈明した。実質実効為替レートについても「名目為替レートの先行きを占うものでない」「先行きの為替の見通しに使うことは難しい」と述べた。
また19日にも「このところの為替レートの水準や先行きについて何か申し上げたということではない」と重ねて釈明を行った。黒田総裁が述べたのはあくまで「実質実効為替レート」についてであり、それが「名目為替レート」と連動するものでないという。確かに黒田総裁の言う通りではある。
しかし相場に影響を与えかねない、あるいは誤解を与えかねない発言を、観測を求められたからとはいえなぜ行ったのだろうか?その背景には「実質実効為替レート」の数値の推移、および日本のおかれている現状があると思われる。
実質実効為替レートは、BIS(国際決済銀行)が、毎月発表している。2000年を100とした際の日本の数値は、2014年11月および12月に69ポイント台を記録した後、2015年に入ってからは70ポイント台を回復した。
ただ、底打ち感があるとはいえ、その数値は集計を行っている61カ国中で最低であり、世界で最も通貨が弱くなり対外競争力が低下した国は日本との結果が出続けている。黒田総裁の一連の発言は、こうしたレートの動きを踏まえたものであるのは間違いない。