よく「晴れの日は株価が上がりやすい」と言われますが、これはどの程度正しいでしょうか。本稿では、行動ファイナンスにおいて多くの研究の蓄積がある「天候と株価」についての代表的な先行研究を紹介します。
「天気が良い日は株価が上がりやすい」又は「天気が悪い日は株価が下がりやすい」という投資家の非合理的行動を報告する研究は多い一方で、アプローチに問題もあります。
問題点を踏まえた秋山ら(2010)の研究報告で使われた、従来の「天気と株価」の分析ではない「人工市場における雨音による効果検証」を取り上げ、それを元に更なる研究のアプローチを提示します。
◉行動ファイナンスにおいてポピュラーな研究分野
行動ファイナンスにおいて天候から株価を予測しようとする試みは、簡単な分析から複雑なものまで多く存在します。但し、後で紹介するように「天気→株価」といった単純な関係は出にくくなってきており、その研究手法は複雑かつ不透明化(複雑で効果の高いモデルほど表に出てきにくい)してきています。
◉よく言われる天候と株価の関係
天候と株価の関係について世界的に最も有名な先行研究はHirshleifer & Shunmway (2003)です。これは世界の26都市の天気を元に、1982~1997年の各都市の所属国の平均株価の日次収益率を検証し、「晴れの日は株価が上がりやすい」事を実証したものです。この論文は英語で、かつ計量経済学の素養が必要ですが、オンラインで無料で読む事が出来ます。
日本で有名な先行研究は加藤英明らによるもので、加藤・高橋(2004)や加藤(2004)があります。こちらは日本の株式市場についてHirshleifer & Shunmway (2003)の結論を補完するものですが、「日本の主要な株式トレーダーは東京に多い」事実を元に「東京の雲量」を元に株価を予測するアプローチを取っている事が興味深いです。加藤(2004)の方は一般読者向けに出版された本で、気軽に読みやすいものです。
従来の先行研究を最も単純化したものには、ニッセイ基礎研究所のコラムである伊藤(2013)があります。図1は、天気別のTOPIXの平均日次収益率(前営業日終値から当終値営業日終値の収益率)が集計されたものです。どの天候でもt値の絶対値が2より小さい事に注意しなければなりませんが、雨・雪の時に株価が下がりやすい傾向が分かります。
図1:天気別のTOPIXの日次収益率
出典:伊藤(2013)
◉最近の傾向と既存研究の問題
伊藤(2013)からも分かるのですが、 最近の株価は単純に「天候が良い(悪い)から株価が上がる(下がる)」といった傾向は出にくいです。 (前述の結果は統計的有意性は乏しいです。)
図2は加藤(2004)を元に作成した図ですが、 日本の株式市場の日次収益率は、バブル以前と以後で大きく傾向が変わっています。 図1で見たように、2000年以降は雨・雪の日ですら日次収益率の絶対値が0.1%程度と小さく、「明日の東京の天気は晴れだから、今日の終値で株式を購入しておこう」といった単純な戦略で利益を出す事は極めて難しい状況になっています。
図2:東京の雲量と日次収益率
出典:加藤(2004)より作成
また、絶対的な株価水準が誰にも分からない以上、「晴れの日に株価が上がる傾向がある」と言っても、それが本当に天気の影響であるかという証明は出来ていないという問題点もあります。(天気と株価の相関関係が偶然である可能性が残されているという意味です。)