◉雨音というアプローチ
天候と株価の関係を純粋に抽出する為の研究アプローチとして人工市場における取引者に「雨音」を聞かせて効果を検証する報告(秋山ら, 2010)があります。 これは、人工市場(仮想的な株式市場を作り、被験者に模擬的に株式取引をしてもらう実験市場)において株式投資のシミュレーションをする過程で、雨音を流す場合と流さない場合によって、株式取引量と株価にどの程度変化が表れるかを検証する実験です。(被験者が真面目に模擬取引するように、模擬取引で高いリターンをあげた上位10被験者に賞金を与えるという実験経済学で主流の方法が取られています。)
実験では、被験者を2グループに分け、90秒を1期とした10期に渡るデイトレードが2回行われています。1度目の実験では両グループに通常の実験を行い、2度目の実験では片方のグループに雨音を聞かせ、もう片方のグループには対照実験としてクラシック音楽を聞かせています。
クラシック音楽を聞かせたグループでは取引量・取引価格に明確な差が出なかった一方で、雨音を聞かせたグループでは、通常時と雨音時で取引量・取引価格に差が出ています。 図3は結果をまとめたものですが、雨音がある時の方が平均取引価格・取引量・バブルの規模全てが低下する傾向が見られています。
図3:雨音市場における対照実験との比較
出典:秋山ら(2010: 16)
◉更なる分析の余地
一連の研究を見る中で、天候が投資家に何らかの影響を与える可能性は存在すると仮定しても良いと思われますが、一方で、それを投資戦略に利用するには単純な「雲量」だけでは不十分である可能性が高いです。天候と株価の研究が有名になった事により、こうした現象が価格に反映されるようになってしまった可能性があるからです。
天候と株価を実用的なものにするには、当該国の雲量だけでなく海外投資家を考慮して海外の天候を分析に入れたり、他にも湿度や気温、前日との天候差など別のアプローチで検証する事で、新たな天候アノマリーを見つける事が可能かもしれません。
秋山ら(2010)の研究では「雨音」が投資家に影響を与える可能性が示されていますが、実際の天候においては「雨音」以外にも「湿度」や「明るさ」、「気温」など様々な要因があるので、効果を分解して考えるというアプローチは十分に有り得ると思います。また、行動ファイナンスでは「差異」に着目する事が多いですが、前日との天候差を考慮する方法も有り得ると思います。例えば、晴れが続いている日よりも、雨天日の翌日の晴れの方が株価を押し上げる効果が高いかもしれないからです。
参考文献
[1]
D. Hirshleifer and Shumway T., “Good Day Sunshine: Stock Returns and the Weather”, The Journal of Finance, Vol. 58-3, pp. 1009-1032, 2003.
[2]
秋山英三らバブル取引班(2010)「雨が株価に与える影響:社会工学における戦略的思考」[未公刊]
(PDF)
[3]
伊藤(2013)「投資と天気の意外な関係」ニッセイ基礎研究所:研究員の眼
[4]
加藤英明・高橋大志(2004)「天気晴朗ならば株高し」『現代ファイナンス』Vol. 15, pp. 35-50
[5]
加藤英明(2004)『天気と株価の不思議な関係―行動ファイナンスで市場を読み解く』 東洋経済新報社
BY たけやん:経済学修士号取得後、株価推定事業・研究を行っている
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Kathleen Tyler Conklin
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